夜の森に現れるもの
ここはT駅近くの森。
いや、近くとは言っても、10分は歩くことになる場所にそれはあった。
おもに住宅ばかりの立地に大きなゴルフ場があり、その近くには森があった。ゴルフ場があるおかげで、大きく遠回りしなければ借りているアパートまで帰れないのだ。
「くっそ、だからゴルファーとヤニカスは嫌いなんだ」
俺はそんな独り言をつぶやきながら──森の中を通る道路を歩く。
湿気を含んだ森の匂い──土と、枯れて落ちた葉っぱが堆積してできた腐葉土の匂いだ。
どいつもこいつも自分のことしか考えていない、だからこんな場所にゴルフ場なんて作るんだ。明らかに場違いだろう。土地の余っているど田舎に作れ。
「くっそ」
またタバコの吸い殻を踏んだ。
ここは街灯がなく、真っ暗な中を、道の先にある街灯のある場所まで歩かなければならなかった。
ぐにゅっとした感触。
本当に気持ち悪……いや、待てよ? いま踏んだ物は、本当に吸い殻だったろうか? タバコよりもう少し大きな物だった気がする……
俺はスマホを取り出して、懐中電灯アプリを使ってみた。一度気になり出すと、確認しないと気持ち悪い。
俺は少し戻って、道路に落ちていた物を確認しようとする。
周囲には奇妙な臭いが満ちていた。森の臭いの中に……嗅いだことのない、獣か何かの臭いが感じられた。
アスファルトの道を照らしていると、落ちていた白い物を何かがさっと拾い上げる。
今度はゆっくりとした動きで、それが上に持ち上がって行く。俺の頭上よりも高い場所でそれは止まり、むしゃむしゃと音を立てている。
「なっ、なっ、なんだ……?」
3メートルくらいの高さの所に、大きな緑色の手と顔があった。手も顔も、どちらも相当に大きい。
ゆっくりとした動きで手がだらんと下がると、腕が長く、地面に付きそうなほどで、そいつの脚は短く、膝を曲げた格好で立っていた。
そいつは緑色の肌をした──巨人に似た化け物だった。こんな大きくて醜い人型の生き物は、映画や漫画でしか見たことがない。
『うフフゥ、生きた人間だァ』
それは、はっきりとした口調で言うと、ぎょろりとした大きな黄色い瞳で俺を見て、不気味な分厚い唇を青色の大きな舌でべろりと舐め──木々の間から、道路に出て来ようと動き出した。
俺は素早く反転すると、元陸上部の快足で、暗い道を全力で駆け抜けて逃げる。
『まァあぁぁてぇエェぇぇェ!』
ドス、ドス、ドスッと重い足音を響かせながら、そいつは追いかけて来る。
俺は恐怖し慌てていたが、こんな時に取り乱してはならないと肝に銘じていた。
「焦って仕損じれば、2度目はない」
陸上部で顧問の先生が言っていた言葉。
試合に臨むときほど冷静になって行け、気持ちは熱く、心は冷静に。そんな指導を徹底していた。
大丈夫。足音は俺よりも遅い、どんどん音は離れていく。
『くゥそぉおおォ、おぼエてろぉおォ──』
そんな言葉と共に、俺を追って来ていた重い足音は──だんだんと遠ざかり、消えていった。
ちらりと後ろを振り向くと、森の中の闇に溶け込んでいく緑色の肌。
街灯の下までやって来ると、俺は呼吸を整えながら森の方を睨んでいた。
どうやら奴は追って来るのを諦めたらしい。
いったいあれは何だったのか、それはわからない。
けど、この体験以来、俺は森の近くを通るのを避けるようになったのだった。
トロルかな? トロルじゃないよ。 ○○だよ。




