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怪奇異譚~KAIKI・ITANN~  作者: 荒野ヒロ


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手招く女

 これは、登山好きな友人にれられてN県にある山に登山をしに行ったときの出来事です。

 正直言って私は山登りに興味もないし、自然の中を歩くことにも無関心な二十歳のOL。

 私の友人は大学から付き合いのある滝沢春臣たきざわはるおみ。男性です。


「付き合いのある」と言っても──()()()()()()ではなく、腐れ縁的な友人で、今回の登山も本当は、春臣の恋人の「橋宮沙耶はしみやさや」を連れて山に登るつもりだったそうですが、彼女は数日前に曾祖母そうそぼの葬式に行かなくてはならなくなり──急遽きゅうきょ、私が行くことになったのでした。


「ごめん、桜。私の代わりに行ってくれない? ほら、春臣だけだと、なんか心配で……」

 沙耶はそう言って私に頼み込むので、私は渋々──N県まで電車に乗ってやって来たのです。


「いい天気だ。絶好の登山日和(びより)だね」

 そう言って春臣はバスに乗り込み、これからの予定をざっくりと説明してくれた。

 ……私も、今回の登山のスケジュールを事細かに説明する気もないし、日帰りの強行スケジュールの中で起きた──不思議で、危なかった出来事についてのみ話そうと思います。




 私と春臣が山頂までたどり着き、下山しようと山を下り始めたときに、それは起きました。


 岩ばかりの足下に注意しながら、点々と生えたこけや高山植物の間を通って、広々とした場所に出たときのことです。

 春臣は広くなった地面の先にあるがけの方を見て立ち止まりました。

「呼んでる……」


 そんな言葉をつぶやくと、春臣はとぼとぼと崖の方に歩き出すのです。まったく躊躇ためらうことなく、雲のある方を見つめながら歩いて行く彼の姿を見て、これは()()()と直感しました。


「春臣ッ!」

 私は春臣の背負っていたリュックを引っ張って、崖に向かう彼を手前に引きずり倒しました。


「うわぁっ、何するの~」

 地面に尻餅をついた春臣がうらめしそうな声を上げ、こちらを見上げる。

「あんたが崖に向かって歩いて行くからでしょ! 何考えてんのよ!」

 すると、春臣は「ぇえ?」と頭を押さえる。


「そう言えば……何か、女の人の声が聞こえて、『おいで……おいで……』って、手招きしている人が──あっちから……」

 彼が指さした方向は、崖の向こう薄雲がかかる空しかない空間。

 春臣は急に怖くなったらしい。


「なんで向こうに行こうと思ったんだろう。……自分でもわからないけど、──よく知っている人に呼ばれたみたいな気がして……」

 私たちはその後、急いで下山すると、山のことは一切語らずに電車が来るのを待つため、ホームの椅子に腰掛けていました。


 そのとき携帯電話が鳴り、春臣は折りたたんである携帯を開いて、画面に表示された「沙耶」の名前を見せてくる。

 嬉しそうに携帯に出た春臣だったが、急にその表情がくもった。

 私は不安になり電話を切った春臣に、沙耶に何かあったのかと尋ねたが、彼は慌てて首を横に何度も振る。


「いや、違うんだ……さっきの手招きしていた女の人の声──そういえば、沙耶の声にそっくりだったんだ……」

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