表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/203

獣は獣道を行かん⑦


 アルカの言葉はナイフのように彼女の奥深くへと突き刺さり、彼女の動きを完全に止めてしまった。


「……私が、魔物……?」


 信じられなくて呟いたレリルの声があまりに乾いていたので、アルカは犬歯を覗かせ、くっくと笑ってしまう。


「そうさ。レリルが核になってくれれば世界マナリムは救われる。だからお前の【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】の代わりに、俺がやってやろうと思ったんだよ。なあレリル、お前が『人を守ろうとする』性格だってのはなんとなくわかった。だから死んでくれるだろ?」


 キリリッ……


 アルカが弦を軋ませ、再び弓を引く。


 レリルはその動作を眉ひとつ動かさずに見つめ、ゆっくりと瞬きをした。


 ――マナを溜め込んだ魔物……私が? 私が死ねば……世界マナリムは消えない……?


「アルカ……教えて。アルカの【監視人】は無事ってこと? 私が死ぬことで世界マナリムが救われる……それは間違いないの?」


 アルカがぴくりと耳を動かして、止まる。


「……ああ、そういやそんな話にしてたな。安心しろよ、俺は四級になったときから【監視人】は連れてないさ。――んで、この【ネスメイラ迷宮】は、かつて世界マナリムと繋がろうとして造られたって迷宮だ。だからお前がここで核になって世界マナリムと繋がればいい――俺はそう思う」


 アルカは目の前の『魔物』が、突然落ち着いたように見えることに――顔には出さなかったが――少なからず驚いた。


 死を前に、もっと怯え、震え、牙を剥くと思っていたのだ。


 けれど、彼にとっては都合がいい。


 自分の使命が、これほど容易く叶うとは――と、アルカは笑いが止まらない。


 しかしレリルはアルカとはまったく別のことを考えていた。


 ――だからハイアルム様は魔物って言わなかったんだ……。


 本当に自分が『マナの生命体』だとしたら、それが彼女の優しさだったのではないかと胸の奥が熱くなる。


 ――クロートが辛そうだったのは、私がそれを知ったらどう考えるのかわかっていたから――だった……?


 今度は胸がぎゅっと痛くなって、レリルはゆるゆると腕を下ろし魔装具を消した。


 ――クランベルさんの言うとおりだ。私、クロートのこと、本当に信じてなかった……。


 勿論、いまの話だけではそれが真実なのかわからない。


 けれどレリルはクロートがそう考えたのだと、いまは素直に信じることができた。


 ――クロートは怒るかもしれないな。でも、私が世界マナリムを救えたら、クロートやレザは安心して生きていけるってことで……。


「……なんだ、観念したのか?」


 黙ったまま動かないレリルに、アルカは尾を振ってみせる。


 レリルは新芽のような黄みがかった翠の目で、まっすぐにアルカを見据えた。


 ――なら、私が選ぶ道はひとつだ。


「……どうせ死ぬなら知っておきたい。アルカ……私はまた『リスポーン』するの?」


 その瞳の力強さに、アルカは蒼い目を眇め思わず息を呑んだ。


 ここでその目ができるのは、やはり『特別』だからか――彼はそう思った。


「……は! いいぜ、その『自己犠牲の精神』に免じて答えてやろうか。お前が膨大なマナでできているなら、おそらくしないさ。……また『リスポーン』するだけのマナは放出されやしないはずだからな」


 レリルはそれを聞いて俯き、目を閉じる。


「そう……。何度も死ねばいいんじゃないかなって思ったけど……それは駄目なんだね。なら、私は……世界マナリムの寿命を延ばすだけになるよね?」


「――それでも世界マナリムは救われる。少なくとも数十年、もしかしたら百年は。その間に誰かがなんとかするだろ、きっと。【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】はそのためにいるんだからな」


 アルカはきっぱり言い切ると、目の前で俯いたままの少女に情けをかけた。


「……なにか言い残すことは」


 魔物だと思っていても、やはりどこか情がわいたのかもしれない。アルカは少しだけ自嘲する。


 レリルはそんなアルカに向けて、苦笑してみせた。


「……じゃあクロートに……私が監視してる【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】に……『勝手してごめんね』って。彼と一緒にいるレザには、『生きて』って」


「了解。……せめて痛みなく送ってやるよ。――心臓を射貫く」


「…………」


 ――ああ、本当に終わりなんだ。


 レリルはその瞬間を、とても長く感じた。


 ――もう少しクロートやレザといたかったな、なんて……いまさらだけど。


 つらくて悲しくて恐いこともあった。


 それでも……短い時間でもともに歩んできたことが、確かにレリルの胸に火を灯している。


 ――誰かに必要とされたいって思ってたけど……本当は私が必要としていたんだ――。


「――動くなよ」


 レリルは頷いて、閉じた瞼に涙が滲むのを感じた。


 ――やっぱり、死ぬのは……嫌だなぁ……。


 アルカの腕が、しっかりと弦を引き絞り矢を放つ――瞬間。




「させるかあぁぁッ!」




「……ッ、な! しまっ……!」


 アルカは弓を弾かれ、結果、すでに放たれようとしていた矢の軌道が僅かに逸れたのを感じた。


 突如現れた濡羽色に艶めく黒髪の少年が、後ろからアルカの弓を斬り上げたのである。



本日分です!

夏休みのかたも多いかな、おやすみのおともに、逆鱗のハルトもいかがでしょうか!


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ