獣は獣道を行かん⑥
ヤールロックたちは、仲間が何体核になろうと攻撃を緩めることはなかった。
舞い上がった瞬間に身を翻し急降下してきた一体の嘴を盾で防いだレリルは、次に繰り出されるかぎ爪を剣で跳ね飛ばす。
「っらぁ!」
アルカは次々と矢を放ち、魔物を一撃のもとに撃ち落としていく。
勿論彼の身のこなしも素晴らしく、前方へと転がってヤールロックのかぎ爪を躱し、そのまま上体を仰け反らせて後方に矢を射ることで仕留めてみせたりもした。
さすが三級の【迷宮宝箱設置人】だと、レリルは舌を巻く。
しかし怪鳥の数が多く、アルカはじりじりと壁際まで後退を余儀なくされる。
レリルはそんなアルカに襲いかかろうとする怪鳥に、歯を食い縛って剣を突き込み続けた。
……どれくらいそうしていただろうか。
「……やるなぁ、想像以上だ」
アルカが落ち着いた様子でそうこぼして、にぃ、と笑った。
レリルは肩で息をしながら首を振る。
「はあ、はあ……アルカは、さすがだね……」
「……」
アルカは応えずにくくっと喉を鳴らし、レリルを見据えたまま蒼い目をぎらりと光らせた。
レリルは、その暗く冷たい炎が宿った瞳にびくりと身を堅くする。
――この目……レザが――狩人として見せた瞳と同じ……?
彼女の本能がそうさせたのかもしれない。
一歩だけ後退ったレリルに、アルカは再び喉を鳴らして笑った。
「いまのでヤールロックは最後だな。――まいったな、本当にまいった」
「アルカ……?」
「ここで『核になってくれれば』それでもよかったかなって思ったんだよ。さすがに十日も一緒にいたんだ、情がわいたのかもな! っは! 俺としたことが驚きだ!」
「な、なんの話……?」
レリルはそう言ってから、はっとして盾を構えた。
カァンッ!
瞬間、アルカの放った矢がレリルの盾にぶち当たり、甲高い音を立てて跳ねる。
「あ、アルカ……ッ!?」
「そら、逃げろよレリル。……ただ、約束は守ってやるから安心していいぞ。まぁ……俺が話している間に死ななければ、最後まで聞けるって条件だけどな?」
「な、なに……きゃっ!」
ビュッ、と空気を裂いて、レリルの耳元を矢が掠めていく。
わけもわからずレリルはじりじりと後退した。
アルカはレリルよりも上にいる。必然的に、彼女は下へ下へと進むしか選べない。
体が震え、嫌な汗が滲む。
――アルカは私を狩ろうとしてる……? どうして?
レリルは呼吸が浅くなるのを必死に整えながら、小さく「やめて」と呟いた。
けれどアルカは灰色の耳をピンと立て、犬歯を見せて笑いながらゆっくりと弓を引く。
「――四級になった【迷宮宝箱設置人】は【監視人】の秘密を知る。……簡単な話さ、お前たち【監視人】のなかにハイアルム様が創った『魔物』が紛れ込んでいるってだけ」
レリルはアルカの話に息を呑んだ。
――魔物? アルカはなにを言ってるの――?
ビュンッと弦がしなり、レリルの構えた盾に衝撃が走る。
一段が決して高くない階段だったことが、レリルが足場を確保する助けとなっていた。
これが急な階段であれば、彼女はアルカの矢を受けることができなかっただろう。
「その魔物はマナをたんまりと溜め込んでいるらしい。ハイアルム様がそう創ったんだよ、世界のためにな」
カァンッ
次の矢が当たり、盾が右側へとわずかにずれたところに次の矢が飛んでくる。
「うっ……!」
左肩を矢が掠めてぱっと血が散るさまが――彼女の視界の端に映った。
どうやら毒は塗ってないらしく痙攣は起こらない。
けれど……レリルは下唇を噛み、ばくばくと鳴る己の心臓が破裂するのではないかと震えた。
「へぇ……血は赤いんだな。ほら、ちゃんと防がないと死んじまうぞ?」
アルカはレリルとの距離を保ちながら、ゆっくりと前進してくる。
迷宮内はいつの間にか風がなくなっており、土埃と獣の臭いが混ざり合ったような空気が僅かの揺らぎもなく溜まっていた。
息苦しさがそのせいなのか、それとも自分が混乱しているからなのか、レリルには判断ができない。
「俺はさ、レリル。世界を守りたいんだよ。だって【迷宮宝箱設置人】はマナを循環させるのが仕事なんだぜ? 目の前に素晴らしい循環方法があるとわかったら、やるに決まってないか?」
――わからない。アルカが、なにを言っているのか。
レリルは首を振り、後退を続ける。
……彼女は、恐いと思った。
自分がアルカの弓から逃れられるはずがなく、ここで死んでしまうのかと思ったら――どうしようもなく。
レリルはどうすればいいのかわからず、呻くように口にする。
「――アルカがなにを言いたいのか、わからない……」
……そこでアルカは初めて弓を下ろした。
そのあいだにどうにか呼吸を整えようと、レリルは必死で喘ぐ。
「わからない? そうか、そうだよな。じゃあこう言おうか。お前の【迷宮宝箱設置人】がお前に隠していること――それが答えなんだよ」
「……え?」
「レリル。お前が『マナの生命体』……すなわち魔物ってことを隠してるんだよ、そいつ。お前を殺すか悩んでる甘っちょろい奴なんだ!」
「……ッ!」
レリルは目を見開いた。
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