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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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85/203

より深きを知るなれば②

******


 静寂に満ちた聖櫃せいひつ


 それはハイアルムにとってのゆりかごであり、繭であり、棺である。


 彼女は冴えた月の蒼色をした長い髪を白い指先で弄びながら、ソファにゆったりと腰掛けていた。


 ――さて、どうやらクロートとレリルが戻ったようだの。


 彼女は長い睫毛を伏せたまま、どうしようかと思案する。


 まだ五級に上がったばかりの彼らが今回どのような報告を持ってくるのか――彼女は少しばかり楽しみにしていた。


 世界マナリムの異変が重なったせいで、彼らが経験することは長く生きているハイアルムですら唸る興味深いものばかりであった。


 その世界マナリムが牙を剥いてからは二カ月近くが経過している。


 各地のマナレイドにより引き起こされた『レイドボス』のリスポーンを始めとしたマナの生命体の異常発生は、冒険者たちの手で次々と沈静化されている――つまりマナへと還されている――が、残っている強力なマナの生命体はまだまだ多い。


 人の消費するマナは多く、このままでは世界マナリムが溶けて消えるまでの時間は削られていくだろう。


 そもそも世界マナリムは呼吸していて、迷宮はその主要な呼吸器官であった。


 マナの生命体が命を失うとき、その体を構成していたマナは迷宮に溶けていく。


 残されたマナの結晶は核と呼ばれ、迷宮内に放っておけばやがてマナへと還るのだが、人々は核を持ち帰り燃料として使用する様々な技術を生み出した。


 迷宮外で溶けたマナもやがては世界マナリムへと還るのだが、それには時間がかかる。


 ただでさえ、非マナ生命体はマナへと還るのが遅いというのに――だ。


 けれどもし――もしも膨大なマナの塊が、迷宮内でマナを循環させる歯車となるのなら。


「…………」


 そこでハイアルムは絹のような髪を弄る手をとめ、つ、と金の双眸を細める。


 ――来たようだの。


 血色のよい小振りの唇を開き、『ノーティティア』を統べる者は訪れた【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】とその【監視人】を部屋へと招いた。


******


「よくぞ戻った、待っておったぞ」


 ハイアルムに言われて、クロートは彼女の前まで歩み寄った。


 レリルもその後ろに慌てて追従する。


 真っ白ながらんどうとした部屋はいつも通りで、ハイアルムのいるソファまで続く足が埋まりそうなほど毛足の長い絨毯も、変わらぬ柔らかさを保っている。


「とりあえず仕事の報告から。それから、父さんの話が聞きたいんだけど」


「――せっかく戻ったというのに……お主、妾と話すのがそんなに嫌かの?」


 挨拶もなく本題に入るクロートに、ハイアルムはわざとらしく哀しそうな表情を作り出す。


 幼く見える容姿と相まって普通なら同情しそうなものだが、クロートは腕を組むと唇を尖らせた。


「あんたが真面目に話すなら聞いてもいいけど?」


「ふは……お主、本当にガルムに似てきおって……。まあよい。……レリル、報告を」


 ハイアルムはその返しが気に入ったらしく、頬を緩めるとレリルに向かって右腕を伸ばした。


「はい、ハイアルム様!」


 はらはらと見守っていたレリルはその言葉に即座に反応し、古めかしい本を収束させる。


 恭しく差し出されたそれを、ハイアルムはいつものように『読み』始めた。


 ――本当、マナの光って綺麗だよな。


 クロートはその間、おとなしく待つしかない。


 どうでもいいことを考えていると浮かび上がった淡い光は消え、ハイアルムはフーッと息を吐き出した。


「……今日も疲れてたりするのか?」


 珍しい光景にクロートが聞くと、ハイアルムはきょとんとしてから苦笑いした。


「あぁ……いや、今日は迷宮のマナを読んだりはしておらぬ。【メルゴモル迷宮】にファンブリールというのがちと気になっただけでな……とにかくマナレイドが起きたのは間違いなかろう。――狭い場所での戦闘を選択したのはよい判断よの」


「じゃああれはやっぱりレイドボスだったってことか」


 クロートが納得したように呟くと、ハイアルムはほんの少しだけ顎を上下させた。


「そうなろうの。ファンブリールが『リスポーン』するとなれば、難易度は格段に跳ね上がる。やはり警戒は必要だの」


「ホブゴブリンの行動についてもマナレイドの影響だって考えられるか?」


「……いや、それはまた違う。――ふぅむ……まあ、よかろう。クロートよ、より深きを知りたいか?」


 突然ハイアルムが話を切り替えたので、クロートは思わず眉をひそめる。


 ――より深き? なんの話だ?


 彼女は動きを止めたクロートをただじっと見ているだけ。


 試すような視線がちくちくと肌を刺し、クロートは身動いだ。


 ちらと目だけで見れば、レリルも同じように眉をひそめている。


「とりあえず……知ることが必要なら、どんなに深い話でも」


 クロートが答えると、ハイアルムはゆっくりと頷いてレリルを見た。


「【監視人】レリルよ。一度、席を外してもらえるかの?」




25分ですー!

よろしくお願いします!

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