より深きを知るなれば①
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少しの休憩を挟み、外に出たクロートたち。
ホブゴブリンたちは屋敷の玄関まで一緒にやってきたが、扉をくぐろうとはしなかった。
「……ここでお別れなんだね」
レリルがそう言って、ホブゴブリンの大きな紅い目を覗き込む。
『キャ!』
彼らにはわかっているのだろうか。
ホブゴブリンたちはぺこぺこと頭を垂れ、レリルの手に触れ、左右に広い口をますます横に引き伸ばす。
笑っているのだとクロートが思ったときには、彼らはレリルから数歩距離を取っていた。
「……またね」
そう言ったレリルに、レザが目を閉じて背を向ける。
――またね、か。
そんな日が来るのかクロートにはわからない。
クロートは宝箱を設置したし、その情報が出回れば……おそらくは冒険者がやってくる。
そのときに彼らがどんな行動に出るのか――そう考えると、彼の手のひらには嫌な汗が滲んだ。
クロートは体の側面で手のひらを拭うと、雲が晴れつつある空を仰ぐ。
もうそろそろ日が落ちるだろう。
暗くなる前には迷宮から離れておくべきだ。
「……女の子」
「うん」
レザに呼ばれ、レリルは立ち上がるとクロートたちの近くにやってくる。
ホブゴブリンたちはそれを見届けると、迷宮の奥へと姿を消した。
彼らをここに残すことが、いいことなのか悪いことなのか……クロートには判断できない。
これも世界によって引き起こされた、異変なのだろうか。
――レリルは、どう思ってるんだろう……。
「……」
無言で彼女を見詰めるクロートに、レリルは口元に笑みを浮かべてみせる。
「――どうしたの? 変な顔して」
「は? いや、変な顔って……」
「あんたは元々変な顔だよねー」
「おい、レザ……お前、その言い方はないだろ……」
思わずため息混じりに返すと、先を歩いていたレザが肩越しに振り返った。
「――ねえ、女の子。喧嘩しないで済むならそれでいいんだけどー……でもね。もし少しでも牙を剥くなら、俺は狩っちゃうよ。そのときに、止めに入るようなことしないでねー。次も同じだとは思わないでほしいんだー」
紡がれた言葉は、まさにクロートが思っていたことだ。
「……!」
一瞬動きを止めたレリルから、クロートは視線を外す。
確認しなければならないことなのはわかっている。
しかしなぜか――彼女の苦悩を見るのは嫌だった。
けれど。
「……うん。そのときは、私も戦うよ、レザ」
驚くほどきっぱりとレリルは言い切った。
クロートが息を呑むと、前を歩いていたレザが足を止める。
「――え、いいの?」
どうやらクロートとレザは同じ気持ち――彼女が躊躇うのではと思っていた――らしい。
レリルは目をぱちぱちすると、眉をひそめた。
「牙を剥くなら応戦するよ。だって戦わなきゃクロートやレザが傷付くかもしれないし」
『……』
クロートとレザは意味もなく顔を見合わせ、どちらからともなく苦笑する。
レリルは彼らが思うより、もっと単純に――誰かを守りたいという気持ちで――動いているのかもしれない。
……ホブゴブリンには知能があった。
だから人と手を取り合おうなどと考えたのだとしても、ほかのホブゴブリンが同じだとは限らないことをちゃんと頭に入れておくべきで。
勿論ホブゴブリンに限ったことではないのだけれど、彼女がわかっているのなら、それでいい。
さう思ったクロートがはぁーとため息を付いたところに、レザが大袈裟な動作で空を仰いだ。
「なんか拍子抜けしたー、俺ー」
「え? 私、なんか変なこと言ってる?」
「むしろ言ってないから驚いたというか……」
レザに返したレリルに、さらにクロートが顔をしかめて唸る。
レリルは首を傾げてから、なんともいえない複雑な顔をした。
「――なんか馬鹿にされてる気がする」
「気のせいだろ」
「気のせいじゃないー?」
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クロートたちは、ニーネス――九の月の終わりにルディア王国の王都へと帰ってきた。
世界が牙を剥いてから二カ月近くが過ぎており、王都はだいぶ活気を取り戻している。
陽気な声で冒険者を呼ぶ商店や、笑顔を交わす住人たち。
世界がこのままでは消えてしまうことを、なにひとつ知らない無邪気な命だ。
クロートはなんとも複雑な気持ちでそれを眺めながら『ノーティティア』本部へとたどり着いた。
三人は受付ですぐに部屋を割り当ててもらい、荷物を置くと報告に向かうことにする。
レザは『アルテミ』への報告。
クロートとレリルは勿論、ハイアルムへの報告だ。
ガルムのこともあり、もしかしたらなにか進展があるのではと知らず気持ちが逸っているのもあって、クロートは腹に力を入れた。
予定がぎっしりで一日空いてしまいました!
よろしくお願いします!




