狩人たちはかくありき①
ガルムは頭をガシガシすると、深いため息をつく。
クロートのことは、自分の息子ながらこうなるかも知れないと予想していたことだ。
その可能性については、すでにハイアルムと話しているからいいとして――問題なのは『アルテミ』である。
ガルムが一緒に行けるのであれば、そうしたい。
しかし彼は別の迷宮調査に『ひとりで』出ることに決めていて、しばらくは単独行動するつもりだった。
とはいえ、今回の迷宮の難易度は彼らの等級に対してはるかに高く、クロートとレリルだけで赴くことは無謀以外のなにものでもない。
そのため行かせるのであれば『アルテミ』に同行させるのが一番いいのだが、はたして彼らはひよっこ同然のクロートとレリルを連れていってくれるだろうか。
――行くなっつって聞く奴じゃねぇからなぁ。
どう理由を付けようかと考えを巡らせるガルムだったが、はたして。
「女の子、一緒に来るのかー? やった! 俺、賛成! いいよね、アル?」
俄然うきうきとし始めたレザが、丸めていた体を伸ばす。
ガルムは予期せずして向こうから発せられた言葉に、ぽかんと口を開けてそれはそれは間抜けな顔をした。
「――それは頼もしいの、レザとやら。ふたりを守ってやってはくれまいか?」
ハイアルムがからかうように声をかけると、レザはぎゅっと肩に力を入れたあとで、唸るように口にする。
「べ、別に、あんたのためじゃないしっ」
「ふは、わかっておる」
口を横一文字に結んで顎を引き、警戒心を隠そうともしないレザ。
ハイアルムは噛み殺しきれなかった笑いをこぼし、頷く。
そのときクロートは『ふたり』と言われたことに密かに――本人がそう思っただけで、顔には盛大に不満が浮かんでいた――憤慨していたが、声音にはおくびにも出さずに言った。
「こっちだって父さんもいるし、お前には頼らないけどな」
ところが。
「――あー、悪ぃなクロート。俺はちと別の仕事で外す」
「ええっ!?」
被せるガルムに向けて、情けない声を上げたクロート。
彼の左隣でレリルも一瞬だけ眉をひそめたが、なんとなくそうなるのでは……と思っていたため、そこまで驚きはしなかった。
クロートとレリルがガルムに届けた書状を読んでから、ガルムの言動や行動に少しだけ違和感を感じていたからだ。
「――説明はあとでする。いいな、クロート? ……そういうわけだ『アルテミ』。うちのふたりを同行させてやってくれないか。そっちのチビ助も喜んでるみてぇだし?」
それまで黙って聞いてくれていたアルは、ガルムに話を振られて額のバンダナを擦った。
「さっきそこの……レリルも言っていたが、まずはどこの迷宮なのか聞いてからだ。それまで判断できない。……それから、見たところ戦うことはできるようだが、どの程度かは試させてもらう。――レリルの得物はなんだ? ナイフか?」
「ああ、そりゃそうか……すまねぇな。【ダルアークの迷宮】――一番深くに、黒龍が眠る洞窟だ」
その迷宮の名に、クロートとレリル、アルは驚愕し、三者三様、焦った様子を見せる。
レザは首を傾げたが、ガルムは迷宮の危険さが概ね伝わったことに満足しつつ続けた。
「心配すんな、黒龍は最近討伐された。しばらくは『リスポーン』しねぇよ。蘇るまでは数カ月ある」
【ダルアークの迷宮】とは、ガルムが説明した通り最深部に黒龍が生息する自然迷宮だ。
龍は魔物のなかでもとりわけ凶暴、かつ好戦的で、強靱な鱗が体表を覆っていると聞く。
子供向けの物語には、名を馳せた冒険者たちが龍と戦うものも多かった。
……それだけ知名度の高い魔物ともいえるだろう。
そして、その核は凄まじい力を秘めているらしく、国ひとつ動かしかねないほどの価値があるとさえ言われている。
噂ではここ、迷宮大国ルディア王国の生命線は、龍の核を動力に維持されているそうだ。
「――それは……いや、確実な情報なんだな。わかった」
応えるアルに、ガルムはさらに付け加える。
「それから、うちのクロートはそこそこ戦えるぞ。足りねぇのは経験だ。レリルもだが――ハイアルム」
「よきかなよきかな。レリル、お主の得物を見せてやるがよいぞ」
ハイアルムがソファーに体を深々ともたせかけ、ゆっくり瞬きをしてみせた。
その肩にかかる冴えた月の色をした髪がさらりと滑り落ちる。
「わかりました、ハイアルム様」
レリルは頷くと、両手を前に突き出した。
「――収束」
「…………!」
そこに吸い寄せられるように、マナが淡い黄みがかった光の尾を引きながら集まっていく。
レザが息を呑みながら身を乗り出したところで、集まったマナはレリルの手の中で剣と盾の形を描いた。
「……これが、私の武器です」
「は、驚いたな。まさか――」
「うっわ、女の子やるねー! 俺と同じだ!」
呟いたのはアルだが、その声はレザがテーブルに跳び乗らんばかりに立ち上がって叫んだ声にかき消されてしまった。
「えっ、同じって……」
「ほら」
思わずレリルの口からこぼれた言葉に、レザはさっと手を振った。
「……ッ!」
その瞬間……レリルだけでなく、クロートも息を呑む。
レザの上半身、紅いシャツの下に着込んでいた黒いぴったりとした服が消えたのである。
顕わになる、少年にしては鍛えられたしなやかな体躯。
けれどそこには、無数の傷痕が走っていた。
薄皮を切り裂き、その下の肉をほんの少しだけ傷付け、それが痕になったようなもの。
戦慄がクロートの体を駆け抜け、彼は呼吸を忘れ、呆然とレザを仰視してしまう。
血は出ただろうが、決して死には至らない――拷問以外のなにものでもないそれは、彼の黒い服が『魔装具』であり『マナ術』でもあることよりも衝撃的だった。
「安易に脱ぐなと言ったはずだ、レザ。簡単に『魔装具』であることをバラすのもよせ」
アルはため息交じりにそう言うと、大袈裟に肩をすくめてみせる。
「一週間後の祈祷祭が終わってから出発だ。この時期、町には掘り出し物が多い。魔装具も売りに出ているからな。……それから、出発までに一度戦い方を見せてもらいたい。とりあえず、いまはこの条件でどうだ」
少し落ち着きつつあるので、更新ペースも戻していけるかと思います!
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