第13話 その殺し屋、教えてもらう②
思わず訊き返す。当然だけど、記憶にはない。
「ええ。ですが、ある日を境に急に熱が引き、回復なさったように見えました。けれど……その頃から、今度は輝石が、まったく反応を示さなくなったのです。その異変に、『神聖を失われたのでは?』という声が上がりはじめましたわ」
「輝石が反応しない……?」
私は首を傾げる。
私の反応を見たアメリアは、「はい」と頷いた。
「お嬢様はその後、神官様に診ていただきましたの。その方が言うには、神聖のゆらぎはまだ継続しているとのことでした。神聖自体も決して消えたわけではなく、〝一時的に沈静化している〟状態で、それに伴い魔力の流れが滞り、輝石との繋がりが弱まっていると仰っておりましたわ」
輝石、魔力、流れ、そのワード達を聞いて、漸くこれまでの話の内容にピンと来た。
これは、ゲーム〈アルカナ∽クォーツ〉の魔力システムの話だ。
これまでの話を聞く限り、神聖と言うのは、魔力に関わりがあるもののようだ。そう言えば、ゲームのサフィラはとても強い魔力を持っていた。つまり、彼女の強い魔力の源が神聖……?
(なんだろう、あと少しで思い出せそうなのに。頭にモヤがかかってるみたいだ……)
「そしてちょうどその頃、王宮からお茶会のお誘いが届きましたの。奥様は一度お断りするおつもりでしたが……お嬢様ご自身が、行くとおっしゃったのですよ」
「……私が?」
「ええ。三日前のことです。…そして、今日に至っておりますわ」
こちらも当然記憶にない出来事だ。
これまでのアメリアの話を聞いた限り、お茶会に出席している場合ではないと思うのだけれど。
三日前の私……前世の記憶が蘇る前のサフィラは、何を思ってそう答えたのだろう。その時だ。
――キーーーーン……
(あれ、耳鳴り…? ううん、気のせいか)
私が一瞬の耳鳴りに気を取られていると、アメリアはメイド服のポケットに手を差し入れる。そして、薄黄色の結晶体を取り出した。
硬質で不揃いな形。まるで自然のまま切り出された氷柱のような、無造作な美しさを湛えているそれを見て咄嗟に、
「大地の輝石……!?」
私が思わず呟くと、アメリアは安堵したように微笑んだ。
「ええ、その通りです。では、このまま魔力と輝石についてご説明させていただきますわね。…お嬢様、これを」
そう言いながら、アメリアは手にしていた輝石をそっと私の前へ差し出した。
私は少し躊躇いながら、それにそっと触れる。すると、ひんやりとした石の感触に続いて、かすかにぴりっと静電気のような刺激が走った。
(これが本物の大地の輝石! すごい……!)
ゲーム〈カナ∽クォ〉で何度も目にした、魔法アイテム。その現物を手にしているという実感に、少しだけ気持ちが高ぶる。
「……こちら大地の輝石は、ご覧の通り原石のままのコモン輝石です。街の道具屋で入手出来る一般的なものですわ」
アメリアは、チラリと目配せを送ってきてはそのまま話を続ける。
「神秘の輝石と呼ばれる、この聖なる石は、私たちの生活に不可欠である〝魔法〟を使用する為の触媒です。私たち人間は皆、大なり小なり〝魔力〟が体内に流れております。……そのことはご理解できておりますか?」
私は、小さく頷く。アメリアはその様子を見て「流石でございます」と、優しく微笑んでくれた。
「魔力とは血液のようなものです。ですが、体内の魔力をそのまま放出しても、形にはなりません。輝石という触媒を介してはじめて、魔力は具現化し……〝魔法〟となるのです」
アメリアは手元にある輝石を横目で見ては、一呼吸を置く。
「そして、血液に型があるように、魔力にも型がございます。この、大地の輝石の型……属性は土です。他にも、火・水・風・雷・光・闇とございます。基本的には、生まれ持った魔力の属性と同じ属性の輝石と相性がよいと言われております」
私はアメリアの説明にうんうんと頷く。
魔力の仕組みや属性については、〈カナ∽クォ〉の知識が役に立つ。頭の中で整理しやすい内容だ。
魔力には相性があって、
火は土に強くて、土は風に強い。
風は水に強くて、水は火に強い。
で、闇と光はお互いに弱くて火、水、風、土に強く、
雷は光と闇に強いけど火、水、風、土に弱い…だったかな。
昔は覚えるのに苦労したなあ。
(そういえば、サフィラの魔力属性ってなんだっけ?)
「では、お嬢様。この大地の輝石に魔力を流し込んでみてください」
そんな事を考えていると、アメリアは手元にあった輝石をそっと持ち上げ、私の掌の上に優しく置いた。
ひんやりとした感触が伝わってくる。反射的に、その小さな石を握り締めるが、
「……え、魔力って、どうやって流すの?」
私がそう尋ねると、アメリアは「ご安心を」と優しく微笑んだ。
「私がレクチャーいたしますわ。では、お嬢様――失礼ですが、少しばかり、お手を拝借いたします」
アメリアはテーブルの横にそっと立ち、私の手を取り、てのひらにある大地の輝石をそっと包み込むように、自分の手を重ねた。
その瞬間、私はほんの少しだけ息を呑む。
アメリアの手には、昨日馬車の乗り降りをする際に何度か取ってはいたし、その時から薄々と思ってはいたけど……。
(アメリアの手指、が長い。それに……思ってたより、少し大きい?)
前世では、相手の体格を見抜くのが得意だった私。でも、今の私は小柄な少女。
そう言ったこともあり、この身体から測る、〝縮尺〟を掴みかねている。だから、そう感じるだけかもしれない。
関節の浮き方も、しなやかなのに骨ばっており、触った感じもゴツゴツして硬質だ。――でもメイドは、力仕事もするみたいだし。きっと、こんなものなのだろう。
私の手をすっぽり包み込むそれに、安心感と同時に、一抹のそわそわ感が残る。
そう思った矢先、きゅっと少しだけ強く握られ心臓が跳ね上がった。
「……大丈夫、ご緊張なさらないで。手のひらにある、輝石に集中してください」
囁くような声と共に、アメリアの親指がそっと私の指の付け根を撫でた。
「ッ!?」




