↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その聖女、前世は魔女と呼ばれた殺し屋でした  作者: 蟹三昧
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/59

第10話 殺し屋の後悔、白き王子の誓い②




【騎士団視点・三人称】



 王宮の一角、王宮騎士団・執務室の扉が静かに閉じられる音が響いた。


 窓の外には夜の(とばり)が降り、室内には鈍く揺れる燭台の光がわずかに灯っている。


 その中心に立つのは、王宮騎士団を束ねる男――ヘリオドール・フォン・ベリロス卿。


 金色の瞳が淡い光を反射しながら、報告書に目を落としていた。


「……亡くなっていた、だと?」


「はい。見張りの者の報告で、拘束していた男達が牢内で絶命しているのが確認されました。首から大量の出血――頚動脈を斬られたのでしょうな」


 落ち着き払った様子で、淡赤紫色の髪をした中堅の男性騎士…どこか飄々とした口調の持ち主が答える。


「……むごいな。して、犯人は?」


 ヘリオドール卿は、淡々とした声音でそう呟いた。表情はほとんど変わらない。


 ただ、その瞳の奥には、わずかに警戒の色が滲んでいた。


「追求中です。……はぁ、お陰で事件の黒幕はわからず仕舞いですよ」


 飄々とした騎士はやれやれと言いたげに、肩をすくめる。


「賊の身元はまだ判明していませんが、遺体の一部に刺青(いれずみ)のような文様(もんよう)がありました。さらに……」


 ニヤリと笑みを浮かべ、騎士は懐から小さな封付きの布包み――証拠袋を取り出す。


「身体検査の際、内ポケットから奇妙な紙片が見つかっております。……ご覧の通り焼け焦げてはいますがね」


 男からその紙片を受け取ったヘリオドール卿は、じっと目を細めながら、それを指先で丁寧に広げた。


 焦げ跡に縁取られたそれは、わずかな文字を辛うじて残していた。


「……古式文字(こしきもじ)か」


 卿が低くつぶやいた後に、騎士は唇の端をわずかに吊り上げて答えた。


「ええ。〝かの国〟の人間が好んで使うやつですな。……用途は不明ですが、暗号文書の類かと」


 そこまで聞いたところで、ヘリオドール卿は静かに目を伏せた。指先で紙片の角をトン、と机に叩きながら、ひとつ深く息を吐く。


「……やはり、そちら絡みか。想定した中でも、もっとも面倒な筋だな」


「いかがいたします?」


「ひとまず、情報は局内(きょくない)に留めておけ。陛下には……いや、妃殿下にもまだ報告するな。軽率な動きは、奴らの思う壺だ。無論、調査も継続。だが、慎重に。王宮内の警備も、明日から一段階引き上げるように」


御意(ぎょい)


 先ほどまでの軽さが嘘のように、騎士は短く、鋭く頷いた。


 だが次の瞬間、ふと思い出したように小さく指を鳴らすと、彼はおどけたような調子で言った。


「……あ、そういやぁ、エメルド坊ちゃん士官学校から帰って来てるんでしたっけ? いいですな~、長期休暇か~」


 唐突に砕けた口調に戻るその変化に、ヘリオドール卿は一瞬だけ目を細める。呆れか、笑みか、どちらとも取れぬ表情であった。


「……ああ、そうだったな。ちょうどいい。お前がエメルドを捕まえてこい、モルガン」


「えっ、アタシがです? どうしてそんな面倒を~……」


 騎士――モルガンは、驚いたように目を丸くさせては、うげぇと口元を不愉快そうに歪める。


「お前ならアイツも警戒しないと思ってな。……エメルドをルベル様の傍に付けておきたい。今日の事件があるからな。また狙われる可能性もある。ルベル様とアイツは仲がいいし、不自然ではあるまい?」


「ははぁ~そう言うことで。……にしても坊ちゃんも大変ですなあ。せっかくの長期休暇。ハメも外したいでしょうに」


「……ハメも外したい、か。アイツの場合、シャレにならんからな。これぐらいの行動規制も必要だ」


 ヘリオドール卿はそう言って、溜息交じりにこめかみを指で揉む。それを見たモルガンも乾いた笑い声を上げる。


「なはは……お厳しいこって」


「お前も気を抜くなよ。それに、エメルドにも伝えておけ。これは遊びではなく、任務だとな」


(かしこ)まりました。……ではでは、早速坊ちゃんのご機嫌伺いに行って参りますわ」


 モルガンは頭を掻きながらもどこか楽しそうに笑い、ひらりと軽く敬礼を返すと、扉の方へと歩き出し執務室を後にした。


 残されたヘリオドール卿は再び報告書に目を落とし、微かに眉を寄せる。


(〝かの国〟か……私の杞憂であればいいのだがな)


 燭台の炎が、静かに揺れた。






    *****



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。