60 獣人
翌日。晴天の中、夜空は釣りをしていた。
「揃って二日酔いとか情けない連中だぜ」
リリンや酒の強い連中以外は二日酔いで仕事を休んでいた。お魚の当たりが悪いので帰ろうと道具を片付ける。
ふと遠くを見ると男がなにかを海に投げて隠れた。すると少し離れた位置から女が深刻そうになにか喋りながら海に向かってカメラを向け動画を撮っていた。夜空は近寄って海を見た。
「猫?」
女は猫にカメラを向けて言う。
「待って待って待ってヤバーイ!! なんで!! 可哀そう。今助けるから。ああ、距離が。波で近づけない!! え……ッ!!!」
夜空は海に入ると子猫を持って陸に上げる。地面に置くと子猫は女性の方へと寄って行く。
「それ、お前の猫か? 男の人とは知り合い? なんで落とした?」
「は? 知らんし。それ私のじゃない。偶然見つけただけだし。ってか誰? 急に気持ち悪いんですけどぉ」
その時、先ほど岩陰に隠れた男が出てきるや否や夜空を殴る。
「ぐあ!!」
夜空は吹き飛ばされ地面に倒れた。
「なにやってんだてめェ!!!」
「マジだるいわ~。なにこいつ。弱い癖にしゃしゃり出てんじゃないっての。別のところ行こっ」
「先行ってていいぞ。俺ムカついたから、もう数発焼き入れてから行くわー」
男が振り返り、夜空の方に歩こうとした時、ムニュっとなにかにぶつかった。
「ん?」
男の目の前には鎖骨、すぐ下に巨大な胸があった。見上げるとタンクトップの猫耳の女が睨み付けていた。
「な、なんだよ」
「自分の胸に聞いてみるっすよォ!!」
次の瞬間、腹部に強力なブローを放つ。
「ぅぐあッ」
男は膝を付いた。
「てめっ。ただじゃおかねぇ」
異変に気が付いた女が戻ってきた。
「はぁ~。暴力とか最低なんですけどぉ。警察呼ぶから!! マジで牢屋行だぞ!! やっぱ亜人キモ」
獣人は女の腕を握ると力を込める。そして、子猫を優しく取り上げる。
「は、離せっ。ィッ!!! がぎぃぃぃだぃ」
「話は聞いてたっすよ。あんたの猫じゃなくて良かったっす」
腕を放して距離を取る。女が叫ぶ。
「てめ!! それを離せ!!」
殴りかかろうとする女。獣人は強烈な蹴りを入れて意識を刈り取る。そして、男に向かって言う。
「その女をとっとと連れて帰るっす。次は容赦しないっすよ」
「く、くそっ!! 覚えてろよ!!」
獣人は夜空の顔をペチペチと叩く。
「お~い。大丈夫っすか?」
夜空は目を覚ました。目の前には黒い髪の猫耳がいた。タンクトップに短いスパッツと簡易な服装であった。彼は状況を思い出した。
「……さて、そろそろ本気をだすとしようか」
「もう帰ったすよ?」
「逃げたか。賢明な判断だ」
「……」
子猫がニャーとないた。夜空が立ち上がる。彼女は長身で、彼より15㎝ほど大きかった。
獣人は軽く状況を話した。
「……ってわけなんすよ。あ、私は猫宮・ゆいっす」
「山井夜空だ」
「にしても見てたっすよ。山井さんなら信用できそうっすね!!」
「なんのことだ?」
「いやー。まだこっちに来て間もなくてっすね。先々でハンターの集まる所を聞いたんっすよ。そしたら睡眠薬を盛られるわ。騙されて売られそうになるわ。殺されそうになるわ。縛られるわで色々大変だったっすよ」
猫宮は事情を話す。どうやら堅気でない人の所に何度か迷い込んだらしい。
「ほう。中々の修羅場をくぐっているな」
「修羅場なんて言ってる場合じゃないっすよー。道を尋ねただけで危うく人間不信になりかけてたところっす」
「ここではよくあることだ。それにしても運が良い。俺はハンターだ。偶然だな」
「……それ言われたの10回目っす。でも山井さんなら大丈夫そうっすね。その力量で猫を助けようとしたっすからね」
◇
ご一読いただき、感謝いたします。投稿は21時になります。




