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55 平常

【酒場:ノックス】



 夜空はいつものを注文していた。スプーンでアイスをすくい、パクリと口の中に放り込む。ストローで緑の液体を凄い勢いで吸い込む。


「ぷはぁ!! これだから止められねぇんだよ!!」


「ああ? また飲んでんのか」


 不機嫌そうなリリンが隣にいた。背後のテーブル席から男たちの声が聞こえる。情報誌を見ているようだ。



「笑う殺人鬼。犠牲者約236名だってよ。うわっ。判明してるのだけでかッ」


「ひぃ~おそろしい。こんなガキがぁ。体中を!! 特にっ」


 皆はなにかを想像し顔を歪めながら前屈みになる。


「ぅっいてー」


「それにしてもリリンさんはすっげーな!! こんな化け物を仕留めるなんて!!」


「だな。推定ランクSS+だってよ」


「記事にも書いてる。なんと少女に思えた殺人鬼は成人した女性だった。公園を半壊させるほどの力を持った殺人鬼を一撃で仕留めた英雄リリン!! 出会い頭に力の差に気が付いた殺人鬼。彼女は無様に逃げまどう。リリンの説教を聞いて深く反省し、今までの罪を懺悔しながら朽ちていく」


「んなわけねェだろ!!」


 リリンがカウンター席をドンと叩いた。


「リリンさんこれくらいいいじゃないですかー」


「そうそう。なんてったって英雄なんですから~」



「チっ。腹立つ記事だぜ。誰が書きやがった。見つけたらただじゃおかねェ」


 美雨がリリンをなだめる。


「まあまあ。リリンが犯人を追い詰めた事には変わりないから」


 誰かが言う。


「にしても、止めをさしたのはいったいどこのどいつだぁ~?」


 そこに待っていたかのように男が名乗りを上げた。


「よくぞ聞いてくれた。俺だよ。俺。俺だ」


 皆は一斉に夜空を見たが、すぐに顔を戻し、話に戻る。ここに来た当初は反応してくれていたが、今では反応が薄い。


「まさか【夜の王】じゃないだろうな」


 美雨がその名を聞いて緊張する。


「夜の王……」


 それを誰かが笑いながら否定した。


「はぁ? なんで公園にそんな大物がタイミングよくうろついてんだよっ。深夜徘徊か? ばかだなーお前」


「それもそっかぁ!! わりぃわりぃw」


 夜空はソーダのおかわりを飲んでいた。そんな時、コソコソと隠れていた記者が現れた。


「いや~ありえるかもしれませんぞ。なんていったって夜の王!! 彼はあらゆる情報を知り、夜空を駆けながら移動する。まさに神出鬼没なのですよ!!」


 ある男が桜に言う。


「話を聞く度に夜の王の戦闘力上がってないか?」


「いえいえ、なんていってもあの【夜の王】ですよ!! このくらい当然ですって!!」



 美雨が驚きつつも聞いた。


「桜さん。なんでさっきからコソコソ隠れてるんです?」


「え……あ、いえ……その……ですね」


「うおっ桜って言えば、この記事書いたやつじゃん。偶然だなー。サイン頂戴」


「あー!! あー!! しらな~い!! なにそれ~!!」


 リリンがぬらりと立ち上がった。心なしか怒っているように感じられた。夜空が言った。


「ふっ。遺族のためだろう? せめてもの手向けにと」


「そ、そそそそ、そうなんですよ!!」


 リリンが少し考えると怒りを抑え席にドスンと戻った。小声でお礼を言う。


「た、助かりましたイキ。夜空さん!!」


「……それで。俺の名前はどこに?」


「……さ、さすがに。そんな悪質なデマは流せないので」


「誰が悪質だって?」


「さあー仕事しないと!!」


 どうやら彼女はリリンに瑠琉を倒した人物を見てないか、心当たりがないかを聞きにきたらしい。そして、リリンは一言で答える。ねぇよ、と。





 青い空。風が適度に吹いて心地よい。そんな爽やかな午前中。



「馬鹿なッ……この……俺がっ……」


 夜空は人狼に殴られて吹き飛ばされた。地面に転がり意識を失う。


「ああ!! 山井さんがまたやられた!!」


 美雨が叫んだ。



 人狼は個人で強盗をして逃げていた。逃走している時、美雨の携帯に連絡が入った。近くにEランク相当の強盗がいると。


 そして、見つけた瞬間に一緒にいた夜空は秒で戦闘不能になったというわけだ。



 美雨と対峙している人狼が言う。


「馬鹿が。今のを見ていなかったのか? この圧倒的な力。そこの男と同格のパートナーのお前がッ。俺に勝てるはずがない!!」


 美雨はなにも言わずに接近する。


「なっ。速いッ」


 刀による鋭い斬撃。人狼は腕を負傷した。


「ちっ。雑魚と組んで油断させる作戦か!! えげつねェ作戦だなおい!!」


「まるで私が囮にしたみたいに!! 取り消してください!!」


「くそ、そんな外道に捕まったらどんな目に合わされるか!!」


「あっ。待ちなさい!!」


 人狼は不利と見るや否や自慢の脚で逃走する。そこで携帯を見て足を止めている中年男性がいた。よりにもよって中央でいて邪魔であった。


「くそ!! 退け!! 人間!!」


 携帯をしまうと男は人狼を見た。接触する直前に男はハイキックで人狼の意識を奪った。


「ゆ、夕凪さん!! きてくれたんですか!!?」


「今宵か。今、アラームが鳴ってな」


 偶然通りかかったらしい。


「アハハ。運が悪い強盗ね」


「今から食材を買いだめに行くところだ。忙しいからそいつを頼む」


 夕凪は人狼をチラリと見た。


「分かりました。あ、報酬は次会った時にでも」


「二人で別けていい」


「あ、ありがとうございます」


 夕凪は去っていった。ふらふらと背後から近づいてきた夜空が言う。



「俺の体に触れたが最後。毒が全身に回ったようだな」


「夕凪さんの蹴りだよ」


「……50:50ってところか」


「100、0だよ。というか山井さんって意外にタフだね」


「毎日鍛えてるからな」


「そ、そう……」



 人狼も焦っており、夜空の傷は幸いにも浅かった。その後、強盗を引き渡すと美雨が言う。


「あ、私。明日一日いないから」


「お、じゃあ。期間限定のソーダがあった時は教えて」


「私を情報屋やなんかと勘違いしてない?」



 翌日、珍しくなにごともなく平和な一日を過ごしたのであった。






ご一読いただき、感謝いたします。投稿は21時になります。

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