39 おこない
山井夜空は信号待ちをしていた。青になったのを確認して渡る。周りの人々が悲鳴や驚きの声を出して止まる。
「ん?」
周りが急に騒がしい。奇妙な動きをする人々を疑問に思いながらも横断歩道を渡る夜空。次の瞬間夜空はバイクに引かれた。凄まじい衝撃、勢いよく地面に転がる。
その悲しい出来事を目の当たりにして、さらに悲鳴が大きくなる。警察に電話するものまで現れた。
バイクに乗っている男が言う。
「うわ……やっちまった……」
「なんだお前、初めてか?」
「先輩……」
「この島じゃ日常茶飯事。ようやくこの島の住人になれたな」
「あざーす!! うわっバイク傷になってるな」
遺体を漁っていた男が言う。
「はぁ? なんももってねぇなこいつ。でも財布はいいもん使ってるな。丁度替えが欲しかったんだ。修理代はその辺でカツアゲしてどうにかすんべ」
「いいっすね~」
彼等はバイクにまたがると、再び信号を無視してバイクを飛ばす。すると本隊に合流し、大きな流れができた。彼等は速度を上げて暴走する。
夜空を引いた男がとばしていると、他のバイクが並走する。良く見ると後部座席にスタイルの良い姉ちゃんが乗っていた。羨ましいそうに見ていると喋りかけてきた。
「さっきは良かったぜ。あれは中々お目にかかれない。芸術的だった」
彼等は襟に小型マイクを、耳にピアスをつけている。これは魔法具の一種でマイクとイヤホンの代わりになっている。
「凄かったよ~。ダーリンと会ってなきゃあんたに惚れちゃうところだったわ!!」
「あ、あざーす!!」
「でも俺の女はやらねェけどな!!」
「あ~ん♡ かっこいい~」
(……うぜー)
「あははは。あ、そーだ先輩。今度良い女を紹介してくださいよ!!」
「ああ、いいぜ!! でもッ。俺の女に勝てるほどのやつは知らねえけどなー。後ろの奴の分も一緒に連れてきてやるよ!!」
「やったー!! うひょー楽しみ!! …………って後ろ?」
「じゃあ、今日はもっととばしてェ気分だから、またな!!」
不穏な言葉を残して前に行く先輩2号。心なしかバイクがいつもより重い気がする。背後から明るい声が聞こえた。
「そーだ、この辺だ。ありがとな。知らない人」
「ぎゃああ!!! だ、誰だ!!」
(ってさっきの!!! まさか俺が引いた男の幽霊!!)
彼の後部座席には誰も乗っていない。そのはずなのに背後から声をかけられ恐怖する。
バランスを崩しそうになったが、男はなんとか持ちこたえた。次の瞬間彼は驚いた。背後が急に軽くなったからだ。
「うわあぁあ!!!」
先ほど引かれたはずの男は高速で動くバイクから見事に降りた。慣性の法則を無視して着地し、ガードレールの方に歩き出した。どうやったのかは不明である。
そこで後続の暴走している男たちが、急に現れた男を避けようとハンドルを大きく切った。高速で走っている途中に切ってしまった。
一台が横転した。そして、そこから次々と玉突き事故を誘発した。道路を歩いていた男は横転しながら滑ってくるバイクに当たるもすぐに起き上る。
「おいおい、車間距離をもう2mくらいあけないと危ないだろ。免許持ってないから知らんけど。ちゃんと絆創膏はっとけよ。ばい菌が入るぞ~」
男はそう言いながらガードレールと金網フェンスをピョン、ピョンと軽く乗り越えて、バーに向かう。
彼の名は夜空。夜空を引いた男は少し距離を走ってからようやく止まった。バイクの男は悲惨な光景を目の当たりにした。苦しそうに唸る仲間たち。
凄まじい速度で走るバイクが転倒したのだ。ただで済むはずがない。幸い一般人は暴走するバイクに近寄らずにしっかりと車間距離を空けていたので怪我はなかった。
「う、うわああああああ!!!? 俺のせいでみんなが死んじまう!! 誰か!! 誰か助けてくれ!!」
悲惨を極めた状況を見て、誰も助からないだろうと悟ってしまった。そして、夜空を乗せていた男はそれに耐えられずにプツっと気を失った。生還者は一人、このチームは一晩で半壊したという。
ここはならず者がならず者を、化け物が化け物をくらう島、ヨモツクニである。
◇
ご一読いただき、感謝いたします。投稿は21時になります。




