34 理不尽な代償
ある場所で星々を見ている女性がいた。背後から男が近づく。それに気が付いた女性は言う。
「月が綺麗だね……」
谷野が月がない空に向かって呟いた。
「そうだな。それは照らされてないだけで、それはきっとそこにある……」
「もぉー。普通はないってストレートにツッコムところだよ……」
楽しそうに笑う谷野。少し間をおいて夜空は聞く。
「……満足できたか、谷野?」
「ッ……」
谷野はその言葉に心底驚いていた。彼女は振り向かずに聞いた。
「……いつから……気が付いてたの?」
「最初からだ……隠し方がなっちゃいない」
「……さすがだね……私ね、契約しちゃったの。よく分からないんだけどね。たぶん悪魔的ななにかと……」
「だろうな」
「……そこまで分かってて……なんであの三人を助けなかったの?」
「さてな……」
「……変わったね。山井君は……」
◇◇
昔、ある女子が意地の悪い女子たちに絡まれていた。するとどこからともなくやってきたとある男子がそこに割り込む。なにも言わずにその間に停止した。ただそれだけだ。その行為に意地悪をしていた女子たちは激怒した。
いじめっ子はその女子が好きなのかなど、ある事ない事を言ってからかいもした。その男子はそれを気にも止めずに女子に皮肉を言い、追い払う。その男子は特になにも言わず、なにごともなかったかのように、自分の好きな方へと歩きだした。
その女子はあのヒーローを忘れないだろう。
◇◇
夜空はどこか遠くを見ながら言う。
「変わるさ……月は日々、離れて行くものだから」
谷野は悲しそうな表情をしていた。そして、彼女はなにかを大切な事を伝えようとした。
「……山井く……ぅぐぅっ……」
そんな時、谷野が苦しみ出した。なにかを抑え込むようにしゃべり出す。
「っ……あのね。一つだけお願いしてもいいかな?」
夜空は達観し、冷静だった。この先どうなるか分かっているのだろう。
「嗚呼……どんなことでも……」
「っ……」
できることではなく、どんなことでもと、彼は堂々と言い放った。
谷野はそれに動揺していた。夜空は慌てずに彼女の言葉を待った。彼女は僅かに迷う。そして、唇をかむと自身の願いを言う。
「…………わ、私を殺してほしいの。私が苦しんだ後……怪物になった私を……残酷に……」
夜空は優しい表情でそう言った。
「嗚呼……そのために一人できた……」
「……えへへ。やっぱり変わってないかも」
谷野の姿が徐々に怪物へと変化する。醜く爛れ、大蛇のような姿に変貌する。刃のように鋭い腕が生え、やがて理性が消えてゆく。苦しみながら彼女は言う。
「当然だよね……この姿と同じ。醜い心は隠せないみたい……」
「……悪魔はどんな綺麗な心も堕落させる特性をもつ。安心しろ。俺が今まで切ったきたどんな生物よりも谷野千冬は綺麗だ……」
彼女は醜い姿のまま口元を緩めた。
「……夜空がハンターで良かった」
谷野はその笑顔を最後に、この世の者とは思えない苦痛の叫びを上げる。
「ッぁあがあぁあああぁああ!!!」
しばらくすると彼女は急に静かになった。そして、口調が完全に変化した。
「グヒヒ。ようやくぅ!! ようやく受肉できたぞォ!!」
夜空は静かに腰を落とし、刀に手をかけていた。そして、大蛇の言葉を無視して言った。
「礼を言おう。彼女の罪を背負ってくれた、名も無き大蛇に……」
「ん? 朧げに記憶があるぞォ!! お前は人間の!! フハハハ!! 知っているぞ!! 悲しいか!! 悔しいか!! この女はたった今、完全に消滅した!! 我との契約だからだ!!」
爛れた大蛇は話を続ける。
「周囲に感じるぞォ。なんと脆弱な魔力の集まり!! 異世界の人間を滅ぼすなど半月もかから……あ……?」
先ほどまで目の前にいた男が背後に居た。すでに刀を収め歩き出していた。
「う、そ……だ……」
大蛇はあっけなく絶命した。その時、大蛇から淡い光の玉が現れ、それはゆっくりと天へと昇る。それは次第に薄くなり、消える。
夜空はそれを静かに見届けた。
◇
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