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30 禁忌を犯した男

 風呂上がりでサッパリとした夜空は自宅で小さくスキップをしていた。エアコンのスイッチを入れて部屋の環境を最高に整える。


 いつ幻のクリームソーダが運ばれてもいいように。そして、クリームソーダを準備する。


「幻と現時点での至高……いったいどちらが上なのか。ククク、興味がつきない……」


 夜空はジーッとその時を待っている。しかし、失敗に気が付いた。


「そ、そんなー。アイスが解けてしまうー。仕方ない、グレードは落ちるが予備はある。食べるか」


 アイスとソーダを堪能する。良い笑顔で食べていた。そこでふと疑問がよぎる。


「おかしいな。さすがに、そろそろ手に入れられるはずなんだが……」


 その時、黒い穴のようなものがテーブルの上に出現した。夜空がずっと待ち焦がれていたものだ。


「きたぁぁあ!!」


 そして次の瞬間、パンツの男が夜空に背を向けてテーブルに足をつけた。まるで高い所から着地したかのようなカッコイイポーズを決めていた。


「?????」


 見知らぬパンツの男が背を向けた状態で渋い声を出す。


「なるほど。私は異空間に体をストックできる魔法をあみ出しましたが。彼女のはまた違う空間系の魔法。あれは転移……なんと高度な。あの娘を母体にすれば。フフ、俄然やる気がっ」



 明らかに切れている夜空が耐えきれなくなり言葉を漏らす。


「ああ?」


「ん?」


 振り向く前にパンツの男は半分消滅する。


「ば、ばがな……この私が反応……すらッ……」


(桁が違うッ。早く逃げなくては……別の場所でストックを出して乗り換えッ)



 しかし、闇の球体に破損した肉体ごと閉じ込められる。


「なに魂になって逃げようとしてんの? は? クリームソーダは? は? どゆこと? ん? ん? ん?」


 村長は動揺する。訳の分からないまま破滅寸前に追い込まれたからだ。


(馬鹿な!! 脱出できん!! ストックも出せんっ。なんて器用な奴だッ、完全に隔離されている!! なんだこいつはァ!! まさかこいつがマスターか!!)


 村長は球体の中にある肉体を繋ぎ合わせて声帯を作る。


「待て!! 誤解だ!! 私は怪しいモノじゃない!! 話し合おう!! 私たちは……私たちはきっと分かり合える……ッ!!!」



「血生ぐせぇ半裸の不法侵入者とどう分かり合えってんだよォッ!!」



「待てぇぃ!! 分かってる。ああ、分かってるんだ。そうだな。私が悪かったっ……そ、それじゃ仲直りの証に……じょ、上質なおん」


 話を最後まで聞く前に球体が狭まっていく。


「ま、まてぇぇぇ!! きっと後悔することにぃぃっ。うぎゃあああああ!! や、やめろぉぉぉぉ!!」


 球体が見えなくなり、やがて消滅する。そして声は聞こえなくなった。夜空は冷や汗をかいていた。


「ドッペルのやつ乱心したか。まさかあんなのを送ってくるとは……だが俺は無理やり契約など……いや、まさかッ。一度どん底に落としておいてからの……!!」


 そこで黒い穴が再び出現し、そこからにゅっとドッペルが顔を出した。


「うわっ……な、なにしてんの?」


「あー。なんと言いますか……非常に申し上げにくいのですが……」


「な、なんだ?」


 夜空は”ジャーン、幻のクリームソーダでーす”的なノリを待っていた。彼の頭の中では既に幻のクリームソーダを食べていた。


「幻のクリームソーダと大蛇討伐はその男の()だったようです……撒き餌でした……はい……」


 空気が凍り付く。ドッペルは空気に耐えられない。目を閉じ、その悔しさを噛みしめていた。


「…………なる……ほど、ね」


「ぅ……」


「俺の心を弄んだ、と」


(こんな不機嫌なマスターは初めてです。恐らく、目的を果たせないどころか、なにも言わずに変人を送った事を怒ってらっしゃる。うう、勝てないから代わりに倒してもらおうと思ったとはなおさら言えませんね……どうしましょう……)




「大儀であったぞ、ドッペル!!」


「え、あ……ありがたき幸せ!!???」


「あの嘘つき野郎に罪を償わせるため、俺の前に突き出したんだろ?」


「……はい!! ()()絶対に許されないことを!! 最もやってはならない()()を犯しましたから!!」


「最適解だ。よくやった。それでは島に戻り、三人と共に帰ってくるがよい。必要なら救援連絡は俺がしておこう。そして、家に帰るまでが依頼だ。怪我をするなよ」


「お任せください!!」


 ドッペルは誇らしげな表情でスーッと黒い穴の中へと消えて行った。





【酒場:ノックス】


 くたくたの二人が帰って来た。ギルドでの事情聴取が長引いたのもある。それが終わりとドッペルは先に帰って来て、割と元気な様子で夜空に報告し、魔法陣の中に帰っていった。


 カウンター席にリリンが倒れる。


「ふぁー。さっすがに疲れたー」


「だね~」



 夜空が言う。


「そんなに疲れたなら家に帰れば良かったのに」


「あー? あんな毒を飲まされたんだ。ここの最高の酒で口直しだ」


 ブランデーストレートとファジーネーブルを注文する。置かれた酒を美味しそうに飲む。体の隅々にしみこんだ。リリンがふと思い出した。


「美雨。結局その中身はなんなんだ?」


「あ……ごめん山井さん。幻のクリームソーダはなかったみたい。その……売り切れだったみたい」


 リリンが呆れながら言う。


「はぁ? まさかそれだけのために依頼を……」


「そっ、そっちは次いでだけどね……」


 どうやら彼女が持っていた箱は魔道具のクーラーボックスで、中には透明な容器が二つ。アイス用とソーダ用。夜空は驚いた顔を一瞬みせたが、すぐにキリっとした表情になる。


「……ふっ。気にするな。幻? そう簡単に入手できたら価値が落ちるってもんだ」


「えー。いがーい。二日間くらい寝込むかと思った」


「俺を見くびるなよ」


 バーのマスターがテーブルに酒を置いた。二人はそれを美味しそうに飲む。生気が戻り、生き返ったかのようだ。そうとう美味いらしい。


 そして、それを横目に夜空が言った。


「マスター。クリームソーダを」


「畏まりました」







ご一読いただき、感謝いたします。投稿は21時になります。

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