29 使いたくない技
コクウが小さなナイフを投げて村長を挑発する。村長はそれに簡単に乗った。そして、二人が見えない程に離れた場所で止まった。
「素晴らしい。安産型ですね。そして……まるで私のために生まれたかのような美しい容姿……」
「気持ち悪いので粉々にして差し上げます」
「蝙蝠の使い魔は貴方のでしたね。それでは分かっているでしょう。私には絶対に敵わないと……言っておきますが、あの男の一撃を喰らったのはわざとです。ああした方がより恐怖の顔を拝めるんですよ、クククク」
コクウが接近し、拳の連撃を放った。村長はそれを簡単に避ける。
「動きで分かりますよ。そちらの鍛錬し始めたのは最近のゲートができてからでしょう? 五年ですか? それとも十年? クク、私は数百年という歳月をかけて優秀な固体を作り、能力を鍛え上げている。もちろん武術もねッ」
村長は素早く動くと、コクウの顎に拳を叩きこむ。
「おや、意識を保つとは……なるべく傷つけたくないのですが……特にお腹は」
「興味のないくだらない話をベラベラと……モテない男の典型ですね」
「フフフ。最初はみなそう言うんですよ……」
「……死ぬ前に教えてください。幻のクリームソーダはどこですか?」
「フフ、良ぃ。生意気な小娘だ……おっと”幻の”でしたね。それはここにはありませんよ。それも作り話です。限定とか幻とか書けば、自然とターゲットが集まってくるんですよォ」
「はぁー。マジで最低な屑野郎ですね」
「口が悪い子だ……しかし、一か月後には矯正されていることでしょう」
村長が接近し、拳を叩きこむ。コクウはそれを避けきれない。反撃するも容易に防がれる。彼女の体力が徐々になくなる。ある時、彼女が大きく後ろに跳んだ。
「もう大人しく捕まってくれませんか。これ以上貴方を傷つけたくはない。そして美雨ちゃんはメインディッシュ……ここ数十年の中で今日は特に運が良い……」
「黙れカス……」
作戦を考えるコクウ。そして、大きなため息をついた。
「はぁ~、最低ですね。これだけは使いたくなかったのですが」
「ほう、切り札ですか?」
「切り札? いいえ、最悪の禁忌技です。これを使うとマスターの好感度が下がることでしょう……」
「マスター、ですか。いいですね。こうしましょう!! 一か月後にその男もここに招待し、貴方の真の姿をお見せするのです!! クフっ、クヒヒヒヒ!!」
不思議とテンションの上がる村長とは真逆に、ローテンションでコクウが言う。
「いえ、終わりですよ。もう会う事はないでしょうね」
「クク、一体ですらままならないあなたが。私を含め、残り999体を相手にできるとでも?」
勝ち誇る村長が悪い笑みを浮かべた。
「そこまでの誇張に敬意を!! それならば私のとっておきもお見せしましょう!!」
村長はパンツだけになった。
「フハハハ!! 服を脱ぐほど力が増す能力です!! 能力を二つ持っているのは貴方だけではない!!」
「キモ……」
「誉め言葉として受け取っておきましょう!! 行きますよ!!」
村長が接近する。嫌な表情を見せたコクウは思わず鋭い拳を突き出す。だが、彼はそれを避けると彼女にタックルをして倒した。瞬時に両手を抑え込む。男の顔が目の前にあった。
「さあ、貴方のとっておきを見せてもらいましょう!! 存分にぃねぇ」
「チっ」
「おや、この辺かなぁ」
「……消えろッ。ゴミカス」
そこで影が村長を丸ごと包み込む。
「なっ……なんだこれは!!」
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