三十一話 02 クレイセン国王
俺達《極昂の虹》は勲章の受勲の為に王城にやって来ていた。
王城は普段街から見上げていると大きく見えたけど、近くで見ると思ったより小さかった。
城内は細部にまで細かい意匠を凝らしいた装飾が見事だ。
控室に通され俺達は謁見の順番を待ちながら身支度をしている。
「おかしい所ないかな?」
「うん似合ってますよテルト」
「そう? エナも似合ってるよ」
突然の事で大急ぎで礼装を仕立ててもらったから試着も今日が初めてだ。
俺は入念に何度も確認する。
隣ではクーベルが着慣れない礼装にソワソワしてる。
エナとプリシナは慣れているのか着こなしはバッチリだ。
「《極昂の虹》の皆様、準備が済みましたでしょうか?」
「はい」
「ではご案内します」
案内に来た紳士がエスコートしにやって来た。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
長い階段を登っていると太鼓を叩く音が鳴り響いて来る。
一定のリズムで刻む鼓動が緊張感を盛り上げる。
「いよいよですね」
「緊張するな」
「楽しみです」
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
程なくして俺達は謁見の間に到着した。
部屋は広く天井も高く装飾も一際豪華だ。
「あの若さで冒険者?」
「受勲などまだ早いのでは無いか?」
「まあ復興へ向けて明るいニュースは多い方が良いでしょう」
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
左右には貴族席がありその前を豪華な鎧を身に着けた兵士が護衛していた。
そして正面中央の階段の一番上の高い場所で玉座に座る男が居る。
ウェーブが掛かった長い黒髪と口ヒゲを生やしたやや小太りの男。
これが恐らくクレイセン国王だろう。
勲章授与の話しを聞いた直後は嬉しさが上回っていた。
けれど、ドン・ロスカルが言うには国王が《サンザーラ》と繋がっているらしい。素直に喜ぶ事が出来なくなっていた。
「どうした? テルト」
「……いや、行こう」
ドォーーーーーーンッ! ドドンッ!
でも別に証拠がある訳じゃない。
ドン・ロスカル達が嘘を言っているのかも知れない。
俺は首を振って前に進む。
「これより先の《魔物の大氾濫》のさい、魔獣討伐に多大な貢献を果たした《S級》冒険者《極昂の虹》への受勲式を執り行う!」
「《極昂の虹》の者は前へ!」
誰かの掛け声に従って俺達はクレイセン国王の前まで進み出た。
「《極昂の虹》の代表テルト・リバースよ! 先の《魔物の大氾濫》にて未知なる《ギガントクラス》魔獣を倒した功績を認め勲章を授ける!」
そう宣言して豪華な服装の紳士が勲章を四角い盆の上に乗せて歩いてきた。
国王が直接手渡しする訳じゃない。
そう言えばハーツゲッヘ伯爵の時は手渡しだったな。
伯爵から貰った勲章は今でも服の内側にひっそりと身に着けていた。
『テルトよ褒められる事から逃げるのではなく受け止め。その上で変わらないように、強く在れば良いのではないかのう?』
伯爵に言われた言葉を思い出す。
あれから俺は強くなれただろうか。
…………ゾゾゾゾ…………
…………まてよ俺、本当にこのまま勲章を受け取っていいのか?
《サンザーラ》がプリシナに何をした? エナに何をした?
もしその《サンザーラ》とこのクレイセン国王に繋がりがあるなら。
俺は……俺達はこの勲章を受け取る訳には行かない!
「お待ち下さい」
「なっ、なんだね!」
俺は声を上げるしか無かった。
もし上げるとしたら今しか無かった。
「国王に1つお尋ねしたい事があります」
「無礼な! 式の最中であるぞ!」
「……よい。質問を許そう」
大きく深呼吸をした。
これから俺がする無礼な事だってのは分かっている。
でも確認しない訳にはいかない。
「この王国には俺達《極昂の虹》よりも強い騎士が何10人もいるはずです」
ザワ……ザワ……
俺の棘のある声色から何かを察したのか。
それとも普通に王に意見する事に動揺したのか、周囲がざわめき出す。
「俺達が《陽炎の迷宮》で戦っている時、その人達は何をしていたんですか?」
「……この国の警護である」
僅かに考えた後にクレイセン国王は答える。
「この国? 国王の警護じゃなくて?」
「貴様! 何だその無礼な態度は!」
それに俺は間髪入れずに言い返す。
クレイセン国王が答える前に誰かの怒声が俺に向く。
「それと俺の《極昂の虹》に居る聖女プリシナは、《サンザーラ》と呼ばれる闇の組織に命を狙われていました。《サンザーラ》は各地で人々を苦しめています」
ドヨ……ドヨ……
「国王はその《サンザーラ》に何か手を打っているんですか?」
「貴様! たかが冒険者風情が!」
外野は無視してクレイセン国王に本題を投げかけた。
俺は一際強い語気で尋ねる。
その時クレイセン国王の顔が僅かに歪んだのを見逃さなかった。
「尋ねたい事は1つだったはずだ」
「……はい。そうですね」
確かに俺は1つと言った。
でもそんな事はどうでもいい、俺の中で確信できた。
クレイセン国王と《サンザーラ》はやっぱり繋がっている。
「では……今回の勲章の授与は辞退させて貰います」
オオオオォォ……オオオオォォ……
「何だと!」
「さっきから何だあの態度は!」
貴族達は恐れと非難の唸り声を上げる。
「てっ、テルト!」
「おっおい!」
エナとクーベルも当然驚く。
悪いな俺の勝手で。
勲章を貰える事を喜んでくれていたのにさ。
少しの間クレイセン国王がボロを出さないかとずっと睨みつけていた。
国王の顔はあの後からは微動だにしていない。
「では帰らせて貰います。失礼します」
俺は踵を返して元来た道を引き返す。
慌ててクーベルとエナも不安そうな顔で付いて来た。
プリシナだけは普段と変わらず堂々としている。
ザワザワザワザワ…………
「ちょっと、テルト!」
「不敬罪だ! ひっ捕らえろ!」
不敬罪か……どうしようか。
大人しく捕まるか、はっ倒して逃げるか。
「よい……気が大きくなっていたのであろう。この程度の無礼は許そう」
「おおっ! 流石はクレイセン王だなんと寛大な!」
「…………」
寛大なお心に感謝するよクレイセン国王。
俺は風向きが変わる前に足早に謁見の間を駆け歩く。
「おい! いいのかよあんな事言っちまって! 突然どうしたんだよテルト!」
「いいんだよ。それに突然じゃない」
「何か訳があるんですか?」
この先何が起きるか分からない、先に理由を説明しておいた方が良さそうだ。
「クレイセン国王は《サンザーラ》と繋がっている」
「⁉」
「なんだって?」
「嘘っ!」
勿論確証は無いけどさっきの国王の顔を見て、ドン・ロスカル達が嘘を言っているとは思えなくなっていた。
「《サンザーラ》の名前を出した時の国王の顔を見て確信した。そんな奴からの勲章なんて貰う訳にはいかない」
「……わかった。俺もテルトの判断に従うぜ」
「はい! 私もです!」
「当然、私もです」
仲間からの力強い後押しに、俺は勲章を受け取らなくて良かったと心底感じた。




