三十一話 01 祝勝会と宴会
《魔物の大氾濫》が終わった翌々日。
俺ことテルト・リバースと《極昂の虹》そして《蒼炎の大掟》がとある居酒屋を貸し切って集まっていた。
「では無事《魔物の大氾濫》を乗り切った事を祝して、《蒼炎の大掟》と《極昂の虹》の合同での祝勝会を開きます。乾杯!」
「おおぉぉーーっ!」
グビグビッ!
ロイナードの音頭で祝杯を上げる。
もちろん俺が飲んでいるのはジュースだ。
「凄かったらしいねテルト、《ギガントクラス》を1人で倒したんだって?」
「白々しいアグニスだって1人で倒してたろ?」
「まあね」
俺はアグニスがどんな戦い方をするのか気になって夜まで《陽炎の迷宮》に残っていた事がある。
その時を倒す所を見ていた。
「エナさんも《魔分子結晶理論》をモノにしたようですね?」
「ええ。分子レベルで結晶を作るなんて発想凄いですね」
魔法の話はよく分からないけど確かにエナの巨大な氷には驚かされた。
あれもロイナードの助言のお陰だったらしい。
「クーベルも少しは役に立つ様になったか?」
「はい少しは」
「少しって何だよ大活躍だったろうが!」
でも俺は知ってるんだぞ。
クーベルが《三足の巨鳥》を1人で倒した風に見えたけど。
あれは直前にプリシナが《聖光の浄槌》で《ガードブレイク》してたってな。
空の上なんで俺以外は誰も気付いて無かったみたいだけど。
「しかし聖女様は凄かったな……ってあれ? プリシナ様はいねぇのか?」
「聖教会の外せない用事だそうです」
「そうか、知り合いの冒険者を治してくれた礼を言いたかったが」
オメロスがプリシナを気に掛ける。
プリシナはやっぱり俺達の中でも別格の働きだった。
最高級の治癒魔法は本当に貴重な物だ。
何よりその象徴として冒険者達の士気が上がりまくっていた。
「あれ? ハボッコってやつも居ねぇぞ? 《蒼炎の大掟》のメンバーなんだろ?」
「ああハボッコは《ギガントクラス》を目の前に職務放棄して逃げ出したので、いま罰を与えています」
大勢の冒険者の前で逃げ出してしまったのを見られハボッコの評判は急落した。
俺の中ではもう底値だったけどな。
「酷い事をするのぅ、ロイナードは……」
ビグザールが悲痛な顔で呟く。
ロイナードはハボッコに一体どんな罰を与えたんだろう。
「どうやらテルトさん達にも迷惑をかけたようですし当然です」
「迷惑って言うか……まあ」
……迷惑以外の何物でもなかったけど。
「そもそもあの《ギガントクラス》って何なんだ?」
「以前も《陽炎の迷宮》で稀に目撃例があった魔獣だな。まあ本当に居るとは俺も思っていなかったが」
「私は高確率で居ると思っていましたがね。少ないながら物証もありましたから」
クーベルの疑問にビグザールとロイナードが答えた。
「さてそろそろ頃合いだし始めるか、シャロン!」
「始めるって何をだ?」
宴会が盛り上がって来た所でクーベルが声を上げた。
「一発芸だよ。俺の国では宴会で芸をして盛り上げなきゃいけないって決まりがある。まずはクーベルとシャロンからだ」
「へぇ?」
宴会と聞いて宴会奉行の俺が黙っている訳がない。
やっぱ一発芸大会でしょ!
パサッ
「なにを始めるんですか?」
「これは二人羽織って言うらしい。まあ見てなって」
これは俺がクーベルに教えた芸だ。
宴会の定番だし誰がやってもハズレない。
「あら可愛いらしい」
「まるで1人に見えますね。お手々がかわいらし過ぎますが」
「面白そうだな」
ちょっと大きめの羽織をクーベルが前シャロンが後ろになって羽織った。
大柄なクーベルの体から生えたシャロンの小さな手との珍妙な違和感がもう面白い。
モフッモフッ!
「さて今日は宴会だ! まずはそうだな酒を飲まなきゃな。そうそうもうちょい右、いやそっちは左だ」
シャロンの手がテーブルの上にあるコップを手に取ろうとする。
シャロンには見えていないのでクーベルがさりげに位置を教えた。
プニュッ
「よーし掴めた。さーて飲むぞまず口まで運んで……もうちょい上だ、よし……ゴクゴクッ」
「おお上手いじゃないか」
失敗すると思っていけどシャロンは丁寧にコップをクーベルの口に運んだ。
クーベルがコップに口を付けると持ち上げて見事に一発で飲む事に成功!
ツルッ バシャン……!
「あっはっはっはっ!」
と思った所でシャロンの獣の手が滑ってコップから酒がこぼれクーベルの口から下がびしょ濡れになる。
やっと期待通りの展開になってみんな笑い出す。
もちろんクーベルも笑われる事が目的なので怒ったりしない。
何事も無かったかのように次のネタに進む。
「いやぁー旨い酒だったな。次は食い物だ、でもこれは少し冷めてるな」
ガシャーン!
「はははっ!」
シャロンの手が目の前の料理を手で退けて床に落とす。
安心してくれちゃんと店の人に事前に許可は取ってある。
クーベルの顔芸も相まってまた笑いが漏れた。
「最近は寒いし、温かいもんが食いたいな。おいおやっさん‼」
「あいよ!」
グツグツ……
協力者の店の親父がアツアツの煮込んだ鳥肉のスープを運んできた。
「おいおい本当にアツアツじゃねぇか」
料理には沸騰してる音がまだ聞こえている。
オメロスは心配するような口とは裏腹にその顔には期待が籠もっていた。
「あー美味そうだ。まずフォークに持ち替えて……そう、もうちょい左だ、そこで突き刺して……」
プスッ……
すこし冷や汗を浮かべながらクーベルがシャロンに指示を出す。
「さー持ち上げて、アチアチアチ! そこじゃ無い、そこ口じゃない!」
「はははっ!」
シャロンがわざとらしく熱い肉をクーベルのほっぺたに押し付ける。
あまりの熱さにクーベルが腰を抜かして悲鳴を上げた。
もはや日本人なら見飽きたであろう伝統芸だ。
「そうそこ! はふっ! はほはほっ……おえっ!」
「だっはっはっはっはっはーーっ‼」
やっとの事で口に入れても、やっぱり熱すぎて吹き出してしまう。
期待通りの展開にみんな大爆笑‼
「良かったぜシャロン!」
「うん!」
クーベルとシャロンは大成功に互いに健闘を称え合う。
ネタを提供した俺も思わず笑っていた。
ナイスだったぞシャロン!
「さあ次は俺達の番だ!」
ジャラジャラ……
「スプーンですか?」
「そっ」
俺は数10本の鉄製のスプーンを机の上に並べる。
ジャラッ……ジャラジャラッ……ジャラジャラッ……
そして俺はその中から一本持ち上げると、他のスプーンもくっついて紐の様に持ち上がる。
「おお凄い」
「磁石ですか?」
ジャラジャラジャラッ…… パッ
「いいや磁石も何処にも持ってないよ」
俺は途中で手を放して手の平を開いて見せた。
ジャラジャラジャランッ
「不思議ですね」
「このトリックはロイナードも知らなかったか」
「うーむ……」
ロイナードでも金属に電気を通すと一時的に磁気が発生する事を知らなかったみたいだな。
「では続きましてスプーン曲げ」
カンカンッ
俺は机にスプーンを叩きつけて本物である事をアピールした。
「スプーン曲げ?」
「これは変哲もないスプーンだ。それをこうやって……はい!」
グニョリ!
そして作用点力点反作用を利用してスプーンを曲げる。
「……なんだそれ?」
「そんなの俺にでもできらぁ」
グニャリ
そう言うとオメロスはスプーンを1本盗んで折り曲げる。
「あっ! それ力で無理やりやってるでしょ!」
「いやテルトだって同じだろ」
「いや同じだけど同じじゃないって言うか……」
《S級》冒険者は高レベルだから力も強い。
これくらいは力技で真似できてしまう。
ただこれは織り込み済みだ!
「じゃ……じゃあ次はこのスプーンを折ります。はぁ!」
……ポキッ!
手で触れてないのにスプーンがポキリと折れる。
「ほう……」
「でもそれもなんかのスキルなんだろ?」
「スプーンに切り込みが入ってるのでは?」
「違う違う!」
ロイナードが鋭い指摘をした。
本来のスプーン折りは実際に切り込みが入れてある事が殆どだ。
でも俺の場合は違う。
カンカンッ!
俺はまたテーブルにスプーンを叩きつけ切込みが無い事を確認する。
「ほら硬いでしょ? じゃシャロンさわってご覧」
「うん!」
渡す直前に見えない電撃を走らせてスプーンの首部分を金属疲労させた。
ポキッ!
シャロンが軽く触れただけでスプーンはあっさりと折れる。
「ほーら。シャロンでも簡単に折れた!」
「へぇ」
「酒の魚にゃまずまずだったな」
俺の一発芸はまずますの評価で終えた。
「じゃあ次は私ですね!」
コンコン……ガチャッ
続いてエナが一発芸を始めようとした時、居酒屋の入口からノック音がして返事をする間もなく扉が開く。
「失礼する!」
入って来たのは豪華な服を来たおっさんと護衛兵が2人。
「ここに《S級》冒険者《極昂の虹》の者はいると聞いて来た!」
「……はい。俺が《極昂の虹》のリーダーです」
どうやら俺に用事の様だ。
「私はクレイセン国王の使者である。この度の《魔物の大氾濫》における貴公ら《極昂の虹》の活躍を讃え国王より勲章を賜る事が決定した」
国王の使者を名乗るおっさんが厳粛な顔で俺に招待状を差し出した。
俺は一応少し畏まって招待状を受け取る。
「ほう勲章か。それはおめでとうテルト」
「まあ。当然の評価でしょう」
「凄い! テルト!」
「やったなテルト!」
「あっ、ああ……」
勲章か、ハーツゲッヘ伯爵に貰って以来だな。
今頃どうしてるだろう。
まだ乞食姿に変装して町に繰り出してたりするんだろうか。
「ついては明後日の7の刻までに王城に礼装で参られよ! 詳しいことはこの書状にしたためてある」
「はい」
「では確かに伝えた。失礼する!」
やや尊大そうだけど礼儀正しく挨拶をして使者のおっさん達は退出して行った。
「やりましたねテルト! やっと私達みんなに認められたんですね!」
「へへっ、勲章か。まさか俺が国から感謝される日が来るとはな」
「…………」
「どうしたんですか? 嬉しくないんですか?」
「いや……嬉しいよ」
嬉しいと言えば嬉しいけど少し気にかかる事があった。
まあその事は後で考えて今は祝勝会の続きを楽しもう。




