二十九話 03 裏社会と闇
「君はワシ等を反社会組織と言ったが、それは確かにその通りかも知れん。だが君も知ってるだろう《サンザーラ》と言うさらなる巨悪を」
「《サンザーラ》……」
俺の一番の目的は《陽炎の迷宮》攻略だ。
でもそれとは別に俺達の前に度々現れる《サンザーラ》という組織もなんとかしたいと思っている。
「《サンザーラ》の手から市民を守る為には俺達の様な存在も必要なんだよ」
「たとえ俺達が居なくなっても代わりに《サンザーラ》が取って代わるだけ」
なるほどマフィアと《サンザーラ》は敵対していているのか。
確かに《サンザーラ》よりはマフィアの方がマシかもしれない、けど。
「……それは国がやれば良い事だ」
そうだ俺は冒険者だから《陽炎の迷宮》を攻略する。
犯罪組織は国が何とかすればいい。
これは一貫した俺の考えだ。
「なるほど国か……」
「ふははっ……何も知らないガキが……」
「よせ……仕方ない……」
突然マフィア達が俺を嘲笑し始めた。
「……何が言いたい……」
「君の性格を考えると言い難い事だが……」
そう言って幹部の1人は窓の外に目をやった。
俺も同じ様に窓の外を見ると、そこには巨大な王城がそびえ立っていた。
「……まさか!」
それは《サンザーラ》の手が国にも深く入り込んでるて事か⁉
「《サンザーラ》と言う組織は君が考えてるより遥かに大きい」
「そう……《サンザーラ》を裏で支配し操ってるのはあそこに居る」
「…………」
まて……まさか、それてつまり《サンザーラ》を支援してるのが国って事か?
「変な事を考えるなよ。俺達にやったような無茶はあそこには通用しない」
「我々などと格が違う化け物が犇めいている」
「……流石にあそは誰も手がだせない。俺達に出来るのは精々《サンザーラ》の下っ端を寄せ付けない事くらいだ」
「…………」
そんな……、国がそんな事をして許されるのか? 許していいのか?
市民はその事を知っているのか?
プリシアとユリザの件の様な不幸を振りまく存在を放っておいて良いのか?
「君は血気盛んで若い。心配だから念の為に言っておく。あそこには《S級》冒険者に相当する猛者が40人以上は居る。中にはそれに収まらない化け物もな。だから例え冒険者組合が束になっても勝つ事は出来ない。戦力が圧倒的に違いすぎるのだ……」
「それが国家の力だ。人の数も質もぜんぜん違う」
確かに、国家権力がヤバいのは当然だ。
組織化した軍事力に少し強いだけの個人なんて何も出来やしないんだろう。
「テルト・リバースよ。ゴルトン商店から手を引く事は必ず約束する。ワシを信じろとは言わない。約束を違えたその時は、この王都でも最強と言われるその《S級》の力、それを我々に振るうがよい」
「…………」
もうゴルトン商店の話がちっぽけな問題になってきた。
「くっそーーーーっ‼」
ドオオオオォォォォーーーーン‼
俺は床を拳で全力で殴った。
頑丈な石畳が崩れ直径1メートル程の穴が開く。
……パラ……パラ……
「なっ! なんて力だ!」
「あれが《S級》の力!」
「さっきまでは手加減してたって事か⁉」
「…………気はすんだかね? テルトくん」
「もし……ゴルトン商店に何かあったら……本当に許さない……」
気が済むわけがない。
今の俺には結局このマフィアを潰し切る事もできないし。
ましてや国や《サンザーラ》にも何も出来ないも同然だ。
少し強くなって何でも出来そうな気になっていた。
だけど結局は出来ないことの方が圧倒的に多いんだ。
「最後に1つ聞きたい事がある」
「……何?」
ノービルと呼ばれた男が声を掛けてきた。
「君がこんな無茶をしてまで守ろうとするそのゴルトンとは、君にとってどんな人なんだ?」
「……家族だ」
「そうか……家族は大事にしないとな」
タンッ! ドン!
俺は開いた穴から1階に飛び降りてその場を後にした。
◇◇◇
テルトが立ち去った後もロスカルファミリーの幹部会は続く。
「ドン・ロスカル、どうしますか? 暗殺者でも雇って始末しますか?」
「止めなさい。今の約束は本当の約束だよ。テルト・リバースとゴルトン商店には手を出す事は認めない」
「はっ!」
確かにテルト・リバース1人なら暗殺くらいは容易い。
だが冒険者組合は厄介だ。
国に次ぐ戦力を持つと言われる組織と安易に敵対する訳には行かなかった。
「それに、いずれは《サンザーラ》相手に共闘する事があるかも知れない」
ノービルというドン・ロスカルの右腕がそう呟いた。
◇◇◇
俺はゴルトン商店に戻りベッドの中で後悔していた。
なまじ中途半端に強くなってしまったから今回の様な無茶をしてしまう。
「やりすぎたか……報復、されないかな……」
翌朝。昨日の事があって俺は寝付くのが遅く少し寝過ごしてしまった。
「いらっしゃいま……! ゲイルさん!」
「よう……」
「⁉」
顔を洗に1階に降りると。
ゴルトンの所にまたゲイルが来ていた。
やっぱり終わっていなかったか!
丁度俺が居る時間でよかった、ゴルトンには絶対に手を出させない!
「あのっゲイルさん今日は何の御用で……、今月分は昨日確かに払ったはずじゃ……」
ドンッ! ジャラジャラ……
「……こっ、これは?」
そう言ってゲイルはカウンターの上に金貨の詰まった袋を置いた。
「昨日取りすぎた分だ、来月からもいつもどおりの金額でいい……」
「あっ……あ、ありがとうございます!」
ふぅ……そう言う事か。
みかじめ料を取る事すら、俺からすればおかしいけど。
この世界にはこの世界のしきたりや常識がある。
ゴルトンからだけみかじめ料を取らないと周りの店との間に角が立つ。
ここが落としどころなんだろう。
「おはようゴルトン」
「おうテルトか、おはよう」
ゴルトンは嬉しそうに返事をした。
「金戻ってきたんだ? 良かったね」
「ああそうだな、でもどうして急に…………テルト、お前もしかして何かしたか?」
「いや? なにも?」
おっと余計な事を言ってしまったな。
「そうか……」
さあ。そろそろ休暇は終わりだ。
また《陽炎の迷宮》にでも繰り出すとしますか。
「おい! テルト!」
「どうした……クーベル!」
クーベルの声がしたので振り向くと、そこには顔を赤く腫らしたクーベルが怒りの形相で俺を睨んでいた。
顔が焼いた餅みたいにぷっくりしてる。
どうしたんだ?
またビグザールのおっさんの折檻か?
「テメェ! プリシナに何を吹き込みやがった!」
「……オッパイ……アタック……?」
クーベルの一言で完全理解。
どうやらプリシナのオッパイの次の犠牲者はクーベルだった様だ。
「このバカ野郎がああぁぁーーっ!」
その数日後。
夜な夜な町で顔を鈍器のような物で殴ってくる女の噂を聞くようになった。
中にはそれが聖女だったと言う話も。
教訓。
プリシナに冗談を言うと時に悲劇を生む────
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