三十話 01 緊急事態宣言
その日は突然訪れた。
『緊急事態宣言‼ 緊急事態宣言‼』
「なんだ‼」
「どうした? どうした?」
俺ことテルト・リバースが何時ものように空き倉庫で戦闘訓練していると《マジックビジョン》からけたたましい大音量が鳴り響く。
昼寝をしていた人も飛び起きそうな爆音だ。
俺は倉庫から出て一番近くにある《マジックビジョン》に駆け寄った。
『現在冒険者組合から連絡があり、王都直近の《陽炎の迷宮》にクラス八の《スタンピード》の予兆が現れたとの事です』
「《スタンピード》だって! 大変だ」
もう既に大勢の人集り、《マジックビジョン》に映るレケットの姿を見ながら騒ぎ出していた。
『もし《スタンピード》が起これば8回目となり歴史上初の出来事です。王都でも大きな被害が出る事が予想されます』
「大変だ‼ 早く逃げないと!」
『市民の皆さんは王都から出ずにそのまま待機してください。王都より外の方が防壁もなく危険です。繰り返します……』
さっきから《スタンピード》ってなんだ?
地震とか何かの災害か?
「おいっテルト!」
「テルト!」
俺がさっきまで居た倉庫の方からクーベルとエナが慌ててやって来た。
「クーベル、エナ、これは何の騒ぎ?」
「《スタンピード》です!」
だからその《スタンピード》って何よ。
「《陽炎の迷宮》から大量の魔物が出てくるんだ!」
『全ての騎士と予備兵は所属の兵舎へ。全ての冒険者は冒険者ギルドに集合して下さい。繰り返します……』
…………なるほど《魔物の大氾濫》か。
なら俺達冒険者の出番って訳だ。
『……あっ、たった今変更が入りました! 冒険者の皆さんは《陽炎の迷宮》前へ現地集合! 人が組合の建物内に入り切らない為《陽炎の迷宮》前に現地集合です! 繰り返します……』
確かに冒険者ってこの王都に6000人くらい居るんだっけ?
そりゃ組合の建物に入り切らないよね。
「……よし《陽炎の迷宮》前に急ごう!」
◇◇◇
普段どこにこんなに居たんだってくらい大勢の冒険者が《陽炎の迷宮》前に集まっていた。
冬が近いけど日差しはまだ熱い。
各所に日よけの天幕が張り巡らされていた。
「皆さんお静かに、私はロイナード。今回の作戦指揮を取らせてもらいます」
「おおおぉぉぉぉーーーーっ」
「ロイナード様なら適任だ!」
「間違いない!」
いつの間にか木を組み上げて立てられていた高い台の上に、ロイナードが立ち上がって大声で呼びかける。
周囲からは大歓声が湧き上がった。
ロイナードってこんなに人気があったのか。
「今から状況の説明と対《魔物の大氾濫》への作戦をお話します。まず《魔物の大氾濫》とは《陽炎の迷宮》から魔物の大量に波状に湧き出る現象です」
俺達がロイナードの話を聞いていると、冒険者が1人駆け寄って来て高台に行くように促された。
ロイナードの命令らしいけどなんの用だ?
面倒な事は御免なんだけどな。
「そして《魔物の大氾濫》はその回数を重ねる毎にその規模も大きくなる。今回この《陽炎の迷宮》で《魔物の大氾濫》が起こるのは歴史上8回目であり、これまで世界で一度も無かった事でありその規模は全く未知数です!」
……ザワ……ザワ……
「防げるのか俺達に……」
なるほどね。
俺の為に説明してくれてるのかとも思ったけど、どうやら俺と同じ様に《魔物の大氾濫》の事を初めて知った人も結構いるみたいだ。
「おそらく全ての魔物の駆除は不可能です。まず完璧に防ごうとするのは諦めて下さい! 王都に向かう凶悪な魔物をまずは優先して倒す事! それ以外は各地の町や村の冒険者に任せる事にします!」
「小さい村は……見捨てるって事か……」
「仕方ない……俺達だけじゃどうにもならない……」
まじか……。
俺が最初に立ち寄ったコントロ村なんか冒険者なんて1人も居なかったぞ?
そういった小さ村は見捨てるのか……無事だと良いな。
「さて、魔獣の波状攻撃は昼夜を問わず来るでしょう。そこで冒険者をグループに分けて昼間と夜間の防衛を組分けしました。《極昂の虹》の皆さん前へ!」
……ザワ……ザワ……
丁度高台に到着した俺達はロイナードに従って壇上に上がって整列する。
もう既にそこにはアグニス達《蒼炎の大掟》が揃っていた。
「まず昼間の防衛はこの《S級》冒険者パーティ《極昂の虹》が筆頭に立ちます。そして夜間は我々《蒼炎の大掟》が引き受けます」
「あれが新しく《S級》冒険者になった《極昂の虹》か」
「本当に子供じゃないか。大丈夫なのか?」
「不安だな……」
なるほど。
戦力を均等に分配するって事か。
「しかし《極昂の虹》は結成間もない為、《蒼炎の大掟》から1人ハボッコを貸し出します」
「えっ?」
「ハボッコってあのハボッコ?」
嘘だろ……あんな奴なら居ない方がマシだって!
「ハボッコ……は遅刻してるようですね、後で面通ししておいて下さい。残りの冒険者は各自掲示場を見て昼間か夜間かを確認し、体調を整えて置くように!」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!」
「では解散!」
ロイナードの言葉に従い各冒険者は掲示板へ群がり分担を確認して、各々キャンプを準備したり王都へ戻り始めた。
「テルトさん話は今話した通りです。良いですね?」
「大丈夫」
「それとこれを。計画書です後で目を通して置いて下さい。細かい所は弟子のハボッコが行います」
俺はロイナードから計画書を受け取った。
「ハボッコねぇ……」
「では私達は夜間に備えて戻って休息します。《魔物の大氾濫》が何時始まるかわかりません、油断しないように」
「分かってる」
「数日掛かるらしいから、あまり無茶をしないように」
「ああ」
アグニスは最後にそう言って王都へ馬車で戻って行った。
数日がかりの作戦か大変そうだ。




