二十九話 02 ドン・ロスカル
ゲイルのボスが居る場所は西区の中でもっとも王城に近い地域にあった。
なんの看板も無いけど周辺では最も大きい建物だ。
バタンッ‼
「ひっひぃいっ! ボス助けて下さい!」
そこの2階のドアを蹴破りゲイルを中に押し入れる。
ゲイルは案内した後殺されると信じ込み恐怖に引きつった顔をしている。
「何事だ?」
「今大切な幹部会の最中だぞ」
ゲイルに向かって幹部らしき人が厳しい顔で睨み付けながら言い放つ。
その誰もが突然の出来事にもそれほど動じていない。
流石にマフィアの幹部だけあって肝が据ってる様だ。
「悪いけど、その幹部会は一時中止して貰う」
室内は学校の職員室くらいの広さだ。
左右の長い机に幹部らしき人達が列席している。
正面にの一際大きな机にはボスと思しき爺さんが座っていた。
俺はボスの反対側の正面へ右の入口から静かに歩いて止まった。
「何だ貴様!」
「フザケたガキだ……叩き出せ!」
「……ほうあの少年は……」
「きっ、気を付けて下さい! そのガキはむちゃくちゃ強いですぜ!」
俺の姿を見て何人かの幹部が怒声を浴びせる。
ゲイルが手足を縛られ転げながら叫んだ。
殺される心配が無くなり安心してる様だ。
「ゲイルのやつ何を馬鹿な事を」
「《頑甲拳!」
ドンッ! ドンッ!
「ぐわっ!」
「げはっ!」
……ドサ……ドサッ!
幹部の後ろに控えていた護衛らしき2人の男が近寄って来たので、俺は挨拶代わりに床に這いつくばらせる。
俺の話を聞く気にさせるには結局こんな方法しか無い。
「なっ……このガキ只者じゃ無い!」
一瞬の出来事だ。
素人目に見ても俺の動きが普通じゃ無いって分かるだろう。
アグニスに敗れて以来俺は無駄な動きを極限まで削る事を追い求めた。
幹部連中の俺を見る目が驚愕に変わる。
「先生お願いします!」
「……わかった」
部屋に入った時から目立っていた一際屈強な『先生』と呼ばれた巨漢が立ち上がり俺の方に向かってきた。
さっきの俺の動きが死角で見えなかったのか?
実力差が分かってないようだ。
サッ!
「⁉」
バッ……キュル……
俺は余裕の表情で不用意に近付いてきた『先生』とやらの袖を掴み投げ飛ばす。
ドンッ!
遥かな巨体が途轍もない勢いで床に叩きつけられた。
倒れた『先生』とやらのの強面が余裕から怯えに変わる。
やっと理解できたか。
俺はお前より強い。
なにしろ図体だけならあんたの何倍もある魔物を《陽炎の迷宮》で倒して来てる。
「先生がやられた⁉」
「おいっ、全員で畳んじまえ!」
部屋に居た幹部も全員立ち上がる。
全員がそれなりに腕っぷしは強そうだ。
「まて、それまでだ。止めなさい」
「……ドン・ロスカル⁉ 何故止めるんですか!」
俺がどうやって全員を効率良く叩きのめすか考えていると、部屋の正面に座るドン・ロスカルと呼ばれた爺さんが戦いを止めた。
「戦うまでもなく勝負は見えている。まず少年よ何の様でここに来たか話を聞こうか」
答えたのはドン・ロスカルの隣に座る腹心の部下っぽい男だった。
「あんたらが西区にあるゴルトン商店のみかじめ料を上げたり、襲撃して追い出そうとするのを止めてもらいたくてね」
さてこれが断られたらどうするか。
……それこそ、ここにいる全員の腕でもへし折ろうか?
なんかヤバいこと考えてるな俺。
「……なんの話だ?」
「私は何も……ゲイル、どういう事だ?」
「そっ、それはゴルトン商店が最近荒稼ぎしてて、周りの古馴染みの店から苦情が来てて……!」
「勝手な事を……」
どうやらゴルトン商店を潰すって考えはゲイルの独断だったらしい。
「ふむ。わかったゴルトン商店に手を出さない事を約束しよう」
「ボス!」
正面にいるドン・ロスカルと呼ばれたボスがそう言った。
けど本当だろうか?
話しが上手く行き過ぎてる。
「…………本当に手を出さない保証は?」
「それはワシを信頼して貰うしかあるまい」
「……反社会組織の言う事なんか信じられないな」
俺みたいなガキにこんな事されて、マフィアがこんなにあっさり引き下がるか?
約束したって守るとはとても思えない。
「貴様! こんな侮辱されてう我慢出来ない! ドン叩きのめさせてくれ!」
「そうだ! たとえゲイルの独断だったとしても、こんな舐めた事されたら俺達の面子が丸潰れだ!」
そうだ。
所詮マフィアなんてどこの世界でも面子を気にして暴力を振るう。
こっちの暴力が上だって証明するしかない!
「止めなさい。全員束になってもその少年、テルト・リバースには勝てんよ」
「⁉」
俺の名前を知っている?
俺は念の為フードを目深に被っている。
どうして分かった?
「ドン知ってるんですか!」
「久しぶりじゃなテルトくん。と言っても覚えておらんかも知れんが」
「確かに……何処かで……」
確かに言われてみれば見覚えがある。
……でも一体何処で? マフィアのボスと会う機会なんてあったか?
「313番水路の地下牢に閉じ込められ、《魔人ネグザレム》に操られていた者と言えば思い出すかな?」
「……あっ、あの時の!」
隣にいる腹心の部下らしき人の答えで思い出した!
《魔人ネグザレム》を倒した時に、俺達がその場に居た事を黙ってくれと頼んだあの時の爺さんだ!
よく見ると隣の腹心の部下もその時の屈強な男だ。
「どういう事ですかドン・ロスカル!」
「ワシ等が《サンザーラ》の手に捕まっていた時、例の《魔人ネグザレム》を倒した者こそ、そこの少年テルト・リバース。言わばワシの命の恩人だ」
「そっ、そんな!」
「いやでも《魔人ネグザレム》を倒したのは聖女プリシナ様だと聞いています!」
そうだ《魔人ネグザレム》を倒したのは聖女って事になってる筈だ。
どうして俺が倒したと知ってる⁉
「いや。ワシとノービルだけは蟲に操られて居る最中でも意識があった。その少年が《魔人ネグザレム》の両腕を切り落とすのをしかと見ておる」
「こんな少年が我々の宿敵の《サンザーラ》を? 信じられない‼」
「相手はあの《魔人》だぞ? 人間に倒せる訳がない!」
そうか。
そう言えばユリザも蟲に操られている時の記憶を失っていなかった。
意思の強さか何かで一部の人は記憶を保てるのかも知れない。
「それだけではない、私はボスの命令でその少年の事を調べて来た。各地で盗賊団を退治したり、呪われた少女を救ったり数々の功績を上げている事が分かった。そして今や《S級》冒険者《極昂の虹》のリーダーにまでなっている」
オオオオォォォォーーーー……
「あの特例で冒険者になったって噂の‼」
「この王都で6人目の《S級》冒険者!」
「確かにそれなら《魔人》を倒せても不思議は無い!」
あの後俺の事を調べられていたのか。
いつの間にか幹部達の顔から怒りの感情が消えていた。
それどころか感心する顔さえ浮かべている者も居た。
「我々も冒険者組合と事を構えるつもりはない。どうか信じて貰えまいか?」
「……それは…………」
どうする?
このドン・ロスカルって人は確かに悪人って感じには思えない。
一応俺が爺さんの命の恩人って事もある。
約束した事は守ってくれそうな気がする。
…………ゾゾゾゾ…………
信じてみても良いのか?




