二十八話 01 大改装
俺ことテルト・リバースは休暇3日目の夕方。
「おいテルト、俺の分の金を下ろせ金貨1枚で良い」
「ん? どうした? 今月分は払ったし、不足の事態に備えてパーティ資金は貯めるって事にしただろ?」
突然クーベルが俺の部屋に2階の窓から入り金を借りに来た。
既に給料は金貨1枚と大銀貨1枚、計15万ルド渡している。
この世界の物価はそこまで高くないので1ヶ月金貨1枚もあればお釣りが来る。
残りのお金はパーティ全体で使うポーション等の備品費用に貯めてある。
最終的には全部山分けにするし、事情があれば何時でも渡す決まりだから別にクーベルに金を渡す事に何の問題もない。
けど相手はクーベルだ。
ロクな事に使う気がしないから理由を聞いてからだ。
「全部預金しちまってな。今ねぇんだ」
「……なら下ろせば良いだろ」
「下ろすのにも金がいんだよ。競闘場って銀行だからな」
「それってギャンブルだろ! なーにが預金だよ。ダメダメどうせ負けるに決まってる」
やっぱりロクな事じゃ無かった。
競闘場ってのはこの王都の三大娯楽と言われる賭博場だ。
その名の通り、何かを戦わせてその勝敗に賭ける。
人が戦う場合はボクシングの様な競技。
動物同士が戦う場合は死ぬ事もある。
「違うってここだけの話、必勝法があるんだよ!」
「……イカサマか?」
「ちげーよ!」
「……いいかクーベル。技量の介在しない確率のギャンブルにおいて、必勝法は存在しないんだよ」
競闘場は俺も1回行った事がある。
戦うのは実力がほぼ同じ者同士だし、実力差がある場合もハンデが付けられる。
ハンデはオッズが変わると変更されるので、毎回ほぼ2倍対2倍になる。
はっきり言ってコインの裏表で決める方がマシだと思った。
まあ観客が見たいのはバイオレンスで、賭けはオマケみたいなものなんだろうけど。
「な事ねぇよ! いいか1回目は10ルド賭ける。それでハズレたら2回目は倍の20ルド賭ける。それもハズレたら3回目は40ルド賭ける。これを繰り返せば絶対に負けないんだよ!」
「……その方法、10回連続くらい負けると破滅するぞ?」
「はぁ?」
クーベルの言ってる必勝法は中学1年くらいの時に友達に教えて貰った。
マルチンゲールって言う結構有名なギャンブルほぼ絶対の必勝法だ。
……ただし、資本が無限にあればの話だ。
低確率だけど連続で何十回も負けたらどうなるか計算してみろバカタレが!
「……ほらよ。ただしこれが最後だ。バカは実際に経験して学習しろ」
「はんっ! 10倍にして持ってきてやるよ!」
俺はクーベルに金貨1枚を渡してやった。
クーベルの頭で理解できる様に説明するのも面倒だ。
高い授業料払って実際に負けてこい。
それでも学習しなかったら次からは渡さない。
クーベルは自信満々に2階の窓から飛び出して行く。
……バカの相手してたら喉が乾いてきたな。
◇◇◇
俺はゴルトン雑貨店の1階に水を飲みに降りた。
「駄目だなぁ」
「どうすんのさ親父ぃ」
居間で早々に店じまいしたゴルトンとアミーネが何やら難しそうな顔をして帳簿と睨めっこしている。
「どうしたの2人共、ひなびたミミズみたいな顔しちゃって」
「ミミズに顔があるのかよ」
「まあ世知辛いって事さ」
「もしかして店の経営が厳しいとか?」
アミーネが本当に世知辛らそうな顔で答えた。
帳簿を見ながら悩んでるなんて他に理由が思いつかないなぁ。
「最初こそ良かったが、最近はどうも客足が重い」
「やっぱり食料品店にした方が良かったんじゃない?」
「いや無理だ食料品の流通は押さえられてる、今からじゃ参入できねぇ」
オロフォンでは日持ちのする食品や香辛料を扱っていたのに、王都では雑貨店になっていたのが気になってたけどそういった理由があったのか。
「でも雑貨なんてそんな需要が長続きしないんじゃない?」
「だが他の商いに変えようにもご近所と競合しちまうしなぁ、雑貨屋で行くしかねぇよ」
確かに商品のラインナップは頑丈で長持ちしそうな道具ばかりだ。
毎日消費するのが確定してる食品と違って安定しなそうだ。
なるほど商売って難しいんだな。
「ふぅん……」
何度もゴルトン雑貨店の周りを通ったけど人通りは充分だし、相当良い立地に思える。ただ俺はずっと気になる事があった。
この店地味なんだよなぁ。
周りの店に埋もれてるっていうか。
「もう少し様子見するしかないか」
やばい、うずうずしてきたぞ……!
「ゴルトンさんちょっと相談があるんだけど」
「なんだぁ?」
「この店、少し俺に任せてくれないか?」
「はぁ? 何言ってんだテルト?」
何を言ってるんだろうって自分も思うけど。
ここをこうしたら良いのにって点がこの店には幾つかあった。
「この店を改装したい。もちろん費用は俺が出すから」
「バカ言ってんじゃねぇ、素人に何が出来る。それに金っつったって……」
「まあ聞いてくれ。ちゃんと何処をどう改装するかその理由も説明するし。金は冒険者やって結構あるんだ」
確かに俺は素人だ。
だけど俺の元の世界はこの世界より進んでいて、それを見て使って知っている。俺の知識で何とかなるかも知れない!
多分だけど同じ《転生者》の誰かがもうテレビまで持ち込んでしまったんだ。
俺も遠慮なく元の世界の知識を活かしていいだろう。
「確か《S級》冒険者になったんだっけ? そんなに……儲かるのか?」
「全部使う訳には行かないから……半分の金貨50までは出せるかな」
「金貨50枚⁉」
「まじかよ……まだ冒険者になって1ヶ月だよな……」
そう。
そして俺達はこの1ヶ月で金貨100枚と言う大金を稼いでいる。
それで少し気が大きくなってるのかもしれない。
「どうする親父ぃ?」
「どうするって……」
「ゴルトンさんには世話になりっぱなしだったし。ここで恩を返させてくれよ」
最大の理由はこれだ。
ゴルトンにこれまで受けた恩は金貨50枚払っても良いような気がする。
「そこまで言うなら……話しくらいは聞くか」
さて久々にゴルトンとの説得交渉バトルだ。
「まずは店の形から、扉を大きくして壁もぶち抜いてガラスを張って店内を見やすくする」
「なんの為に?」
「どんな物があるか店の外からでも見えると興味を持つし。店の中に先に客がいるのが見えると入りやすかったりするんだ」
「そうなのか?」
「言われて見ればそうかもしれないけど、そんな店見た事ないよ?」
実を言うと出鱈目だ。
本当の理由は知らないけど俺の世界では大抵の店の正面は一面ガラスで、店内が見える様になっている。
その理由はそうなんじゃないかなって勝手に予想しただけ。
「そして会計カウンターを今の店の奥から出入口にする」
「なんの為に?」
「店を出る時に会計をした方が良いでしょ?」
むしろ何で会計が店の奥なんだよ!
この世界では基本会計は店の奥だ。
……そう言えば日本でも古い店では店の奥が会計になってる気がするな。
駄菓子屋とか。
ともかくこの後も俺は適当にそれっぽく言ってゴルトンを丸め込んだ。
俺はこう見えて結構詐欺師の才能があると思っている。
人を騙すのに良心が傷まない。
「じゃあ決まり! まずはこれで業者に発注しよう!」
「不安だが……まあそこまで言うなら……」
工事は2日ほどかかった。
改装といっても玄関の壁を豪快にぶっ壊して、俺の作った鉄のフレームにガラスをはめ込んだ物を壁に変えただけだ。
「よしリフォーム完了だ!」
「おおっ! 確かに店の前がガラス張りはなんだかいいな。何というか……良い!」
「凄い透明だね。高かったんじゃない?」
透明なガラスは高価で値は張った。
窓ガラス大のガラスを鉄の細いフレームにはめてた。
本当は大きい1枚ガラスにしたかったけど。
遠目からは殆ど目立たないし、かえってオシャレになったかも?
「製鉄工房のツテで結構安く押さえられたよ」
「流石テルト!」
「偉い!」
エナとシャロンが窓ガラスの埃を綺麗に拭き取りながら褒めてくれた。
いやシャロンは逆に汚してるけど……かわいいから良いか!
「さあ次は内装だ。まず入口の横には新聞と新しい本を置く」
「なんでまた? そんなもんうちじゃ扱って無いぞ?」
「ここでお客に立ち読みしてもらうんだ」
「そんな事されたら誰も本を買わねぇし、大損じゃねぇか!」
これは聞いた事があったから確かな理由だ。
どこのコンビニでも本や雑誌は窓際にある。
「最初に説明した通り店内に人がいると新しい客が入りやすいんだよ。それに本当に何も買わず本だけ読む客は滅多に居ない……と思うよ」
正直これは分からない。
もしかしたら本当に立ち読みだけして立ち去る人ばかりかも。
俺もよくやるからな……。
「そうかねぇ」
「とりあえずそこはやってみてから工夫しよう」
例えば一定時間以上立ち読みしてる人からは金を取るとか、まあ問題が起きてから考えればいいでしょ。
「さあ次だ!」
まだまだ俺のゴルトン雑貨店の大改装作戦は始まったばかりだ!




