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二十七話 03 マジビジョン


 俺とエナが王立図書館から帰宅中。


 人気の無い通りを歩いていた。

 どんな大都市でもこういった人が居ない場所が必ず生まれる。


ザッ……


「待ちな」

「何?」


 だから俺はつい油断していて、挟まれた事に気付けなかった。


 前に2人後ろに1人……全部で3人か。

 全員黒尽くめのローブだったり軽服を着ていた。


チェキンッ…………


「テルト!」

「なんの用だ……?」


 目の前の1人はナイフを手に握り、もう1人は杖手に持ってる。


 後ろの1人は……剣かよ。

 俺は当然剣を持っていない。


「悪いが少し痛い目にあってもらうぜ」

「物取りじゃなさそうだ、エナ注意して」

「はい!」


 『金目の物を置いていけ』とは言ってない。

 なら狙いは俺かエナ……まさか《サンザーラ》か?



【ボーナスミッション「襲撃者を撃退せよ」を開始しますか?】

条件、襲い来る者達を撃退する。制限時間1時間。

注釈1、報酬スキルはこのミッションの達成時に取得する。

注釈2、倒す必要なし。

報酬スキル、《スキル連結(れんけつ)

【はい/いいえ/詳細】



 ミッション発生だ……ボーナスミッション?

 まあいいか。


「《弾空脚ヴィントホーゼ・フース》!」

「……」

「何⁉」


 違うかな。

 ナイフの男が使った移動スキルはまずまずだけど動きに無駄が多い。

 《サンザーラ》ならこんな半端な刺客は送り込んだりしない。


ゴフッ!


「がはっ……!」


ドサッ


 ナイフで斬り掛かって来た男のみぞおちに軽く拳を埋め込む。

 男は悶絶して呆気なく膝を折る。


 一昔前の俺なら考えられない事だけど。

 今の俺ならナイフを持ったそこそこの使い手相手でも素手で勝てる。


「……ドーファン! こいつっ!」

「ただのゴロツキの物取りにしては強いな」


 しかし単なるゴロツキにしては動きが鋭い。

 いやむしろ相当の手練に分類されるくらいだ。


「舐めるなガキが! 《俊熱刃(ヒッツェ・クリンゲ)》!」

(《雷震の把手(トルエノ・アステール)》、《時層の思覚クロノス・ディアノイア》)

「ビュンッ!」

「馬鹿な躱せる訳が……」


 2人目の後ろから剣を持った男はさっきより簡単じゃなかった。

 流石にリーチのある剣だ、俺もスキルを使って回避しなきゃ間に合わない。


「《雷震の把手(トルエノ・アステール)》!」


バチンッ!


 斬り掛かった男の剣を紙一重でかわして背中に掌底を当てる。

 ある程度コントロール出来るようになった雷撃付きで。


「ぐわっ!」


……ドサッ


 剣の男は痺れる様に倒れる。

 と言うか痺れて倒れた。


「なっ⁉ なんだコイツの動き! 普通じゃねぇ!」

「くそっ! このままこの《A級(エーランク)》冒険者《暗影の黒犀(あんえいのくろさい)》がやられっぱなしで終われるか!」

「ばっ馬鹿やめろギギース! 女も巻き込むぞ!」


 んっ?

 今冒険者って言ったか……?


「《舞立つ火球(イグニス・スフィアー)》!」


 前に居たギギースと呼ばれた魔術師が火炎魔法を使った。

 不味い!

 火炎魔法はその範囲が広い!


「《氷衣の盾壁グラチェス・スクトゥム》!」


ボホオォーーフッ!


「なっ、馬鹿な!」


 なんて焦る間もなくエナの耐炎魔法が炎をシャットダウンする。

 杖が無くても使えるのねその魔法。

 助かった。


トンッ!


「《呀甲拳(ガコウケン)》!」


ゴフッ!


「かはっ……そんな……嘘だろ……!」


ガクッ!


 俺は残った魔術師の腹を殴り。

 杖を取り上げて制圧した。


「ありえねぇ……俺達は《A級(エーランク)》冒険者の《暗影の黒犀(あんえいのくろさい)》だぞ……こんなガキ1人になんで」


 さて何が狙いだったか尋問でもしようかな。


「こんな所で何をやっているのかと思えば…………」

「……あっ、アグニスさん!」

「アグニス……」


 後ろから現れたのは紅色の髪を束ねた普段着姿のアグニスだった。


 アグニスもロイナード達と同じ《蒼炎の大掟(そうえんのたいてい)》のメンバーだ。

 しかも俺と同じ日本からの転生者で、目は女だけど中身は白瀬(しらせ)貴明(たかあき)と言う男だったりする。


 この冒険者とアグニスは知り合いらしい。

 ますます話しが分からなくなって来たぞ?


「アグニスさんこのガキが急に俺達を襲ってきたんです! 助けて下さい!」

「どこから説明しようかな……まずそのガキは、テルト・リバースと言って私の知り合いで、何も悪くない君達を一方的に襲うなんて事は絶対にありえない」

「……えっ?」


 ギギースと言う男が俺に冤罪をなすり付けようとしたけど、そんな嘘をアグニスが信じる訳がない。


「そして君達が負けたのは、そのテルト・リバースが《S級(エスランク)》冒険者の《極昂の虹(きょっこうのにじ)》のリーダーだ。完全に格上だから当然なんだよ」

「《S級(エスランク)》冒険者⁉ そっ、そんな!」


 ギギース達は悶絶しながら驚愕した。


「でも《S級(エスランク)》冒険者が《蒼炎の大掟(そうえんのたいてい)》の五人以外にいるなんて、聞いた事がない! それにガキは冒険者になれないはずだ!」

「特例でね、最近なったばかりなんだ」

「そっそんな話ハボッコさんから聞いてねぇ」

「しっ、知らなかったんだ!」


 ギギース達はよろりよろりと立ち上がって弁明した。

 なるほど。裏に居たのはハボッコか。


「ギギース、もうハボッコの腰巾着は止めた方が良いよ。ロイナードも頭を痛めてるから、そのうち纏めてお叱りを受ける事になる」

「はっ、はい!」

「もっ、もうハボッコ様とは二度と関わりません!」


 ギギース達は引きつった顔で何度も頭を下げて謝った。

 俺じゃなくてアグニスに対して。俺に謝れって。


「これからはアグニスさんに付いていきます!」

「いやそれは良いから」


 アグニスが素の男に戻って拒否する。


「それとテルトもこの場は私に免じて穏便に頼むよ、ハボッコに絡まなければそれなりに有能な連中なんだ」

「分かってるって」


 ギギース達は腹と背中をさすりながら立ち去って行った。


 何で俺を襲ったか理由を聞くのも面倒だ。

 ハボッコって名前を聞いて大体予想付くし。



【ボーナスミッション「襲撃者を撃退せよ」達成】

【スキル「《スキル連結(れんけつ)》」を取得しました】

【閉じる】



【《スキル連結(れんけつ)》】

タイプ特殊、消費SP2

複数のスキルを同時に発動する事が出来る。

【閉じる】



 ミッションも達成したし……《スキル連結(れんけつ)》か。

 これは面白そう。


「災難だったね」

「まあそうでもないけど」

「あのっアグニスさんありがとうございました」

「いや大した事はしてないけど」


 アグニスが来なけりゃギギース達がもう少し痛い目見てたってくらいか。


ガヤガヤガヤ……


「なんだろう」


 アグニスと並んで歩きながら広い通りに出ると何やら騒がしい。


『みなさま、始めまして私はマッケロと申します。私の姿が見えていますでしょうか?』


 突然大きな音が辺りに響き渡る。


「おい見ろよ!」

「なんだなんだ?」


 人々が指差す方向を見ると、そこには昼間見た黒い看板があった。

 ……いや違う。


 昼間は真っ黒だった看板に今はくっきりと男の姿が映っていた。

 しかもその男の手や顔の表情が細かく動いている。


『これは《マジックビジョン》と申しまして、遠く離れた場所に映像を移す事が出来るものでございます』


「アグニス! これって!」

「テレビ……だな」


 間違いない。これは俺の良く知ってるテレビだ。


 しかも幅5メートルはある厚さ10センチ程度の薄型のテレビ!

 俺もギリギリ幅の厚いブラウン管テレビを見た事はある。

 これ技術を一段階すっ飛ばしてないか?

 あっ、白黒テレビ時代もあるし2段階くらいか?


『これまでは《魔眼の水晶球まがんのすいしょうきゅう》と《遠映の水晶球えんえいのすいしょうきゅう》の様に高価で、一箇所ににしか映像を映せませんでしたが。これからはこの《マジックビジョン》によって、この王都中に同じ映像をお届け出来るようになったのです! いやぁ素晴らしいですね!』


「おおおおぉぉぉぉーーーー!」

「これは凄い!」

「嘘みたい!」


 周囲から大歓声が上がる。

 そりゃそうだろう。


「どう思う? テルト」

「多分俺達と同じ転生者がこの世界にテレビの技術を伝えたんだと思う」

「だよな。よし俺は……私はその線で技術の発生元が何処か調べてみます」


 これまで見た感じ、この世界には産業革命は起きてない。

 これは完全なオーバーテクノロジーだ。


 こんな物は俺達と同じ《転生者》でもなけりゃ作れっこない。

 ちなみに俺も《転生者》だけど、テレビなんて一生かけても絶対作れない。


 この王都の何処かに大人の技術者の《転生者》が居るはずだ。


「あのテルトとアグニスさんって仲が良いんですね」

「えっ?」


 俺とアグニスが話してるとエナが声を掛けてきた。

 その顔は笑顔だけど……笑っていないんですけど。


「も安心してエナさん。私とテルトは単に故郷が同じだったってだけ」

「同じ故郷? 全然見た目は似てないけど……」

「恋仲とか、そういうのではないから」

「えっ……⁉ ええっえっと……私そんなつもりじゃ……!」

「アグニス!」


 アグニスの言葉にエナは顔を赤染めながら手を振った。


 いやフォローしてくれたのはありがたいけど、余計な事言わないでくれ!


「ではお2人さん、私は失礼するわね」


 わざとらしく言ってニヤつきながらアグニスは立ち去っていった。


「あのっ……その違うんです!」


 ……気まずいだろうが!

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