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二十七話 02 王立図書館

 禁書庫の広さは普通の図書館くらいで思ったより狭かった。

 中には誰も居ない。


 貴重な本なんだろうけど人に読まれないのは悲しい事だなぁ。

 なんて思ってみたりして。


「手伝い、テルトはどんな本を探してるの?」

「いや、エナはロイナードから進められた本を読んでていいよ。持ち出し禁止だからここでしか読め無いんだし。こっちは俺1人で大丈夫」

「うん。わかった」


 ここに俺の求める答えが必ずあるとは限らない。

 エナの手を煩わせるのも何だ。


「さてと……この辺かな」


パサッ……パラ……パラ……


 翻訳された表題からそれらしい物を早速読み始めた。


 どうやら《陽炎の迷宮(ダンジョン)》は歴史の最初期には既に存在している様だ。

 始めは今より数も規模も小さく、そこから徐々に魔物も増えていったらしい。

 国が頭を悩ませる中、《陽炎の迷宮(ダンジョン)》に潜り込む冒険者が台頭していった歴史。


 本にはそういった事が小難しい言い回しで書いてあった。


 2冊目を読んでいるとかなり興味深い文献が見つかった。


 昔は魔法は限られた人だけが使えた。

 それが500年ほど前に突如魔法やスキルを使える人が爆発的に広がった。

 中にはこれまで存在しなかった様なスキルも増えた。


 目の前に使用者だけが見える文字が現れるスキルもこの頃に登場した。

 初期にはその文字に誤字が多く。

 時代と共に減っていった。


 やっぱり大昔には《陽炎の迷宮(ダンジョン)》はこの世界に無かったんじゃないか?

 ある日突然現れ徐々に広がっていったんだ。


「おやぁ、お客さんとは珍しいですね」


 俺が2冊目を読み終える頃に誰かが禁書庫内に入って来た。


 20歳くらいの男で天然パーマの深い茶色の髪にやや面長な顔をしている。

 そして何処かで見た事があるようなローブを纏っていた。


「それもこんな麗しき美少女とは、ようこそ我が庭へ! お嬢さんお名前は?」

「あの……エナです、エナ・ウェルカトル」

「私はこの禁書庫を預かるハボッコ、どうぞよろしく」

「はっ、はい」


 男は仰々しい身振りでエナに挨拶をするとハボッコと名乗った。

 なんか気色悪いな。


「しかしその若さで、この選ばれし者しか入室を許されない禁書庫に立ち入る事が許されるとは、さぞ秀才なのでしょうな。さてはて、どの様な本をお読みで?」

「えっと……これです」


 ……嫌な予感がするなこの男。


 エナがかなりの美人で道行く人の視線をよく集めていた。

 でもこれまで男に絡まれる事は無かった。


「《魔分子結晶理論》? あー、いけないいけない。そんな背伸びして高等な技術書を読んだってどうせ理解できる訳がない! 私が貴方のレベルに相応しい本を見繕ってさしあげましょう!」


ハシッ!


「なっ!」

「テルト!」


 俺はエナの左手を握ろうとしたハボッコの手を掴んで止める。


 俺の存在に気付いてなかったのか、ハボッコは怒り混じりの驚きの顔をした。


「誰かね君は! この手を離したまえ!」

「悪いけど俺の連れなんだエナに触らないでくれ。用があったらこちらからお願いする。静かに本を読みたい」


 ハボッコが手を振り払おうとしたので俺は無理をせずに離す。


 取り敢えずエナにちょっかいを出させる訳にはいかない。

 俺は……2度と一花(いちか)にしてしまった様な事はしない。


「貴様‼ この《S級(エスランク)》冒険者《蒼炎の大掟(そうえんのたいてい)》のロイナード様の弟子筆頭! ハボッコ・ハルミーエがせっかく親切で声を掛けてやったと言うのに!」

「ロイナードさんのお弟子さん?」


 思い出した。


 出かける時にロイナードが弟子のハボッコに注意しろって言ってたな。

 ……こういう事かよ。


「……苦労してそうだな、ロイナードのおっさんも」


 そう言えば喋り方の癖が少し似ている。


「貴様らロイナード様の知り合いか? ならば、まさか冒険者を目指していたりしないだろうな?」

「えっと目指してる言うか……なってると言うか……」


 なんか俺達も《S級(エスランク)》冒険者だって言っても話がややこしくなりそうだ。

 黙っとこ。


「ならば誤解しないように言っておこう。先程はロイナード様の弟子と名乗ったが、私自身も《蒼炎の大掟(そうえんのたいてい)》のメンバーであり、《S級(エスランク)》冒険者なのだ‼」

「あっそ」

「それは……凄いですね」


 エナも俺と同じ結論に至ったようで作り笑いで取り繕う。


「ぐっ……、貴様ら! この王都に5人しかいない《S級(エスランク)》冒険者のハボッコ様に対してその無礼な振る舞い‼ 貴重な時間を割いて話しかけてやったと言うのに……覚えてろ!」

「はぁ…………もう分かったから静かにしてくれ」

「ふんっ!」


 期待はずれの反応にイライラしてハボッコは出て行った。

 俺達が驚いてかしこまる事を期待してたんだろうな。


「良いんですかテルト?」

「良いも何も……、それより今日中に出来るだけ読んでしまおう。明日も来てまたアイツの顔を見るのは気が進まない」

「わかりました」


 正直今日中に全部読むのは無理そうだけど、またあのハボッコに会うのは嫌だった。




◇◇◇




 ハボッコはテルト達と別れた後、王立図書館のすぐ隣にある自分の根城に来ていた。


「ギギースは居るか?」

「……ハボッコ様、何か御用で?」


 ギギースと呼ばれた黒いローブを着た男が返事をする。

 ギギースはハボッコの弟分で忠実な部下である。


「久々に仕事だ……これを見ろ」


 根城に置いてある《遠映の水晶球えんえいのすいしょうきゅう》に王立図書館の禁書区の映像が映し出される。


 そこには本を読んでいるテルトとエナの姿が映し出されていた。


「この2人が今回の標的で?」

「女の方は傷付けるな。男の方を叩きのめして恥をかかせてやれ」


 禁書区の数カ所に《魔眼の水晶球まがんのすいしょうきゅう》が隠されていて、ハボッコはここから盗撮していた。


 エナの姿を見て気に入ってわざわざ出張ったのに、まさかコブ付きだったとは。

 でもあの男さえ居なければ、あの美少女を手に入れられる筈だ。


 そう考えていた。


「我ら《A級(エーランク)》冒険者《暗影の黒犀(あんえいのくろさい)》におまかせ下さい」


 ギギースは汚い笑みを浮かべながらハボッコに答えた。




◇◇◇




 ハボッコが図書館を出て行って2時間ほど経った頃。


「テルト、私の方はもう読み終わったので手伝えますよ?」

「えっ? 早っ、もう全部読んだの?」


 エナが読書家で本を読むのが得意だとは聞いていたけど。

 見ると300ページはありそうな分厚い本だ。


 しかも内容は魔術記号と言う特殊な記号が使われていて難解らしい。

 俺が呪術書を解読するのに数日掛かった事を考えると驚異的だ。


「はい。何すれば良いですか?」

「いや。実は目録を全部読んだけど、俺の知りたい事はどの本にも載って無くて」

「そうなんですか?」


 エナが本を読み終えるまで、適当に時間を潰してたのが本当の所だった。


「少し疲れたし、ちょっと休もうかな」

「はい。飲み物出しますね」


 エナが水筒を取り出しコップに注ぐ。


 図書館は食べ物の持ち込みは禁止だけど、飲み物はオーケーだった。


ゴクッ


「ふぅ……」


 なんと中身はホットのハーブティだった。

 もちろんこれは魔法瓶じゃない、本物の魔法の瓶だ。いや、魔法水筒か。


「あれって世界地図?」

「はい」

「へぇー……」


 壁に地図が飾ってあった。


 測量技術とかも無いんだろう、結構いい加減な地図だった。

 けど、それが却って趣があるなぁ。

 古地図ってなんかワクワクするね。


「あの……テルトの故郷ってどんな所なんです?」

「故郷か……良い所だよ。生活で不便な事は無いし、飯も美味しいし、楽しい事も沢山あったし」

「へぇ、この国よりも?」

「そうだな」


 エナが言葉を選ぶように聞いて来た。

 俺は地図を見ながら差し障りのない事実を答える。


 エナは地図を見て、俺の国はどの辺かって聞いてこなかった。

 まるで俺の国が地図の中に無い事を知ってるみたいに。

 考え過ぎかも知れないけどね。


「なのにどうしてこの国に来たんですか?」

「それは……一言じゃ言えないなぁ」

「ミッション……ですか?」

「いやそれは関係ないかな。ついでだよ」


 自分を試したいから。

 自分を変えたいから。

 面白そうだったから。


「そうなんですか」

「エナは何か将来の目標とかある?」


 俺はふと気になって逆にエナを見て尋ねた。


「私は……そうですね……。テルトが何をするのか知りたいです」

「えっ?」

「今は多分教えて貰えないですよね?」

「いや。そういう訳じゃなくて、実はまだ何をするか決まって無いんだ」

「そうだったんですか?」


 この世界でしか出来ない何かでかい事をやる。


 それが今の俺のやりたい事だ。

 具体的に何をするかはまだ見つけて無い。


「ごめん。でも決まったらエナにだけは必ず話すよ」

「本当ですか? じゃあもしテルトが何をしたいのか決まったら私も手伝います! 約束ですよ!」

「ありがとう。手伝ってもらえる事だったらお願いするよ」


 手伝って貰える事なら良いんだけどね。


「はい。クーベルさん達もきっと手伝ってくれますよ」

「どうかな、クーベル達に話してやるかはまだ決めてないけど」

「そんな可愛そうです」


 多分その時は、俺の秘密を全部話す事になる。

 信頼出来る人にだけ。


 その後休息を終えると、せっかくだしもう少し気になる本を読む事にした。


 ふと気付くと辺りが薄暗くなって本の文字が見え辛くなっていた。

 そろそろ秋も深まって大分日が落ちるのも早くなたな。


「もうこんな時間か。……エナそろそろ帰ろっか」

「うん」


 俺とエナは閉館時間の少し前に王立図書館を後にした。


 沈黙の時間の方が長かったけど、エナと一緒にいる時間は心地よかった。

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