二十四話 03 牢獄の解放
313番水路の近くの歩道付近にある空き家の屋根の上に薄目の赤い髪をポニーテルで結び全身に甲冑を身に付けた女性が立っていた。
この王都に5人しかいない《S級》冒険者のアグニスだ。
「しくじった? ……まだ彼は《魔人》を倒せるレベルじゃなかったかな」
「シュキン」
アグニスは隣の家の大きな煙突を見つめながら抜剣する。
「……ん? あれは?」
屋根の上を駆ける1匹の白い《シャルク》の姿が見えた。
◇◇◇
煙突から黒い影が空へ向かって5メートルほど打ち上がった。
やがて黒い羽をはためかせながら緩やかに静止する。
月光に照らされてその姿を浮かび上がらせた。
影の正体は両腕を失った《魔人ネグザレム》だ。
「クッ……私が引ク事ニなるとは……」
《ネグザレム》は緩やかに落下して煙突の上に舞い降りる。
「……マあイイまだ演舞ハ始マッタば……」
「ミュニャーーーー!」
《ネグザレム》へ向かって一匹の白い《シャルク》、シャロンが猛スピードで飛びかかる。
「フンッ! 小癪な使イ魔風情が!」
「フギャーーーー!」
ベリベリベリィッ!
「チッ……マさカこンナ低級魔獣にスラ傷ツケらレルほど削ラレたカ!」
《ネグザレム》は羽を使ってシャロンを打ち払う。
だがその羽がシャロンの爪に何枚も剥ぎ取られた。
本来であれば羽が取れるはずはない。
聖女プリシナの《聖光の浄槌》を浴びて《ネグザレム》の全身が《ガードブレイク》されていた。
シャロンの爪が羽に引っ掛かって《ネグザレム》に纏わり付く。
ビュン! ……ドガッ‼
「ヒギャーッ!」
《ネグザレム》は鬱陶しそうに羽ごとシャロンを屋根へと叩きつけ悲鳴を上げさせる。
ドンッ!
シャロンはちぎれた羽を爪に引っ掛けながら屋根上を跳ね飛ぶ。
《ネグザレム》は羽にかかる邪魔な重みが消え安堵する。
その後ろの煙突の上に人影が立っていた。
◇◇◇
俺は《ネグザレム》を追って上へと伸びる通路を登り切った。
その瞬間、シャロンを屋根に叩きつける《ネグザレム》の姿が見えた。
すぐに状況を理解する。
「よくやったシャロン‼」
「何っ!」
何故シャロンがここに居るのかは分からないけどお手柄だ。
足止めされてなかったら逃げ切られていだろう。
トンッ!
「《振裂刃》‼」
ズッパアアアアァァァァーーーーン‼
「ぐああああぁぁぁぁーーーー‼」
不意を付いての俺の一刀は《ネグザレム》の上半身と下半身を切り離す。
レベルによる防御補正が消えた《魔人》はユリザやアレクレスと比べるのが失礼なほど弱い。
「終わりだ!」
グシャンッ!
屋根から転がり落ちた《ネグザレム》の胸にトドメの一撃を突き刺す。
「馬鹿ナ、コノ私が……《SS級》の《魔人》でアルこの私ガアぁァーーーーッ!」
「《S級》だとか《SS級》だとか。そういうのバカっぽいんだよ!」
スパンッ!
尚も《ネグザレム》戯言を喋るので俺は頭を真っ二つに切って黙らせた。
……ジュウウウウウウゥゥゥゥーーーーーーー……
【ミッション「《魔神ネグザレム》を倒せ」達成】
【スキル「《頑粘の薄衣》」を取得しました】
【閉じる】
《ネグザレム》の体が蒸発するように消えていった。
ミッションコンプリートだ。
「テルト!」
「終わったのか?」
「……ああ」
近くにある下水道への入口からエナとクーベルが出てきた。
ゴトッ
「これは魔石ですね、かなり良質みたいです!」
「売れば結構な金になるぜ!」
「君たちねぇ……」
《魔人》が消えた後に大小幾つかの魔石が転がっていた。
それをクーベルは必死で拾っている。
それ俺のだからな。盗むなよ。
「はぁ……はぁ……、ちょっと、みなさん、早すぎます……」
「お前がおせぇんだよプリシナ」
かなり遅れてプリシナが息を切らせて胸を揺らしながら出てくる。
下水道内は結構広いから無理もないか。
「なんだ普通のプリシナに戻ってるのか」
「なんですかその普通のプリシナって……」
「ありがとう助かったよ、そう聖霊に伝えてくれ」
プリシナはさっき魔法を放ったクールな聖霊の方ではなく人間の方のプリシナに戻っている。
「失礼ですね! 聖霊と私は一心同体です。ちゃんと私にも感謝して下さい!」
「はいはい……、それとシャロンも! ナイスだったぞ!」
「ミュニャ!」
シャロンは強くは無いけどいつも大事な場面で活躍してくれるな。
「ふふっ、よかったねシャロン」
「ミューニャ!」
シャロンはしっぽを揺らしながらエナの足に頰摺りして喜んだ。
「所で……あの牢獄の人たちは?」
ふと俺は蟲に操られていた人の事を思い出して尋ねる。
プリシナが全員の治療を済ませたんだろうか?
そんな時間はあるようには思えないけど。
「あっ……」
「置いてきちゃいました……」
……やっぱりね。
「しゃーねぇ戻るぞ!」
「まさか聖女がこんなポンコツだとは……」
「ううっ……」
俺の中のプリシナの印象は本当に大分変わった。
……8割くらい悪い方向に。
◇◇◇
俺達は全員で元の地下の隠し牢獄へ戻った。
「《聖導の祝再》」
ポオォーー……
「ああ、有難うございます聖女様……」
「助けに来てくださるとは……聖霊様は見ていてくださったのだ……」
「さあ次の方」
どうやらクールで有能な聖霊操るプリシナに戻ったらしくテキパキと蟲に操られた人や怪我をした人を癒やしていく。
俺はプリシナは心を取り戻さない方が良いんじゃないかとつい邪な事を考えてしまった。
「皆様助けていただき有難うございます」
治療を終えた人の中で一番年齢が高いお爺さんとその付添だろうか屈強な男が俺に声をかけてきた。
「いや……礼ならほらあっちの聖女様に……」
「私達を助けてくれたのは貴方達では?」
「いや全部聖女様がやった事で、俺達はただの付添で!」
「ふむ?」
面倒な事は御免だ。ここは全部の手柄をプリシナに押し付けよう。
「流石世間で評判の大聖女様、サンザーラの幹部を倒してしまうとは!」
「素晴らしい徳の高さだ!」
よし誤魔化せた。
やっぱり蟲に操られてる時の記憶は失ってるらしい。ユリザが特別だったんだ。
「おいテルト! 自警団の連中が来たぜ!」
しまった。誰かが自警団を呼んでしまったか!
悪い事した訳じゃ無いけどそれこそ面倒な事になりそうだ!
「あの……お爺さん、俺達がここに居た事を黙っていて貰えませんか?」
「……はて? どうしてかね?」
さっきから屈強な男達がお互いに知り合いの様に声を掛け合っていた。
多分この男たちはみんな同じ傭兵、あるいは軍隊関係者とかなんじゃないかな?
そしてこのお爺さんには特に敬意を払っているように感じた。
隊長と言うかボス的な立ち位置の人だと思う。
「えっと、コイツ元犯罪者で。バレるとまずいんです」
「誰が犯罪者だ!」
「だから全部聖女様1人でやったって事に……」
取り敢えずクーベルを出汁に使う。
犯罪者なのは本当だし。
「ふむ……いやわかった恩人の頼みだ、他の者にも頼んでみよう」
お爺さんは自信有りげに了解してくれた。
やっぱりボス格で間違いなかった様だ。
「ありがとうございます、よし撤収しよう」
「はい!」
あまり長居できない。
急いで自警団が来る前に移動しなきゃ。
「うまくやれよプリシナ!」
「まかせてください、手柄は全て私のものです、ふっふっふ……」
「ほっほっほっ、面白い方達じゃな」
別れ際のプリシナはポンコツ聖女に戻っていた。
……不安だ。
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