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二十四話 02 魔神ネグザレム

 エナは1歩2歩と前に踏み出していく。


「人を操って支配して! 人形扱いして! 許さない!」


 《人形》か……その言葉はエナにとって特別な意味を持っているはずだ。

 エナは昔、従姉妹のリベットに《人形》扱いされ苦しめられていた。

 どうやら《ネグザレム》の言葉はエナの琴線に触れてしまったらしい。


「おっおい、エナ嬢ちゃん……」


 だけどエナの感情なんてお構いなしに《蟲人間》達は俺達に迫って来る。

 俺は応戦しようと剣を構えた。


 けど、どうしようか。《蟲人間》はまだ生きていて首に寄生した《魔蟲》さえ倒せば救う事が出来る筈だ。

 でも俺のスキル構成は数の暴力にかなり弱い。厄介だな。


「《氷霧の階梯(グラチェス・ティエロ)》」


タンッ タンッ!


 エナは氷の階段で《蟲人間》達が届かない高さまで昇る。

 なるほど、それならエナの方は心配無さそうだ。


「くっそっ」


ドンッ!


 俺に殴り掛かって来た《蟲人間》をとりあえず蹴飛ばす。

 回避し続けてもいずれは囲まれて動けなくなるから仕方ない。

 隣を見るとクーベルも《蟲人間》の対処に手間取っていた。


シュタンッ!


 そのまま上に逃げるだけかと思っていたエナが俺達が惹きつける《蟲人間》の背後に飛び降りる。


 駄目だエナ、そんな所に降りられたら俺が助けに行けないって!


「《空抑の氷千針スティーリア・アクス 》」


バシュンッ……! ズシャ! ズシャ! ズシャ……!


 そんな俺の思いは杞憂だった。


 エナは事前に《回転式(リボルバー)ロッド》に氷の塊を作っていた。

 氷の塊はウニの様な形をしていてその無数の棘が《蟲人間》達の背中へ向かって散り散りに飛び散って行く。


 これはいつもの《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》違う。

 俺の知らない新しいスキルだ!


「ギィィィーーー……!」

「あっ……うぁ…………」


ドサッ! ドサッドサッドサッ! ドサッドサッ!


 背中の《魔蟲》の悲鳴と共に《蟲人間》が悶ながら6人ほど倒れる。

 その背中を見ると《魔蟲》だけに正確に氷の棘が刺さっていた。


「ナん……ダと……⁉」

「おいおい……」


 《ネグザレム》とクーベルの驚愕と呆れに近い声を聞きながら俺も驚きを隠せない。


「《氷霧の階梯(グラチェス・ティエロ)》」


タンッ、タンッ、ダッ! …………シュタンッ!


 何体かの《蟲人間》がエナの方に素早く向かったけどエナはそれより早く階段を登って逃げる。


 凄いのは氷魔法だけじゃなかった。エナの動きはかなり洗練されていて無駄と迷いがない。


「《空抑の氷千針スティーリア・アクス 》」


バシュンッ……! ズシャ! ズシャ! ズシャ……!


 エナは華麗に天井を舞って今度は逆側の《蟲人間》達を纏めて撃ち抜く。


「エナ嬢……すげぇ……!」

「あの数の氷をコントロールしてるのか? いつの間にあんな魔法を!」


 俺が知ってる《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》は、コントロールが雑でショットガンみたいな感じだった。


 けどこの《空抑の氷千針スティーリア・アクス 》は、とんでもない精密射撃を複数体に当てる事が出来ている。


「私だって、特訓、してたんですから!」


バシュンッ……! ズシャ! ズシャ! ズシャ……!


ドサッ……、ドサっドサッ…………!


 上下への移動で流石に息が上がってきたけど、それでもエナは《蟲人間》達に三度目の針の嵐を打ち込んだ。


 全然気付かなかった訳じゃない。

 ロイナードのおっさんと秘密の訓練をしているのは知っていた。多少は強くなってるだろうと思っていた。

 でもエナは俺の予想のはるかに凄くなていた。


「モウ1人逸材が居たヨうデスネ……!」


 エナをスカウトしたくなる気持ちが分かる。

 俺とクーベルも何体か倒したので《蟲人間》は残り5体ほどしかいない。

 エナの働きのおかげで予想以上に楽に片付いた。


「次は貴方の番です!」


タンッ!


 エナが《ネグザレム》の方へ飛び降りた。


「駄目だエナ! 無茶するな!」


 まずい! エナは《魔人》を見るのが初めてだから強さを知らないんだ! 今のエナでも1人で相手をするなんて無茶だ!


「《舞立つ火球(イグニス・スフィアー)》」

「⁉ ……《氷衣の盾壁グラチェス・スクトゥム》!」


ヴォオオオオオォォォォーーッ!


 《ネグザレム》が再び手を掲げてエナに火球を放つ。

 エナは素早く火炎耐性を持つ氷の壁を目の前に展開する。


「キャッ!」


ドンッ!


「エナ嬢っ!」


 《ネグザレム》の火球の威力はかなりのものだけどエナの魔法は防ぎきった。

 火に限定すればその耐久力は相当高い様だ。


 ただ勢いだけは防げない様でエナは弾かれて腰を突く。


「《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》!」


バチンッ!


「無駄ダ」


 俺はエナへの追撃を防ぐ為に雷撃を放って牽制する。

 無駄なのは分かってる、この雷魔法は人相手だって殺せない。


「《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》」


カッキィーーーーンッ!


「無駄ダと言ッてイル!」


タンッ!


「なんて硬さだっ!」


 《蟲人間》はクーベルに押し付けて俺はネグザレムに剣撃打ち込む。

 しかし《ネグザレム》は片手で弾き飛ばした。


 硬さも力も人間を完全に越えていた。

 《魔人化(デモニック)》したアレクレスと同じ、いやそれを越えている。


「《聖光の浄槌アイギオス・スピューラ》!」


カッ! オォオオオオオオオォォォォォォーーーー!


「プリシナッ!」


 それまで部屋の扉の後ろに潜んでいたプリシナがいつの間に部屋の中央に立ち聖属性の魔法を《ネグザレム》に放った。


「無駄ダそんナモ…………ぶアああアアァぁぁーーーーーーッ!」


 《ネグザレム》は光に包まれても憎たらしいほどの余裕の表情をしていた。

 けれど途中からその声が悲鳴へと変わって全身を震わせだす。


 効いてるなこれ。


「今です‼」


 プリシナの《聖光の浄槌アイギオス・スピューラ》はどうやら敵を完全に《ガードブレイク》させる効果があるらしかった。


「《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》‼」


ズシャーァアン‼


 つまり今ならこんな風に《ネグザレム》の腕も切り落とせるって訳だ。


「馬鹿ナ……並の聖人ガ使ウ《聖光の浄槌アイギオス・スピューラ》トは桁違いダ! コレが聖女の力……サンザーラが恐レル理由か‼」


 ご丁寧に悪の組織サンザーラが聖女プリシナを執拗に狙う理由を教えてくれた。


 でも《ネグザレム》は今までそれを知らなかったのか。こいつは幹部の中でも小物なのかもな。


「《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》‼」


ズシュン‼


 動揺する《ネグザレム》のもう片腕を落とすのは簡単だった。


 頑丈な体に慣れていているのか剣で切られる事を全く恐れていない。

 《ネグザレム》も元は人間だっただろうけど強さが戦い方を弱くするんだな。

 油断や満身が最大の敵。これは俺も注意しないと。


ヒュンッ!


「《舞立つ火球(イグニス・スフィアー)》」

「⁉」


 トドメを刺そうとする俺に《ネグザレム》は胸元の魔石から火球を放った。


 両腕を切り落として安心していた俺は不意を付かれてかわすことも、スキルで守る事も間に合わない。

 しまった、言った側から油断した!


「《氷衣の盾壁グラチェス・スクトゥム》!」


ヴォオオオオオォォォォーーッ!


「エナッ‼」

「炎魔法なら任せて下さい!」


 エナの魔法の声と共に目の前に薄い氷が布の様にうっすら幕を張って火球の炎を撫でるように遮った。

 間一髪危なかった!


「コンな所デ退場スル事にナルとハな……」


ガシュ ガゴンッ……!


 《ネグザレム》は素早い動きで壁に付いたレバーを下げる。

 すると壁が滑り落ちて隠し通路が現れた。


ピューーーーン!


 通路に入ると《ネグザレム》は垂直に飛び上がって消える。


 俺は急いで追いかけて通路に入ると正面と左右は壁でトイレ程の大きさの小部屋だった。


 上を見上げると真っ暗な闇の中に四角い薄い光。

 その中央に小さくなる黒い影……《ネグザレム》の姿がまだ見える!


「クソっ! 逃げられた!」


 だが逃がす訳にいかない。


 俺は《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》と《砂塵の掴手(アンモス・ケイル)》を使って壁を駆け上った。

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