二十四話 01 サンザーラの拠点
地下にある堅牢な牢獄の執務室で1人の《魔人》が佇み虚空を見つめていた。
「…………虫の知ラせガ消えタか…………」
黒く巨大な鳥の仮面を被り黒い羽で出来た衣服を纏った《ネグザレム》だ。
「次の演者ヲ用意スルとシよウ」
バサッ…… ポタポタ
《ネグザレム》が立ち上がり大きく翼をを広げると羽の間から無数の《魔蟲》が落ちて地を這いずり回る。
ガゴンッ ……ガラガラガラガラ…………
そして部屋中に何かの機械仕掛けが動く音が響きわたった。
◇◇◇
俺ことテルト・リバースとその一行は王都内の南区にある313番水路の近くの歩道を歩いていた。
歩道の脇には石で整備された用水路があり、その更に地下に重なる様に下水道が整備されてるらしい。
「ここか?」
「たぶんそうです」
小さな用水路の脇に頑丈な鉄の扉で鍵のついた地下への入口だ。
ここが下水道への入口なのは昨日のうちに調査済み。
「《振裂刃》!」
ギシャン! ……カンッ カンカンッ…… ギィ……
人が来ない事を確認して俺は扉の鍵を切り落とし扉を空けた。
「《静寂の光》」
エナが杖の先に明かりを灯して先行する。
「シャロン……あれ? シャロンは?」
「さぁ……さっきまで居たんですけど、何処行っちゃったんでしょう?」
俺は察知能力の高いシャロンに続けて入る様に促そうと見渡したけど、さっきまで居たはずのシャロンの姿が消えていた。
「おいあまり長居してると誰か人に見られちまうぜ」
「仕方ない四人で行こう」
まあ俺が気を付けていれば大丈夫だろう。
後ろにプリシナとクーベルの順で続けて侵入する。
周囲に人は居ないけど近くの民家からは魔光灯の光が漏れている。
いつ誰が来るかも分からない。
「何も無いですね」
「どこかに隠し通路があるのかもしれない」
下水道はかなり長くて俺達は彷徨い歩いた。
幸い流れる水の量は少なく異臭は思ったより酷くない。
砂漠の乾いた風が吹き抜けて通路のガスを押し流しているようだ。
「こんな長い通路の中から探すのか? キッツイぜそりゃ」
「いや、その必要はないみたいだ」
仕掛けが在るなら壁だろうと注意していると僅かな段差を見付けた。
ガゴンッ……
壁を押すと音を立てて動く。
隠し扉の先の少し奥にもう1つの扉があった。
扉の隙間からは光が漏れており何かが居るような気配がする。
「行くぞ」
クーベルと目配せして警戒しながら扉を開く。
ギイィィィィーーーー……
そこは天井が2階分ほどある大きな部屋だった。
左右の壁には赤いカーテンが垂れ下がっていて、周囲には1.5メートル程の幅の溝があり浅い水が流れていた。
奥の3段ほどの高さの階段のさらに上に祭壇と不気味な羽の生えた仮面の人形が飾られている。
どうやら誰も居ないようだ。
カッカッカッカッ……
「なんだ……ここは?」
俺とクーベルは左右を警戒しながら部屋の中に入る。
明かりが付いてるのに誰も居ないのはおかしい。
それにこの部屋の構造も謎だった。なんの為の部屋だ?
「テルト! 誰か居ます!」
キィーー……
俺とクーベルが部屋の中央手前に来ると祭壇の上の人形だと思っていた何かが動いた。
「ヨウこソ我が劇場へ、待ってイタヨ」
異形はまるでフクロウの様に首を傾げながら喋った。
この見た感じには覚えがある……《魔人化》したアレクレスの姿に雰囲気がそっくりだ。
「俺達が来るって分かっていたのか?」
「私の放っタ《魔蟲》が戻ってコナカッタのでね、ユリザが倒サレタ事は分カッタさ」
「お前が《ネグザレム》か?」
異形の言葉は片言口調で少し聞き取り辛い。
俺は既にこの《魔人》が《ネグザレム》だと確信していたけど一応名前を確認した。
「その通リ……」
タンッ!
「《振裂刃》!」
答えを聞き終わる前に俺は《ネグザレム》に向かって斬り掛かる。
何か聞きたい事がある訳じゃないし。
それに待ち構えていたって事はこれも罠かもしれない。悠長に敵と話していて罠を発動されるなんてお約束の展開はアホらしい。
「《舞立つ火球》」
「⁉」
飛びかかる俺に《ネグザレム》は右手を掲げる。
その手の平には魔石が埋め込まれて居るのが見えた。
そして《ネグザレム》の言葉と共に右手から炎が俺に向かって吹き出す!
(《頑粘の薄衣》《無呼吸法》)
ボフォオオッ!
【《頑粘の薄衣》】
タイプ付与、消費SP2、効果時間3分
身に付けてる衣類を強化する、熱や雷撃も防ぐ。
SP4消費で無付与の刃物を防げる。
【閉じる】
俺は咄嗟に息を止めて炎を全身で受け止める。
試用期間中の《頑粘の薄衣》を念の為SP4消費で使った。
けど腕で顔を覆っても隙間から火が漏れて顔に少し火傷。
熱ちぃ!
バシャーーン!
「テルト!」
火は体に纏わり付いて直ぐには消えない。
俺は目を瞑りながらも直前に見ていた光景を思い出して、部屋の脇に流れる水路へと飛び込んだ。
「ヤレやレ、セッカチな演者ダネ」
バシャバシャ……
「大丈夫だ……」
火は既に消えている代わりに服がびしょびしょで動き辛い。
幸い水は下水ではなく無臭だった。
「私はアレクレスの様ナ不完全な《魔人》デハ無い、完全なル《魔人》ダ、貴様ラ人間と違い舞台の外ニ居る存在……」
「何言ってやがる」
完全なる《魔人》ねぇ。何が違うんだか。
「貴様達ノ舞台で言う所の《S級》……ソレを超えル《SS級》の強さナノだヨ私ハ、ソンナ強者が貴様らゴトキを相手にスルモノカ」
「何だそれ」
なんだそれ、まあどうでもいいか。
聞き取り辛いし大した事を言ってるようにも思えない。
「貴様らノ相手ハ彼ら《蟲人形》デ十分だ」
ガラガラガラガラ…………ガシャン!
《ネグザレム》まるでショータイムを告げるピエロの様に両手を広げた。
すると機械仕掛けが動く音と共に左右の壁にかけられた赤いカーテンが幕を上げる。
ピトッ……ピトッ…… ギィ……ギギィ……
そこには《魔蟲》に操られていると思われる2、30人程の人が待ち構えていた。
《砂漠の墓場》にいた《動く屍》とは違って血色が良いのでまだ生きてそうだ。
体躯や筋肉の付き方から屈強な男が多い。《蟲人間》の精鋭と言った所かな。
《蟲人間》達は水路を越えた当たりまで前進して止まる。
かなり統率もされている様だ。
「また《魔蟲》で操った人間かよ……悪趣味な。逃げずに待ち構えてたってわけか!」
「当然ダろう、ユリザを失ッたノダかラ代わリの《蟲人形》ガ必要ニナル、ソコの少年ナドはユリザの代ワリとシテは十分ソウダ」
「……」
《ネグザレム》は俺を指差しながらカタカタを顔を揺らす。
俺をご指名だが断らせてもらう。人間をやめる気は今の所無いんでね。
「クーベル煙玉は?」
「切らしてる」
クーベルの煙玉は蟲に有効だから頼りたかったけど特注らしくて2日じゃ補充が間に合わなかった様だ。
「サあ行け《蟲人形》ドモ!」
《ネグザレム》が《蟲人間》へと命令すると俺達を囲うように動き始めた。
「フザケないで!」
それまで黙っていたエナが突然叫んだ。
「……エナ?」
俺は驚いてエナの方を見ると、これまで見た事がない程の怒りの表情で《ネグザレム》を睨みつけていた。




