二十三話 03 八つ目の聖霊
俺とクーベルはプリシナに呼ばれて再びユリザの元へ戻ってきた。
別れの挨拶は思いの外短かったな。
「何か話したい事が?」
「今回の真の黒幕、《魔人ネグザレム》の居場所です」
「何っ!」
「何だそれ?」
驚く俺と対象にクーベルは顔にはてなマークを浮かべていた。
クーベルは一切事情を知らないから無理もないけど。
「王都内の南区にある313番水路の下の下水道、そこに隠し地下牢があります。奴は……そこにいます」
「わかった。必ずなんとかする」
ユリザが語った番地を俺はカードのメモに打ち込んだ。
「それと……テルトと言いましたか、貴方にお願いがあります」
「俺に?」
「隣のクーベルと言いましたか、貴方はプリシナ様の側へ……」
「あん? なんだ2人だけで話しか? 良いけどよ」
ユリザは俺だけを呼び止めてクーベルを追い払った。
俺もクーベルもユリザとは初対面なのに何故俺だけ?
「それで俺だけに何の用?」
「介錯をお願いします」
「……⁉ 介錯って、それって……」
切腹した後に苦しまない様に第三者がトドメを刺す行為の事か?
言葉の聞き間違いや翻訳ミスじゃないよな?
チャキン
「ちょっと待っ……」
ユリザがおもむろに傍らの剣を持って自らの腹に当てる。
やっぱり俺の知ってる介錯で間違いなかった!
おいおい俺は介錯をするって了解してないぞ!
まだ心の準備が出来てない!
ズシャ……ッ!
「ユリザッ‼」
ユリザはそのまま剣を腹に……腹で蠢く《魔蟲》ごと貫いた。
歴史ドラマでたまに見た事はあるけど初めて生でみる切腹行為だった。
ユリザの顔が苦痛に歪み唇から血が滲んだ。
介錯しなきゃ!
俺は急いで剣を持って上段に掲げた。
……でもちょっと待ってくれ。介錯ってやってもいいのか?
確かにユリザを苦しみから救う行為ではある。
けれどそれも立派な殺人行為なんじゃないのか?
「くそっ……!」
俺は以前この世界でも人を殺す覚悟をした。
多分その時であれば俺はためらわずにユリザの首をハネていただろう。
でも今は違う。
俺はその覚悟を持ってセイクスとザイーロフという聖騎士を2人殺した。
でもその2人は生きていて俺のピンチを救ってくれた。
敵だと思っていた2人は実は味方だったんだ。
俺はもし2人を本当に殺していたらと考えると恐怖に全身が震えた。
生きていて良かった、殺せなくてよかった……。
「でっ……できないっ……!」
ユリザの顔はとても苦しそうだ……でも出来ない。今の俺には出来ない!
「テルト! どけ!」
ドンッ!
「あっ」
いつの間にか俺の後ろに来ていたクーベルが硬直している俺を払い除け大剣を頭上に掲げる。
「はああぁぁーーっ!」
ズシャッ……‼
クーベルの気合とともに何かが切り落とされる音が聞こえた。
俺は目を瞑っていたのでその様を見ていない。
「クーベル!」
「クーベルさん!」
「……」
俺はゆっくりと目を開けた。
そこには首が無くなったユリザの胴体と地面にユリザの頭部が転がっていた。
「汚れ役は……俺がやってやる」
「……くっ……」
クーベルのその一言に俺はまた後悔した。
今のは俺がやらなきゃいけない事だった。
俺が頼まれたんだ俺が汚れるべきだった。
……それにプリシナは……
「悪いなプリシナ、お前の大切な人だったんだろうが」
「ううん、ありがとうクーベル」
プリシナは少しの涙と頬を染め悲しみを含んだ笑顔でクーベルに感謝した。
…………くそっ!
ポォーーーー……ッ
「これは?」
「《聖霊》の光り……」
ユリザの体が輝きだして光の球が浮かび上がる。
「さあこちらへ、私の心を差し出しましょう」
「おいプリシナ! それじゃあお前の心が!」
プリシナは両手を広げて《聖霊》を受け入れようとする。
しかしそれをクーベルは止めようとした。《聖霊》と契約するとプリシナの心が消えてしまうからだ。
「大丈夫です。私の心はもう消えません」
ポワァァァァーーーー……
プリシナは力強い顔で答えると《聖霊》の光が胸に吸い込まれるように消えていった。
「終わりました、さあ行きましょう」
そう答えたプリシナは強い意思と怒りの感情を含んだ表情をしていた。
「行くって、何処へだよ」
「《魔人ネグザレム》を倒しに、です」
「わかった」
【ミッション「エナを救出しろ」達成】
【スキル「《創造の贋視》」を取得しました】
【閉じる】
【ミッション「《魔人ネグザレム》を倒せ」を開始しますか?】
条件、《サンザーラ》の幹部《魔人ネグザレム》を殺害する。制限時間2ヶ月。
注釈、殺せななった場合無効。
報酬スキル、《頑粘の薄衣》
【はい/いいえ/詳細】
聖女暗殺計画の真の黒幕であるサンザーラの《魔人ネグザレム》。
いよいよ今回の事件の決着の時だ。
◇◇◇
「なんだワシの出番は無さそうだな」
《砂漠の墓場》のドームの外側でピグザールがその様子を眺めていた。
特訓中にクーベルが道場を抜け出したので気になって付けてきたのだ。
「さて今更出ていってもしょうもないし。帰るとするか」
あまり足が早くないビグザールが到着した時には既に勝負が決していて、出ていくタイミングを逸していた。
何やら重苦しい雰囲気だし声もかけずに立ち去る事にした。
モゾモゾモゾ……
「何だあの蟲は? 《陽炎の迷宮》から出てきた魔物か? 見た事が無いが」
ドームの外の土を分けて気持ちの悪い《魔蟲》が這いずっていた。
トットットッ……
「まあ小さくとも厄介な魔物は沢山おる。一応駆除しとくかの」
グシャ!
ビグザールの持つ長い斧が《魔蟲》叩き切り潰すと砂漠に黒いシミが広がる。
「……しまった、新種として捕まえておけば良かったか……」
ロイナードあたりに渡せば喜んで研究しそうだと思いつつ消え行く《魔蟲》を横目に王都への帰路に付いた。
◇◇◇
俺とエナは砂漠の中を並んで歩いていた。
プリシナとクーベルは、クーベルが来た時に使った馬車で先に帰っている。
俺とプリシナが来る時に使った馬車へと向かっている。
距離はそれほど遠くない。
「あのっ……テルト」
「んっ」
エナが立ち止まって俺を呼び止める。その顔はどこか暗い。
「助けに来てくれてありがとう、……ずっと怖くて寂しかった……」
「ああ、いいって。そんな事より無事で良かったエナ」
確かに攫われて《砂漠の墓場》に1人ぼっちだったのだから、その恐怖は相当なものだったろうな。
「でも、ごめんなさい。私のせいで足を引っ張っちゃって」
「そんな……」
そうか……エナはその事を気にしてたのか。
「次は頑張るから……お願いです。私を置いていかなで下さい!」
エナが俺に抱きついてくる。
今回の件で《陽炎の迷宮》に一緒に行けなくなると思っていたんだ。
こんなに思い詰めるほどエナは俺と《陽炎の迷宮》に行きたがっている。
……いいや、違うよな。
俺と一緒に居たいと思ってくれていたんだ。
これまで俺は俺の都合だけ考えてエナの気持ち考えてあげられなかった。
本当に馬鹿だな俺は……。
「……分かってる、ずっと一緒に行こう……」
「はいっ!」
俺はエナを軽く抱きしめ返して、そして離れる。
もう危ないからってエナを置いていったりしない。
これからは行ける所までずっと一緒だ。
「ミュニャ!」
おっとシャロンもいたっけ。
今回もありがとうなシャロン。シャロンもこれからもずっと一緒だ!
「えいっ!」
笑顔に戻ったエナは財布の中からアミル銅貨を取り出して《砂漠の墓場》へ放り投げた。
次にあのアミル銅貨を受け取るのは誰だろうか。
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