二十三話 02 蝕む魔蟲
俺は何とかユリザの背中の蟲を倒そうと工夫たけど、ユリザはしっかりと俺とクーベルの立ち位置を把握して挟み撃ちを避ける立ち回りをしていた。
ちなみにエナは杖を持っていないしシャロンは戦力外。
プリシナだけは魔法の援護があるかもしれない状況だ。
ザザッ! トッ!
「ちっ、背中を見せやがらねぇ。どうする?」
俺だけじゃなくクーベルもユリザの背中を取ろうと頑張っていた。
そもそもユリザの背中は甲冑で覆われている、背中を攻撃した所でだ。
「クーベル隠語だ! 行けるか?」
「あっ? 隠語? あーっあれか、わかった!」
隠語ってのは俺とクーベルとだけで通じる暗号会話だ。
俺達は《陽炎の迷宮》に勝手に入ろうとしているから必然的に冒険者と戦う事もありうる。
それを想定して簡単な隠語を決めていた。
「俺が蓑で旗を振る、クーベルは西サン北ヨンのカーテンから甲羅を蜂だ」
これは『俺が幻影スキルで敵の注意を引き付ける、クーベルは俺から見て左前方の物陰に潜んで敵の背中を隙きを見て攻撃しろ』みたいな意味になる。
隠語だと分かっていれば何となく分かりそうな気もする。
でもクーベルでも覚えられるようにあまり難しくは出来なかった。
「えっと……すまねぇもう一度頼む」
「俺が蓑で旗を振る、クーベルは西サン北ヨンのカーテンから甲羅を蜂!」
「西サン北ヨン……か、よし分かった!」
まあ一度で聞き取れる訳ないよな。
何度か使って慣れないと咄嗟に分かるようにならないだろう。
「はあっ!」
タンッ! タンッ! タンッ!
ひとまず俺はユリザの視界からクーベルを外させる為の位置取りをした。
俺はまだ貧血気味で身体は万全じゃないけど何故だか身体が良く動く。
クーベルとユリザの距離を離してからトドメに雷撃を放つ!
「《劈く雷迅》!」
バチンッ!
でもユリザは雷撃を剣で弾きながらクーベルへの警戒を外さない。
タンッ! タンッ! ……キィン!
しかたなくユリザに接近して剣撃で無理やり視界を奪った。
間違いなくユリザはクーベルを見ていない、今だ!
(《創造の贋視》!)
俺はクーベルの目の前に『クーベルにそっくりな幻影』を作り出す。
それを見てクーベルは《砂漠の墓場》の正面口からひっそりと外へ出た。
(よしっ!)
クーベルは手筈通りドームの壁の外に隠れ待ち構えた。
あとは俺がヘイトを稼ぎつつ誘導するだけ!
カァンッ! キイィン!
「くそっ、そう上手くいかないか!」
だけどクーベルが戦いに参加していないからユリザの動きに余裕が生まれ思ったように誘導出来ない。
「《聖光剣》」
ジュピィーン! ジュバッ!
「っ……!」
しかもこれまで無言だったユリザが剣撃スキルを使ってきた。
やや暗いドーム内で剣が眩しく光って俺は思わず目を細めてしまう。
「《聖光剣》」
(《砂塵の掴手》)
ヒュンッ
続けての2撃目は毎度おなじみのスキルを使って屈んでかわす。
「《振裂刃》!」
カキーンッ!
目を開くとユリザは空振りしてバランスを崩していた。
そのスキを逃さず俺はユリザの胴の甲冑に《振裂刃》を叩きつける!
でも俺の剣は硬い甲冑に弾かれた、手加減は必要無かったか。
ガシッ!
「‼」
だけど更にバランスは崩していた。
俺はユリザの剣を持つ右手を掴んで羽交い締めにする。
腕力は互角か俺が弱いくらいだ。しかもここに来て貧血で力が入らないのを自覚した。あまり長くはもたない!
「今だクーベル!」
「⁉」
やはりユリザは俺の言葉を理解出来ているらしく慌ててクーベルの方を見た。
勿論……俺の作り出した『クーベルにそっくりな幻影』の方をだ。
「残念……こっちだよ!」
ズッ グジャリ‼
そして音もなくユリザの後ろに回り込んだクーベルがユリザの首筋にナイフを器用に突き刺す。
「ぐっ…………!」
ドサッ!
《魔蟲》の潰れる音の後にユリザは軽く呻いてその場に倒れ込んだ。
「へへっ、上手くいったな」
得意げな顔をしてる場合かクーベル!
「プリシナ! 急いで回復を!」
「はい!」
「《聖導の祝再》」
ポオォーー……
駆け寄ったプリシナが手早く治癒の魔法をユリザに掛ける。
「うっ……プリシナ様……」
「ユリザ! 良かった!」
ユリザは目を開けてプリシナの名を呼ぶ。
どうやら正気に戻ったようだ。大成功だ!
「ありがとう少年達、私を救うために無理をさせてしまったようだ」
「さっきの戦いの事覚えてるの?」
ユリザには《魔蟲》に操られる間の記憶があった。
町で襲ってきた《狂人》達は誰も覚えてなかったけど何か違いがあるのかな。
「そうだ……うぐっ!」
「ユリザ!」
突然ユリザは胸に手を当てて苦しみだす。
「折角救おうとしてくれたのに。すまないな……私はもう、手遅れなのだ」
「えっ?」
そして甲冑の脱ぎ着ている服の腹部を破って見せた。
……嘘だろ。
そこにはぐにょぐにょと蠢く《魔蟲》が、ユリザの内蔵を食い散らかし取って代わっていた。プリシナの回復魔法でも大きく欠損した肉体は戻せない。
「そっ、そんな……」
「ユリザ……」
「ご覧の通り私の内臓は《魔蟲》に食い荒らされている、もう長くは無い」
「くっそっ!」
エナは顔をそむける。あまりのグロテスクさに俺でさえ正視できなかった。
最高のエンディングになると思ったのに。
俺達のやったことは無駄だったのかよ!
「すまない、プリシナ様と2人だけで話しがしたい……」
「わかった、行くぞクーベル」
「ああっ」
クーベルはユリザとプリシナの関係を知らない筈だけど、空気を察してその場から離れた。
◇◇◇
私は横たわるユリザの手に手を添えた。
心は消えた筈なのに涙が頬をつたう。
「ユリザ……ユリザー……」
「プリシナ様、心が戻ったのですね」
「うん……」
私は最近かつての感情を時折取り戻す様になっていた。
「私が未熟なせいでプリシナ様を守りきれず、心を失わせてしまった事が、ずっと心残りでしたが……これで安心です」
「そんな事ありません、ユリザはよくやってくれてました‼」
ううん、逆に私がユリザの足を引っ張ってしまった。
ユリザはちゃんと何度も私を守ってくれた。
「でもどうして心が戻ったのですか」
「それは……」
私はユリザの言葉に思わず思い当たる原因の居る方を見てしまった。
「……なるほど……」
「えっと……」
ユリザは何か納得したような安らかな笑みを浮かべた。
今の一瞬でバレかな……多分バレたよね。ずっと一緒にいて誰よりも私を理解してくれていた姉ですもの。
「プリシナ様、あの2人の少年に話しがあります。呼んで来てくださりませんか?」
「ええいますぐ」
ユリザとの間に長い別れの言葉はいらなかった。
目を見れば通じ合ってしまうから。




