十七話 02 仲間の資質
俺達が特訓を開始して1週間が経とうとしていた。
「はぁ! ふっ、やあっ! 《雷震の把手》」
今日も元気にカンフーハッスル!
「すごいテルト、見違えるくらい動きが良くなった!」
「ふぅ……、ありがとうエナ」
俺は筋肉量を増やすのは止めて精密動作の訓練に完全にシフトした。
その為体は少し絞られエナにも分かるほど動きのキレが増した。
俺はもはやジャッ○ーチェン、いやブルー○リーのレベルにすら到達してるんじゃないか? なんて思い上がっている。
「あのテルト、私ってやっぱり頼りない……ですか?」
「えっ? いやそんな事は無いけど」
突然エナが暗い顔をして俺の前に来る。
別に頼りないどころかむしろ逆に魔法を頼りにしているくらだいけどな。
「じゃあ、どうして王都に来る時腕にあんなに深い剣の切り傷があったんです?」
「あれは……ちょっと剣に間違ってぶつかって……」
「嘘! シャロンから聞きましたよ! ハイルム叔父様が送り込んだ暗殺者と1人で戦ってたって」
「それは……」
そっか、シャロンを口止めしてたけど話しちゃったか。
「ううん……ごめんなさい。確かに私、今は全然テルトの力になれませんけど、頑張って強くなりますから。次は置いて行かないで欲しいです……」
「分かった。出来る限りそうする」
今の所は《陽炎の迷宮》に一緒に行こうと思ってる。
でも本当に危険な場所だったら……わからない。
「……はい! あっシャロンの事は責めないで上げて下さい。私が無理やり聞き出したんです」
「使い魔だもんね、ご主人さまの言う事には逆らえないよ」
「ううん。シャロンはねお腹をくすぐられるのが弱点なの、私弱いところ全部知っちゃってるから」
「なるほど、そりゃ苦しそうだ」
くすぐりに弱い人には拷問だって聞くからね。
仕方ない。
トンッ! シュタッ!
「シャロン?」
スリスリッ……
突然シャロンが天井の木の棒から飛び降りてエナの腰に抱き擦り付ける。
エナの膨らみかけの胸がむにゅむにゅと弾む。ふぅ。
「エナー! またこちょこちょしてー! テルトとの秘密ぜーんぶ喋るからこちょこちょしてー!」
「もうシャロンったら。人との秘密を簡単に喋っちゃ駄目なんだから」
「って、こちょこちょされたくて喋ったんかいぃ!」
逆だった。
まあ可愛いから許すけど。
「おや皆さん、特訓の最中でしたか?」
「あんたは……」
「ロイナードさん⁉ どうしてここに?」
突然ロイナードが後ろから現れた。
以前一度あるだけだけどその強烈な見た目で強く印象に残っている。
「この間の話の続きです。エナさんに特別な空気を作る方法を伝え損なっていたのが気になって、工房の人に聞いて来ました」
「そんな、わざわざ」
「この本をお貸ししましょう。魔術書は読めますよね?」
「はい大丈夫です」
なるほど、それでわざわざこんな所まで来たのね。
《S級》冒険者らしいけどそんなに暇なんだろうか?
まあエナにはおじさんキラー的な面があるから気になるのは分かるけど。
「ついでに貴方達の冒険者の適正も見ておきましょう」
「えっ?」
「無茶をして勝手に《陽炎の迷宮》に入って死なれても困ります、なに時間は取らせません」
「……バレちゃってますねテルト」
「……」
確かに俺達が無断で《陽炎の迷宮》に行こうとしてる事はロイナードにはバレてるとは思っていたけど、それでも言わないでほしかったなエナ。
「《采器の測眼》……! ほう、これは素晴らしい素質ですねエナさん。今のままでも《C級》相当の実力がありますが、将来的には《S級》冒険者にもなれるでしょう」
「そうなんですか?」
ロイナードが何処かで聞いたスキルを使う。
確かカーミラの訓練の時に俺に使っていたな。
人の持ってるスキルを一部見る事が出来るらしい。
「ええ、レベルが上がればさらに有用なスキルも覚えられるでしょう」
「そんな事もわかるんですか?」
「はい、私は人の潜在スキルを幾つか見る事ができますので」
「凄いんですねロイナードさんって!」
人の潜在スキルも見ることが出来る?
それはまだ覚えていないこれから覚えるスキルも分かるって事⁉
カーミラのスキルではそこまでは分からなかった。
ロイナードの持ってる《采器の測眼》のスキルレベルはカーミラより高いに違いない。
どうやったらスキルレベルが上がるか聞くべきだろうか?
うーむ……。
「次はテルトくんでしたか、貴方も見ておきましょう」
「いや、俺は別に……」
嫌な予感がするから断る事にした。
俺はミッション報酬で異常な程多くのスキルを持っていて、今はカーミラさんが見た時によりさらに増えていたし流石に不自然に思われるかも知れない。
「まあそう言わずに、《采器の測眼》……‼ しっ、信じられない‼ もうすでに《A級》相当か、《S級》相当の実力があるじゃないですか!」
「凄いテルト‼」
「……その《S級》ってのがどれくらい凄いのか分からないけど」
ロイナードが俺の許可なく勝手にスキルを使うと、驚きの声を上げた。
大丈夫か? ミッションの事とかバレたりしないよな?
「そうですね、例えば《砂足蜘蛛》を1人で倒せたら《S級》と言われています、それだけが基準では有りませんけが」
「やっぱり凄い!」
「ふーん……」
ん? 《砂足蜘蛛》ってのは《陽炎の迷宮》の中では雑魚なんだろ?
それを1人で倒したら《S級》って基準がよく分からんな。
「しかし、所持してるスキルの量が年齢とレベルに対して不釣り合いな程多い。これはアグニスを彷彿とさせる才能ですね」
ロイナードの口ぶりだと稀に俺以外にもスキルを多く持つ人間はいるようだ。
なら、せいぜい天才って思われる程度で済むかもしれない。
……いやそれでも十分困るんだけど!
「よぉテルト……、なんでぇ、またおっさんも一緒かよ」
「クーベルさん」
突然クーベルがふらりと現れた。
クーベルは以前からちょくちょく此処に顔を出していた。
「丁度いい、貴方の才能も見させて貰いましょう」
「はぁ?」
「ロイナードさんは人の才能を見る事ができるんですよ」
ロイナードはクーベルにも興味を持ったようだ。
クーベルに戦闘能力なんてあるのか?
それは俺も少し気になるな。
「貴方がエナさんやテルトくんとパーティを組めるだけの資質があるか、見定めておきたい」
「いや、クーベルはパーティじゃ無いぞ」
「なんでぇそりゃ?」
ロイナードは何か勘違いしてるらしいクーベルは別に仲間じゃない。
それに資質だなんだ偉そうに。俺達のパーティに誰を入れるかは俺達が決める事だ。
「《采器の測眼》……、やはり才能は並でしたか」
「うるせぇ、ほっとけ!」
「エナさんテルトくん、彼はパーティから外すべきです彼には資質がありません。必ず足を引っ張るでしょう」
クーベルは俺が知る限りでは多彩なスキルを持っているはずだけど、確かに戦闘用のスキルは見たことがない。
しかし俺の言葉が無視されて話しが進んでないか?
このロイナードって奴の物言いなんだかイラッとする。
「……わかってるよ、どうせこの右手じゃ何の役にもたたねぇ事くらい」
「右手? ああ、その壊死した右手ですか。いえそれは関係ありません、私が言ってるのは本質的な《性根》の話ですよ」
「はあ?」
「《陽炎の迷宮》では何時不測の事態で窮地になるか分かりません、そんな時、責任や、信頼や、挫けない強い心が必要なのです」
ロイナードの意見には一理ある。
でも挫けない心ねぇ。翻訳のせいかもしれないけど何か熱血少年漫画的な青臭さを感じる。俺が捻てるだけか?
「お前に何が分かるってんだ! 人の心を読むスキルでもあるってのかよ?」
「そんなスキル無くても、エナさんとテルトくんの間にある信頼感が貴方には無い事くらい見てれば分かります」
「…………っ! 分かったよ! 俺が出てけば良いんだろ!」
「クーベルさん!」
ロイナードの説教に堪りかねクーベルが捨て台詞を吐き倉庫から出ていった。
場の空気が重くなる。
今の反応からもクーベルが俺達と一緒に《陽炎の迷宮》に行きたがってるんじゃないか? そんな空気は前から感じていた。
でもクーベルがどれくらい本気なのか分からないし、俺はあえて気付かない振りをしていた。
「ふぅ、やれやれ。さあエナさん魔法の続きをしましょう」
別にクーベルを仲間にしたいなんて思っちゃいない。
けどこのロイナードの言うことに従うのは癪だ。
捻くれ者の俺は無性に逆らいたくなってくる。
「俺……ちょっと外に出てくる」
「テルト?」
「おや? そうですか? テルトくんにも少し話したい事があったのですが」
「そりゃまた今度」
ロイナードに少し聞きたい事はあったけどクーベルの後を追う。
どうも俺はロイナードという男を好きになれなかった。
◇◇◇
クーベルとテルトが立ち去った後の空き倉庫にエナとロイナードが取り残されていた。
「ロイナードさん酷いです、クーベルさんにあんな事言うなんて……」
「エナさんは女性なので分からないかも知れませんね」
「えっ?」
エナの非難の声にロイナードは演技掛かった返事をする。
「男は押さえつけられると反発したくなるものなのですよ。彼の実力精神面が至らないのは事実です、これを機に精神面が少しは成長すれば良いのですが」
ロイナードは多くの人間を指導してきた経験から人に何を言えばどう感じるか、自分が人にどう見られるかを熟知していた。
人が成長するには情熱、執念、反骨心の様な強い感情が必要と言うのが持論である。
勿論必ずしも上手く行く物ではない。
結局は本人次第だ。
「よく……分かりません」
「さあ続きをしましょう」
エナはロイナードの言ってる事がよく理解出来なかったが、それでもロイナードに悪意があってやった事で無い事は理解した。




