十七話 03 聖女プリシナ
俺はクーベルの姿を探したけど空き倉庫から出るのが遅かった為に見失っていた。
と言うかなんで俺はクーベルなんかの後を追っているんだろ……。
「……そうだ工藤先輩と同じだからだ」
工藤先輩の顔がクーベルと重なった。
クーベルも工藤先輩のように変わろうとしている。だからそれが心に引っ掛かってたのか。
しばらく歩くと河川敷にクーベルの後ろ姿があった。
それを見て俺は足を止めてしまう。
なんて声をかければいい?
言葉が浮かばないしクーベルがそれを求めてるとは思えない。
「……変わりたきゃ自分の意思で変わるしかない……んだよな」
やめとこう。結局は自分が変わろうと強く思うかどうかだ。
その為には俺の言葉なんか邪魔でしか無いはずだ。
もし俺が今のクーベルと同じ立場だったら1人で考えたい。
◇◇◇
俺は空き倉庫に戻る気も起こらなくてしばらく町を歩き回った。
「おいっ、聖女様が来てるらしいぞ」
「何だって⁉ 向こうだ急げ!」
「……聖女様?」
聖女様ってなんだ?
マザーテレサみたいなもんか?
なんか気になるし付いて行ってみるか。
しばらく男たちが走っていった方向に歩いて行くと数10人の人集りが見えてきた。大層な騒ぎ様だな。
「ああ聖女様、ありがとうございます。お陰ですっかり良くなりました」
「いえ、これも聖霊に使える私の使命です」
その中央に一目で聖女だと分かる女性が立っていた。
年齢は20歳くらいかな? いやもう少し若いか。
輝く金髪に白い肌、遠目からも分かる美しい琥珀色の瞳、白い簡素なローブがその美しさを際立たせる。エナとは別のタイプのクールな美少女だ。
そしてかなりの巨乳だ。
目の前の男性が聖女にお礼を言って人だかりの中に戻って混ざる。
「聖女プリシナ様、どうか私もお救い下さい!」
「見せて下さい」
「はい」
聖女の前に順番待ちをしていたお婆さんが歩み出ると聖女は丁寧な口調で促す。
その動作にもなんだか気品がある気がする。
「酷い、なんて傷だ!」
「1年前に暴漢に切りつけられて、以来足の感覚が無くなって、気付いたらこんな事に……ううっ」
お婆さんは足の長いスカートを捲るとそこには皮膚が腐り白骨がむき出しのおぞましい足があった。
周囲で見ていた群衆もあまりの痛々しさに思わず目をそむける。
俺もちょっと見るのが辛かった。
「大丈夫です、《聖導の祝再》」
ポオォーー……
「⁉」
聖女が前に手をかざし何かのスキル、いや多分魔法を発動させると周囲が昼間でも分かる程眩く光る。
その光は何か意味があるようで無いような不思議な形だった。
そしてその光がお婆さんの足に触れると瞬く間に皮膚が膨れ白骨を覆い水々しさを帯びて、おそらくは元通りの形の足になった。
「おおぉぉぉーーー!」
「凄い、傷がみるみるうちに治った」
嘘だろ⁉ エナの回復魔法では小さな傷を直すのにも数分掛かるぞ?
間違いない。これが話には聞いていた特別な人にしか使えない聖魔法だ!
「しっ信じられない、まさに奇跡の力! ありがとうございます聖女様‼」
「良かったねお婆ちゃん」
「あの、プリシナ様。これをお受け取り下さい」
「……申し訳ありません。私は全ての寄進をお断りしております」
顔に涙を浮かべ破顔したお婆さんが懐から封を取り出し聖女に差し出す。
でも聖女はそれを受け取らなかった。
「いえでも、それでは私の気が収まりません!」
「そのお気持ちは他の誰かに与えて下さい」
「本物だ……本物の聖女さまだ!」
周りの人集りは聖女の対応を崇めるように褒め称える。
でも心が捻くれてる俺はこれが聖女の偽善なんじゃ無いかって疑ってしまう。
でも、たとえ偽善でも構わない!
この力ならエナでも治せないクーベルの右手の傷を治せるかもしれない!
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
「何だお前は! 聖女様に何かするつもりか!」
俺は興奮してつい強引に人をかき分け聖女の前に躍り出ようとすると、周りに居た何人かが怖い顔で聖女への行く手を遮るように立ちはだかる。
「ちっ違うんだ! 俺の知り合いに手を怪我した奴が居て、今呼んでくるから治して貰えないかって!」
俺はクーベルの右手を使えなくしてしまった責任をずっと心の中で抱えていた。
普段はそれを表に出さない様にしてたけど。
「構いません私はここに夜まで居ます。明日は西区に移動しますが大した距離では無いでしょう」
「あっ、ありがとう! 今連れてくる!」
俺は急いでさっきクーベルが居た河川敷に駆け出す。
聖女は明日も近くに要るらしいから急ぐ必要も無いけど急がないとチャンスが消えそうで怖かった。
◇◇◇
幸いクーベルはあの後もずっと河川敷で黄昏ていた。
俺は聖女の元にクーベルを強引に連れて駆け足で戻っている。
「ハァ……ハァ……」
「居た。あれが聖女様だ」
「ったく、どんな傷でも直す聖女様だぁ? 本当かよ」
クーベルに聖女の力を説明したけど怪訝な顔をするだけで信じようとしない。
でも聖女の力は本物だ。やってみれば分かる。
◇◇◇
聖女はさっきの場所で怪我を治した人や群衆と話をしていた。
待っていてくれたのかも知れない。
「聖女様、コイツです!」
「先程の方ですね、貴方ですか手をこちらに」
「あっ、ああ、よろしく頼む……」
疑っていたクーベルも聖女のオーラを目の当たりにして、不遜な態度を改め右手を差し出す。
「……これは」
「どっ、どうした?」
聖女はクーベルの手を少し見ると少し厳しい目をする。
どうした? 俺は何か嫌な予感がした。
「この傷は。私には治せません」
「えっ?」
「なんでぇ、単に詐欺か手品だったんだろ! どんな傷でも直すなんてよ!」
クーベルは鼻で笑うけど俺はさっき聖女が傷を直す所を見ているから、詐欺でも手品でもない事を知ってる。どういう事だ?
「いえ、私の治癒の力はどんな傷でも治します。ただし怪我をした理由に真性があればです。貴方のこの傷は何かの悪事をした時に出来た傷でしょう、我が聖霊は悪人の傷を治しません」
「なっ、何だよそりゃ! 適当な事言ってんじゃねぇのか⁉」
なるほど。
俺も人が殺した人数が分かるスキルを持っている。悪事を働いて出来た傷かどうかが分かるスキルが有っても不思議じゃない。
しかし悪人だけは救えないとかなんとも聖女らしい力だ。
「そう思って頂いても構いません、どうぞお引取りを」
「くそっ、どいつもコイツも……! そうだよ俺ぁどうせ性根の腐った悪人だよ! 悪かったな!」
「……」
聖女は毅然と冷たく言い放つとクーベルは渋い顔でその場から立ち去っていく。
俺はクーベルの為にと思っての事だけど、結果としてクーベルに無駄な期待をさせてしまった。
「……気を悪くしたらごめん、アイツ今気が立ってるみたいで」
「構いません、慣れています」
聖女は静かに立ち去ると同時に周囲の人集りも霧散した。
その場に立ち竦んでいると辺りの魔光灯に光が灯り暗がりを照らし出す。
「何やってんだ、俺は」
俺は空に浮かぶ月を眺めそう呟いた────
続きが気になる方はブックマーク登録と、面白かったら下の☆☆☆☆☆のクリックをお願いします。




