十五話 02 不法侵入
俺達は喫茶店を探してる時に偶然見付けた公園に入り、積み上げられた木やレンガの上に腰掛けたり寄り掛かる。
お金も無駄にしたくないしここで今後の方針を話し合う事にした。
「さて、どうしようか」
「どうしましょう」
「別に後2年待てば良いじゃねぇか」
「そんなに待ってたらぬか漬けだって腐ってしまう」
単純に早く行きたいし、他の転生者と出会う機会が遅れる。
それに最初のミッションの先を越されるかもしれない。
どうしても諦めきれない。
「俺が17歳だから、来年になれば荷物持ちとして雇ってやっても良いぜ?」
「1年も待てないし冒険者には試験があるらしいぞ? クーベルが受かるとは思えないな」
「けっ!」
なら……最後の手段だ。
「こうなったら、……不法侵入しかないな」
「へぇ?」
「勝手に入ちゃうんですか?」
「よくよく考えれば、素直に正面から行く必要も無いし」
自称捻くれてるこの俺がこの世界の常識に囚われてどうする!
「くくっ、散々人を盗人呼ばわりしといて結局それかよ」
「うるさい!」
別に俺は《陽炎の迷宮》で悪さをしたい訳じゃない。
お金は欲しいけど別に《魔石》の密猟をしたい訳でもない。
見つからなければ誰にも迷惑は掛からない。つまり無罪だ!
見つかれば犯罪、見つからなければ無罪!
「しかも冒険者組合と言えば、マフィアもおいそれと手を出さねぇ武闘集団、そのシマを荒そうだなって太ぇ野郎だ」
「うぐっ、確かに危険か」
冒険者ってのは戦闘集団だ。
カーミラと言う《A級》冒険者も相当な実力を持っていた。
そんなのがゴロゴロしてる冒険者組合を出し抜けるのか?
かなり難しい気がする。
「だが面白れぇ、気に入った。俺も手を貸してやるぜ?」
「必要ないあっち行け!」
いつ裏切るかも分からないクーベルの力なんてアテに出来ない。
てかクーベルは何時まで俺らと一緒に居るつもりなんだ?
お前はもう好きにして良いぞ。しっしっしっ!
「少し怖いけど。ここは勇気を持ってやってみましょ!」
エナはすっかり俺と一緒に行く気になっているみたいだ。
正直連れて行きたく無いけど、エナの魔法は《陽炎の迷宮》攻略の助けになってくれるかもしれない。
「勇気ねぇ……それを言うなら無謀なんじゃねぇの?」
「違います! 成功したら勇気! 失敗したら無謀! 成功させれば良いんですよ!」
「確かに、良い事言うねエナ」
「はい!」
「……いやいや……」
クーベルが何か言いたそうにしてたけど諦めたらしい。
「ともかく一度見に行ってみよう。それで無理そうなら諦める」
エナと一緒に行くかも含めまずは《陽炎の迷宮》がどれくらい危険な場所かを確認しに行こう。
◇◇◇
俺達は王都の城門を出て《陽炎の迷宮》へ向かっていた。
結構な距離があったので途中までは乗合馬車を使ったけど今は歩いている。
「はぁ……はぁ……」
「遠いですね」
「おかしいな。結構近くにあるように見えたのに」
砂に足を取られ歩いても歩いても目的地に到着しない。
砂ってこんなに重かったのか。
「テルトが俺の馬車を勝手に売るからだ!」
「お前のじゃない」
クーベルの逆恨みがしつこいな。
本気で自分の物だと思ってるのが質悪い。
「でもこんだけ《陽炎の迷宮》は広いんだ、何処からでも入れそうだな」
砂漠の平野には大小様々な楕円形の大岩が顔を出していた。
これなら人に見られずに《陽炎の迷宮》に近付くのは、かなり簡単そうだ。
「無理だよテルト!」
「シャロン? 無理って何が?」
「《陽炎の迷宮》の入口はあそこだけなの!」
「えっ?」
シャロンの指差す方を見るとそこだけ他と違う陽炎が立ち上っていた。
何だあれ?
「他は幻だから、どんなに近寄っても消えちゃうんだよ!」
「そうだったのか」
後ろを振り返ると後ろにも陽炎が見える。
気が付くと四方八方すべて陽炎に囲まれていた。
ここは既に陽炎の中って事か。
なんだか饒舌なシャロンの顔を見ると目がギラギラ光っいる。
少し楽しそうに興奮してる。どうしたんだろう?
「シャロンどうしてそんな事知ってるの?」
「えっ? わかんない!」
エナが聞いてもシャロンはきょろんとしている。
「もしかしたらシャロンが使い魔だからかも、使い魔は魔獣に近いんだよね?」
「はい」
《陽炎の迷宮》から出る魔力的な物がシャロンに影響してるんじゃないか? 特に根拠は無いけどさ。
「マジかよ、こんなちっこいのが魔獣なのか?」
「違うもん!」
「違います良い魔獣なんです!」
「いや、結局魔獣じゃん……」
心の中でエナにツッコミを入れる。
あっ、口に出てた……疲れててつい。
「取り敢えずもう少し近付いて入れそうか確認しよう」
俺達は《陽炎の迷宮》の入口に一番近い岩の群がりに近付いた。
「ここが良いかな。よっ……」
手近な岩に登って《陽炎の迷宮》の入口を見渡す。
陽炎の中に赤い岩が連なり中央には地面に大穴が開いていのが見えた。
周囲にはキャンプや小さな小屋などが広範囲に広がっている。
冒険者らしき人影もちらほら。
「どうですか? テルト」
「うーん。ユラユラしててあまりハッキリ見えないけど、キャンプみたいなのがあって周りに人が何人か居るみたいだ」
「当然だろ、勝手に誰かが入って魔石の密猟されたらたまったもんじゃねぇ見張りくらい居らぁ」
「夜の間にひっそり入るのも難しいか……」
そりゃそうか。
《陽炎の迷宮》の魔物を倒して得られる《魔石》は、魔光灯や魔道具の原材料で需要のある資源らしい。
その巨額の権益は冒険者組合が独占してるんだから警備は厳重だろう。
そんな事を考えている、微かに岩を伝って振動を感じた。
「なんだ?」
「地震でしょうか?」
「みんな! 下だよ避けて!」
ドドドドドドドドド…………ッ!
突然シャロンが叫ぶと少し前方の砂が盛り上がったのが見える。
振動は大きな地鳴りになって俺達の方に近付いてくる。
ヤバそうだ!
「なっ、何だぁ!」
「エナ早く!」
「はい‼」
俺は岩下に居るエナに岩の陰に逃げるように指差した。
ドッホォオォォォォーーーーンッ‼
エナが岩の裏に隠れた直後。エナが元々居た場所に砂の盛り上がりが到達して吹き上がった!
「何だよこれ‼」
そこに現れたのは巨大な蜘蛛の様な異形の生き物。
黒で赤と緑の不気味な文様が所々に薄っすら浮かび、全身が頑丈そうな殻で覆われていて赤い目玉が6つ気持ち悪くうごめいていた。
「キシキシィ……!」
その目がエナとシャロンとクーベルをしっかり捕らえ、足を掻き襲い掛かる予備動作をした。
「魔獣だ!」
これが魔獣ってやつか。
「逃げましょう!」
「……いや戦う‼」
確かに逃げられれば良いけど俺は上から俯瞰していたから分かる。
この魔獣は砂の中の移動も結構早かった。
陸上だともっと早い筈だからエナは逃げ切れない。
それより魔獣は1匹だけだから倒す方がリスクが少ないし周囲には高い岩が幾つも密集していて戦いやすいそうだ。
「無理無理無理ィーーーーッ‼」
クーベルは逃げ出したけどそもそも最初から当てにしていない。どうぞ勝手にどっか行って。
【ミッション「《砂足蜘蛛》を退治せよ」を開始しますか?】
条件、《砂足蜘蛛》を退治する。制限時間1日。
注釈、逃走された場合無効。
報酬スキル、《想造の粘視》
【はい/いいえ/詳細】
魔獣の名前は《砂足蜘蛛》か。
さあミッションスタートだ────!




