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十五話 03 魔物の洗礼

 《砂足蜘蛛(ガアラネア)》が岩裏のエナに駆け寄ろうと動きだす。させるか!


(《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》)


タンッ


「頑甲けっ……」


 俺は岩の上から飛び降りて背中にスキルで殴り掛かる。


バシュン! ……ドッ‼


 だが《砂足蜘蛛(ガアラネア)》のしなった前足が俺の胴体を薙ぎ払う。


「ぐわっ!」


 気付くと俺は近くの岩に叩き付けられていた。


 嘘だだろ? 背中も見えてるのか!


「テルト!」

「キシィ……!」

「エナ! 逃げろ!」


 吹き飛ばされた俺よりエナの方が《砂足蜘蛛(ガアラネア)》に近くなる。

 《砂足蜘蛛(ガアラネア)》のターゲットが切り替わった。


 《衝撃耐性(しょうげきたいせい)》のお陰で持ち堪えたけど俺はまだ動けない。


「《氷霧の階梯(グラチェス・ティエロ)》!」


 エナは突然何もない空間に杖を振った。


トッ トッ トッ トッ…………


 そこを階段でも上がる様に優雅に駆け昇って行く。

 何かのスキルだな。


 よくよく見ると空間に小さな何かがキラキラ光っていた。

 アレを踏み台にしてるのか?


「ミャニュ!」


 エナが登ってる間、猫モードのシャロンが《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の目の前を駆け回ってヘイトを稼いだ。


 いいぞシャロン!


 おかげでエナが手近にあった高さ4メートル程の岩の頂上に登り切れた。

 俺も体の自由が戻る。


 さあもう一度だ!


タンッ!


「《雷震の把手(トルエノ・アステール)》!」


 俺は別の岩の頂上に登り再び急襲。


バチンッ! ……タンッ!


 《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の背中に雷撃を叩き込む。

 今度は《ガードブレイク》する事に成功した。

 そして背中を蹴ってすぐさま元の岩に戻る。


「ギギィ!」


ビュン‼


 予想通りの反射速度で《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の足が動いて空を切った。

 残念、既にもうそこに俺は居ないぞ!


タンッ!


「《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》‼」


 俺は抜剣して《ガードブレイク》した背中目掛けて今度は鉄をも貫く自慢の剣撃スキルをブチ込む。どりゃあ!


カキーンッ!


「なっ、効かない⁉」


 ところが剣は《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の殻を微かに傷付けただけで貫く事は出来なかった。


 嘘だろ、何て硬さだ‼ 


……ビュン‼ バキッ! ドンッ!


「ぐはっ!」


 当然の様に《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の足が動く。

 これはかわせなくて俺は近くの岩にまた吹き飛ばされた。


 全身むち打ちになりそう!


「《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》!」


バッシュ‼ ザシャンッン‼


「シャロン! 撹乱して!」

「ミャニュー!」


 エナが魔法で上から援護してくれた。

 シャロンも活発に《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の周りを動き回って俺の復帰時間を稼いでくれる。


 今のうちに考えよう《ガードブレイク》の手応えは確かにあった。


 でも《砂足蜘蛛(ガアラネア)》は巨体だから《ガードブレイク》出来たのは触れた辺りのほんの一部だと思う。


 再攻撃までの間に少し時間もあったしその間に《ガードブレイク》した場所が修復されたんじゃないか?

 ならもっと早い間隔で攻撃すればどうだ? ……試してみるか。


 俺はエナ居るの岩の上に跳躍で登って隣に着地する。


「俺がこれからあの魔物の背中に攻撃するから、エナに同じ所に魔法を当てて欲しい。さっきの魔法を」

「同じ場所ですか? でも私の攻撃はさっき通じなかったです……」

「大丈夫、俺が攻撃した場所は《ガードブレイク》っていって、少し弱くなるんだ」

「そうなんですか? わかりました、やってみます!」


 俺はエナに丁寧に作戦を伝えた。連携ミスはSPの浪費になる。

 事前に俺の《ガードブレイク》の説明をしておけば良かったな。


「…………コクッ」


 魔法の準備が終わったエナから目で合図を受け取る。


タンッ!


「《雷震の把手(トルエノ・アステール)》!」


バチンッ! タンッ!


 それを受けて俺は岩から飛び降り《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の背中を《ガードブレイク》する!


「《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》!」


バッシュ‼ ザシャンッン‼


 エナの放った氷の棘が《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の背中に突き刺さった。


 即興の作戦だけど完璧に成功だ!

 エナの《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》でも貫けたんだ。

 なら威力の高い俺の《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》も普通に通用する筈だ。俺の考察は正しかった!


「駄目でしたね……」

「いや浅いけど突き刺さっていたよ。もう一度、今度は目を狙おう」

「はいっ!」


 《砂足蜘蛛(ガアラネア)》を倒すルートが見えたぞ。

 そのためにまず《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の素晴らしく優秀な目を潰しておかないとな。


バシュン! ドッ‼


「ミャニュ!」

「シャロン!」


 シャロンが《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の足に捕らえられ吹き飛ばされる。


 さっきからシャロンが1人孤軍奮闘していた。

 けどネコ科は瞬発力はあっても持久力はない。


 すまないシャロン今助ける!


「ちっ、《白霧の煙幕(ネブラ・フーモ)》!」


ポンッ ……ボンッ‼


 白い煙幕が弾け広がる。

 逃げたと思ったクーベルがシャロンを助けるためだろう催涙煙幕を張った。

 余計な事を、これじゃ俺が《砂足蜘蛛(ガアラネア)》に近付けない!


「……いやチャンスだ! 《無呼吸法(むこきゅうほう)》!」



【《無呼吸法(むこきゅうほう)》】

タイプ身体強化、消費SP1

1分間ほど、無呼吸で動く事ができる。

SPが続く限り延長可能。

【閉じる】



 このスキル使い所が無さそうだと思っていたけど!


タンッ! タンッ! タンッ‼


「《雷震の把手(トルエノ・アステール)》!」


バチンッ! タンッ!


 よしっ、煙幕のおかげで逆に楽になった!


「今だエナ!」

「《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》!」


バッシュ‼ ザシャンッン‼


「グギギィイィーーーーッ!」


 俺の合図でエナの放った無数の氷の槍が《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の目の幾つかを貫いた!

 煙幕でエナにも《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の目の場所は分からなかった筈だけど、俺の位置から推測したのかな? 良い当て感だ!


(《砂塵の掴手(アンモス・ケイル)》!)


シュタッ! ジャリッ!


「《雷震の把手(トルエノ・アステール)》!」


バチンッ!


 薄くなる煙幕の中俺は《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の腹に仰向けで履い込むと、その気持ち悪い土手っ腹に雷撃を打んだ!


「《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》‼」


 視界が奪われた《砂足蜘蛛(ガアラネア)》は思わぬ場所から走る痛みに理解が追いつかない様子で身を震わせている。


 そらっ! もっとねじ込んでやるよ!


ズサリッ!


 《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の腹は僅かに色が変わっていたから、背中より柔らかいんじゃ無いかと思ったけど予想通りだ。

 もっとだもっと!


ギギイィィーーギィッーー!


 痛みに耐えられず《砂足蜘蛛(ガアラネア)》は歯をこすり合わせて悲鳴を上げ、暴れ回った! 


ズズズズズズ…………ッ! ガツンッ!


 両手で剣を握る俺は引きずられながら《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の腹を更に切り裂く。

 でも途中で《ガードブレイク》が及んでない硬い場所に当って刃が止まった。


 もう面倒くさいな!


「《雷震の把手(トルエノ・アステール)》! 《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》‼」


グシャリ!


 俺は引きずられる中で一瞬だけ左手を離し《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の腹に雷撃を放ち《ガードブレイク》する。


 同時に剣撃も打ち込みエグリ切った! 感触が気持ち悪い!


「ギギギイィィーー!」


……ドサッ‼


 《砂足蜘蛛(ガアラネア)》は鳴き声の様な悲鳴を上げて俺を押し潰すように倒れ込んだ。


「やったか⁉」

「テルト!」

「けほっ……大丈夫無事だよ」


 俺は消えかけの煙を吸ってしまい、咳き込みながら《砂足蜘蛛(ガアラネア)》の腹の隙間から這い出る。


 大きさの割に軽そうだけど、それでも300キログラム以上はあるだろう。

 小さな岩で隙間が無ければやばかったな。



【ミッション「《砂足蜘蛛(ガアラネア)》を退治せよ」達成】

【スキル「《想造の粘視イマジナリー・リームス》」を取得しました】

【閉じる】



 《砂足蜘蛛(ガアラネア)》はピクリとも動かない。

 ふぅ、クーベルのフラグも虚しく無事に倒せたようだ。


「しかし、これが魔獣ってやつか初めて見たぜ」

「私もです」


 俺は服の土埃を叩き落としながら立ち上がる。


「おいおい大丈夫か?」


 皆で魔獣の死体を囲んで観察してると背後から誰かの声が掛かって来た。


「助けに来たけど無事だったみたいね」

「さっきの冒険者さん!」


 驚いて振り返るとさっき王都で声をかけてきた4組の冒険者達だった。

 クーベルの言う事が正しいなら俺達を騙そうとしてた連中だ。何故こんな所に?


「貴方達が心配だったからこっそり付けてたの、危なかったわね」

「勝手に《陽炎の迷宮(ダンジョン)》に入ろうなんて、無茶しやがる」

「気持ちは分かるが、これで分かったろう諦めな」

「ごめんなさい」


 エナは謝ってるけど、心配して付けてたねぇ……どうだか。

 警戒しとくに越した事はない。

 俺はSPをかなり消耗してるし突然襲われたらマズイ。


「この魔物は《陽炎の迷宮(ダンジョン)》では雑魚だ、これ1匹に苦戦するようじゃお前達に冒険者は無理だぜ」

「《陽炎の迷宮(ダンジョン)》にはこれ以上の魔獣がわんさかいるからね」

「そんな⁉」

「これが《陽炎の迷宮(ダンジョン)》では雑魚?」

「マジかよ……!」


 さっきの《砂足蜘蛛(ガアラネア)》が雑魚か。

 ……1匹でも大苦戦したのに、複数体なんて裁ききれるのか?


 そもそも《ガードブレイク》をしなければ傷1つ付けられなかった。

 かなりのレベル差もあった筈だ。


「この事は特別に黙っててやるからもう帰んな」

「はい、ありがとうございます」

「気をつけてな」


 俺達は冒険者達と別れて王都に向かって歩き出した。

 取り敢えず襲われる事は無かったし、この事を黙ってくれるのは助かる。


「テルト、どうしましょう? 《陽炎の迷宮(ダンジョン)》諦めます?」

「…………面白い。やってやろうじゃん」


 残念、俺は俄然やる気になったよ。

 確かにかなりキツイ事だ。普通は誰もが諦めるかも知れない。

 でも逆に言えばますます攻略し甲斐があるって事だ。


「くくっ、あの魔物見て怖気づかねぇのかよ。つくづく狂ってやがるぜ!」

「テルトらしいです!」


 とりまボーダーを知る事はできた。


 さっきの《砂足蜘蛛(ガアラネア)》を雑魚の様に蹴散らせるくらいの強さ。

 まずはそこだ! 方法はこれから考えればいい。


「ミュニャ!」

「シャロンありがとうな、助かったよ」


 シャロンも俺に同意してくれた様だ。

 さっきの戦いシャロンの頑張りが無ければ勝てなかった。本当に最高だよ!


「おい! 俺も助けてやっただろ? 俺にも礼を言いやがれ!」

「さあ帰ろう」

「おいっ!」


 クーベルの言葉は無視した。

 煙幕も助かったと言えば助かったけどシャロンの活躍の足元にも及ばない。




◇◇◇




 テルト達が立ち去った後。


 先程の4人の冒険者達は岩の上に座り込み《砂足蜘蛛(ガアラネア)》が解けるように消えているを眺めていた。


「……ふふっ……あははははっ、見たかよアイツラのアホ面!」


 やがてマルキスが思い出したように笑い出し、それを皮切りに会話が始まる。


「さっきの魔獣が《陽炎の迷宮(ダンジョン)》の雑魚って話、相当ショックだったろうねマルキス!」

「あの魔獣《砂足蜘蛛(ガアラネア)》は《陽炎の迷宮(ダンジョン)》深部の強敵で、倒せたら《A級(エーランク)》冒険者格だからな」

「なんも知らねぇで、信じてやんの!」


 テルト達が倒した魔物は雑魚などではなく単体でもかなり手強い魔獣だった。

 冒険者の上位4パーセントしか到達出来ないと言われるAランク冒険者のパーティでなければ倒せないとされる。


「しかし何者だ? あの強さ尋常じゃなかったが」


「どうでもいいさ、もう会う事も無いバカ共だ。それよりこの《砂足蜘蛛(ガアラネア)》俺達が倒した事にしないか?」

「当然。こんだけでかい魔獣だ魔石もがっぽりだ!」

「それだけじゃねぇ、これで俺達《荒砂の猟犬(こうさのりょうけん)》もやっと《B級(ビーランク)》から《A級(エーランク)》冒険者にれるぜ!」

「あの間抜け共のお陰で、何の苦労も無くウハウハだなぁ!」


 4人の冒険者の笑い声が周囲にこだまする。


 その冒険者達から程よく離れた死角の岩の後ろに2人の冒険者が居た。

 2人は会話を途中まで聞いていたがやがて離れていく。


「オメロス先生良いんですか、ほっといて?」

「首を突っ込むのもめんどくせぇし良いんだよ、それに騙される奴が悪い」


 オメロスと呼ばれた男は40前後で黒茶髪のゴツい大男。

 もう1人の生徒は20歳程の特徴の無い黒髪の優男だ。


「騙す方が悪いと思いますけどね」


 オメロスは冒険者の上位0.01パーセントしか到達出来ないと言われるSランク冒険者で、《砂足蜘蛛(ガアラネア)》を単独で倒す実力がある。

 だがその杜撰な性格と仕事ぶりから《陽炎の迷宮(ダンジョン)》でうっかり取り逃がしてしまいわざわざ追って来ていた。


「めんどくせぇ」

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