十六話 01 背負う覚悟
俺ことテルト・リバースが王都クロイセフォンに到着して2日目の朝。
早速魔獣対策の準備をするため支度をして1階に降りた。
居間ではエナとアミーネがテーブルで食後のハーブティを飲んでいる。
クーベルは隅の箱の上に俺が教えたあやとりでシャロンとじゃれていた。
「早いね? テルト、昨日は大分お疲れのようだったけど」
「今日は色々やる事があるんだ」
「昨日の魔獣を倒す方法考えなきゃですね、一緒に頑張りましょう!」
「えっ? 魔獣?」
アミーネが魔獣と聞いて驚いた。
そう言えば初めて合った頃は本当に魔獣を倒せるのかって誂われてたっけ。
……って、そんな事は今はどうでも良い!
「その事だけどエナ。やっぱりエナとは一緒に《陽炎の迷宮》には連れて行けない」
昨日の魔獣の強さは想像以上だった。
あんなのが雑魚としてウジャウジャいるんじゃあまりに危険だ。
「そんなっ……! 私足を引っ張らないように頑張りますから!」
「そういう問題じゃないから」
「そんなっ」
もっと魔物が弱かったならエナと一緒でも大丈夫だと思ったけど。
あれじゃとても無理だ。
「おいテルト、少し話がある」
「……なんだよクーベル」
「いいから来いって! 大事な話だ!」
クーベルがあやとりの紐をシャロンに適当に巻きつけて立ち上がり、俺の首に手回して部屋の外に引きずりだす。
何が大事な話だよ。
こっちだってエナと大事な話の最中だったんだぞ。
◇◇◇
俺はクーベルに連れられて近くの空き倉庫に来た。
結構な広さで壊れた家具などのガラクタやゴミが山積みにされている。
ゴルトンが言うには所有者は居るけど長年ほったらかしにされてるらしい。
今では近所の人の粗大ごみ置き場になっているんだとか。
「それで話って何だよ」
「ずっと考えてたんだよエナの事だ、エナ・ウェルカトル……確かセラスール地方を治めてるウェルカトル男爵家と同じ名字だ」
「……」
クーベルにしては神妙な顔をしてると思ったら。
どうやら下らない話じゃなさそうだ。
「盗賊団の誰かが噂してたぜ。その男爵家には娘がいて何だかっつぅ呪いを持ってて、男が触れると呪い殺されるんだとさ」
「……」
やっぱりクーベルはエナの呪いの事を知っていたのか。
それに世間でも結構有名だったらしい。
当たり前か。あんな強力な呪いが噂になっていない訳が無い。
「あれだ、俺がエナに最初に会った時にエナの手を触ったらエナの奴大声上げて、咄嗟に思い出してヒヤッとしたぜ。だが俺は未だにピンピンしてる……だから違うのかとも思ってたんだが」
エナの着ている服もかなり上等な物だ。そこから一般人では無い事もバレバレだったよな。
「エナなんだろ? その呪われた娘って」
「……」
エナとの事は誰にも話す気はない。
いつ何処からハイルム男爵の耳に入ってまた追っ手を放たれるかも知れない。
「黙ってるって事はそういう事だよな? エナとお前の間に何があったんだ?」
「クーベルには関係ない」
「……そうだけどよ、でも、エナの呪いを解いたのはお前じゃないのか? エナのお前の信頼は半端じゃねぇ、そうとしか思えねぇ」
「そんな話なら俺は戻るぞ」
クーベルはハイルム男爵の事までは知らないだろう。
エナの居場所をチクって褒美を貰おうなんて発想も無い筈だ。ほっとこう。
「待てよ、何でそこまでエナと一緒に《陽炎の迷宮》に行くのを嫌がるんだ?」
クーベルが俺の腕を強く掴んで引き止めてくる。
「お前はエナの事が好きでエナもお前を慕ってる。一緒に行きゃ良いだろ」
「危険だからに決まってるだろ」
俺はクーベルの鬱陶しい手を振り払った。
ほっといてくれ。
「だからだろ! 俺が言うのも何だが、お前は大の男を何人もブチのめせるくれぇ強えぇんだ! 一緒にいて守ってやれば良いだろ‼」
「何でお前にそんな事、関係ないだろ」
簡単に言うな俺はお前みたいな無責任じゃないんだよ。
守りきれなかったらどうするんだ。
「エナの為だ、借りあるからな嬢ちゃんには」
「何の事だよ?」
「こっちの話だ」
クーベルはほんの一瞬右手を見て言葉をはぐらかした。けど実のところ俺は知っていた。
エナはクーベルの《壊疽の毒》にやられた右手を毎日回復魔法で癒やしている。
今では最初の頃と比べて大分血色も良くなって来ていた。
その事でこれも義理のつもりなんだろう。
「けどな決断は早くしろよ。昨日の戦いを見てて思ったが事前に持ってる魔法やスキルを知ってればもっと楽に倒せてた筈だぜ」
「それは……」
分かっている。でもやっぱり駄目だ。
《陽炎の迷宮》には小手先の連携なんて意味がないくらい強い魔物がいるかもしれない。
「《陽炎の迷宮》がヤベェ所だってのは俺も分かった。けどエナの魔法は結構頼りになると思うぜ?」
「……」
「まっ。どうしてもエナを過保護に守りたいなら、好きにすりゃ良いけどよ。エナ嬢の気持ちも考えてみたらどうだ? 話はそんだけだ。じゃあな」
「好き勝手言いやがって……」
長いようで短い話しが終わりクーベルは倉庫の裏口から出て行く。
何で俺がクーベルにこんな説教がましい事を言われなきゃならないんだ。
……でも。もう一度考えてみるか。
エナの魔法は確かに強力で昨日も何度か助けられた。
他にも回復魔法も持っているのは心強い。
それにシャロンの存在も大きい。
エナなしで《陽炎の迷宮》を攻略する場合、シャロンを借りっぱなしなんて虫が良すぎるだろう。
そもそも俺は《陽炎の迷宮》1人で行くつもりなのか?
まさか、信頼出来る仲間が欲しい。
この世界で何度か人に裏切られて来た。命がけの戦いの中でそれはゴメンだ。
それに俺は冒険者になるために2年も待つつもりはない。
勝手に《陽炎の迷宮》に入ろうとしている。
それに付き合ってくれる様な人間がどこに居る?
そう。この2つの条件を満たしてくれる人なんてエナ以外に居ない。
最初から選択肢なんて無かったじゃないか。
エナの気持ちは分からない。
でも俺と一緒に行きたがってくれている。それは素直に嬉しい。
エナ以外考えられない。
でもエナを傷付けたり失うのが怖い。
だったらエナを守れるくらい強くなるしか無い。
最初から簡単な話ではあった。
「出来るか? 俺に……」
俺がどんなに強くなってもエナを傷付けたり失う可能性は消えない。
けどさ、危険なんて何処にだってある完全にゼロにするなんて無理だ。
怖い、けど覚悟しなきゃいけない。
「……決めた」。
少し回り道をしたかもしれない。
でも1回曲がって、さらにもう1回捻って、結局1回転して元の結論に戻る。
実に俺らしいよな。




