十五話 01 荒砂の猟犬
俺ことテルト・リバースとその一行が王都クロイセフォンに到着した翌日の朝。
朝食と身支度を済ませゴルトン雑貨店の居間に居た。
店はそれなりの大きさだけど1階の大部分は店なのでキッチン込みで十ニ畳くらいしか無い。
「おいテルト! 俺の馬車は何処だ!」
「売ったよ」
「はっ?」
店を出ようとすると入口から焦った顔でクーベルが俺の元へ詰め寄ってくる。
めんどくさ。
「もう使わないから売り払った。それと、あの馬車は俺のだ」
俺は昨日布団を買いに行った時についでに馬車を売り払っていた。
「ふざけるな! あの馬車で荷運びの仕事しようと思ったのに! 買い戻せ!」
「嫌だね買い戻したら損だし、諦めろ」
「このクソガキが! ぶっ殺す!」
「断りもなく売るなんて、私は止めたんですけど。あの馬車古いけどいい馬車だったんですよ?」
不当に激怒するクーベルを俺は鼻で笑って追い払う。
売り払った理由は金が必要だったしもう王都以外の何処かに行く予定も無かったからだ。
何よりクーベルに奪われるわけにはいかない。
案の定クーベルは自分の物にして勝手に使う気だったようだ。
運送業でも始めるつもりだったか? そうはさせるか!
「朝から騒がしいぞ、仕事の準備の邪魔はするなよ」
俺とクーベルの言い争いにゴルトンが呆れた顔で釘を刺す。
食事の片付けが終わったアミーネも手をパタパタとさせながら寄って来た。
「大丈夫、これから出かけるから」
「どこに?」
「この町の冒険者組合に行ってみようと思う」
「またか? どうせ年齢制限で門前払いされるだけだぞ?」
ゴルトンは『よく懲りないな』って顔をする。
「一応掛け合ってみる。駄目だったら市内を見て回ろうかな」
もしかして王都だったら年齢制限が無いかも?
なんて甘い期待してたけど年齢制限はやっぱり全国共通みたいだ。
年齢詐称でも試そうか?
「はぁん? 冒険者って年齢制限があるのか?」
「テルト以外にも知らない馬鹿がいたんだね」
「うるせぇ! 興味ねぇから知らねぇよ!」
「ふふんっ」
アミーネのせせら笑いにクーベルは頭を掻いてそっぽを見る。
「俺はこの町に来たばかりでツテがねぇ、仕事は自分で探せよテルト」
「分かってる、じゃあ行ってくる」
「おう、気を付けてな」
俺とエナとシャロンは店を出る。
すると何故かクーベルも付いてきた。
付いてくるなと言うのも面倒なので放っとこう。そのうち何処かに行くだろう。
◇◇◇
俺達は『冒険者組合クロイセフォン支部』と書かれた看板のある滅多に見ない4階立て建物の前にやって来た。
早朝だからだろうか大都市だからだろうか冒険者と思しき武器を持った人が何人か居るのが窓越しから見えた。
今更だけど大勢が見てる中で『冒険者になりたい』と言うのが恥ずかしくなってきた。断られるのが目に見えてるしなぁ。
だけど俺は実際に《陽炎の迷宮》をその目で見てどうしても行ってみたくなった。
微かでも可能性があるならチャレンジだ。行くぞ!
バタンッ!
建物の中はかなり広々としていた。
カウンターが4つ程あってそのうち2つに受付の男が立っている。
片方が開いていたので俺達はそちらに向かった。
「おい聞いたか例の辻斬りの話」
「またか? 確か元聖騎士のユリザとか言う奴の仕業だろ」
「気をつけねぇとな」
冒険者が各々のテーブルで噂話や世間話をしていた。
向かってる受付に立つ男は入った時から俺達に気付いていて、目の前に来るのを軽く笑顔で待ち構えている。
「すみません、俺達冒険者になりたいんですけど」
「はぁい? 一応聞くけど……年齢は?」
受付の男は少しだけ間抜けな返事をしたあと、僅かに崩れた笑顔で俺の年齢を尋ねてきた。
こりゃ年齢詐称も無理そうだ。
「……16歳です」
「私は15歳です」
周囲に居た冒険者の何人かが俺達の方を見たような気がする。
「悪いけど、冒険者の試験は18歳にならないと受けれないよ」
「それ、特例で何とかならないですか?」
「テルトは強いんですよ?」
「強くても無理だねぇ、2年なんてすぐだよ。大人になったらまたおいで」
オロフォンの受付の時と違ってクロイセフォンの受付はとても丁寧に不快な顔もせずに対応してくれた。
「そうですか……」
「やっぱり駄目みたいですね」
「仕方ない戻ろう」
こう礼儀正しくされると無理を言って困らせるのも申し訳ない。すんなり引き下がる事にする。
まあ、こうなるのは分かってたし。
◇◇◇
俺達は冒険者組合を出て元の道を無言で戻り始めた。
この後はどうしようか、改めて皆と相談しておくべきだよな。
喫茶店みたいな落ち着ける店にでも寄るか。
「ちょいと待ちなよ君たち」
後ろから声が掛かって俺達は振り向いた。
先程の冒険者組合支部で見かけた4人の冒険者がこっちに駆け寄って来た。
多分パーティかな?
「何ですか?」
「俺はマルキス、《荒砂の猟犬》って言う冒険者さ。君たちは何でそんなに冒険者になりたいんだ?」
リーダーだろうかマルキスと名乗る20歳後半の黒髪の男がフレンドリーな笑顔で1歩踏み出した。
「……どうしても《陽炎の迷宮》に行ってみたくて」
俺は特に嘘を付く理由も無いので素直に答える。
「《陽炎の迷宮》に行きたいだけなら、手はあるよ」
「本当ですか?」
20歳後半の薄紅色の髪の女魔術師が答えた。
それは今俺が喉から耳が出るほど聞きたい話だ! 一体どうやって?
「それは、冒険者の荷物持ちとして雇ってもらうのさ」
「冒険者の随行人としてなら《陽炎の迷宮》に入れるんだよ」
「丁度俺達も荷物持ち探してるんだけど、どうだ? 付いてくるか?」
なるほど俺達が冒険者にならなくても冒険者に付いて行けば良いんじゃないか!
その発想を何故思いつかなかったんだ!
「本当に⁉ 良いんですか?」
「やりましたね! テルト!」
「ああ、勿論」
荷物持ちでも何でもして《陽炎の迷宮》に入ってしまえば魔物と戦ったりする機会もあるよな?
やったぞ!
無駄だと思える事でも行動してみると思わぬ突破口が開く事があるんだ!
「……ちょい待ち。テルトちょっとこっち来い」
「……何だよクーベル」
俺が2つ返事で引き受けようと思ってた所を突然クーベルが首に手を回して壁際に強引に引っ張る。
何の用だよ、今大事な話なの!
「後で理由は話す、今は断れ!」
「はぁ?」
「悪いな、その話しまた今度にしてくれ、行くぞテルト!」
「おっ、おい!」
クーベルが俺の同意も待たず勝手に断りやがった。
何してくれてんの⁉
「そうか……残念だな」
冒険者の4人は俺の答えを待たずに引き返して行く。
その時後ろに居た冒険者の1人が一瞬苦い顔をしたような気がした。
「どういう事だクーベル!」
「ったく。思い出したんだよ、冒険者の荷物持ちの話」
「何?」
俺の怒りをさらりとかわしてクーベルは語りだす。
「彼奴等はな、荷物持ちを《陽炎の迷宮》で危険になった時に囮にして逃げる為に雇うんだ。最悪わざと危険地帯に行って魔物に襲わせたり、直接殺して持ち物を奪う事もある」
「まさか! 嘘じゃないだろうな?」
「信じられません!」
いや……でもクーベルが言う事は本当かも知れない。
流石に話しが上手く行き過ぎてた気がした。
「本当だ。ガレオロス盗賊団にも元冒険者が何人か居てな、そいつらが自慢げに話してたのを聞いた事がある」
「なんてこった。せっかく方法が見つかったと思ったのに」
「感謝しろよテルト。俺が居なけりゃ今頃ホイホイ騙されてたんだぜ?」
「はぁ……」
「酷い人も居るんですね。気を付けないとねえシャロン」
「ミャニュ!」
さっきの冒険者達が前向きだった俺を説得しないであっさり引き下がった理由。
それはクーベルはその手口を明らかに知っているような反応をしたからだ。
だから上手くいかない事を悟って最後に苦い顔をしたんだ。
とんだぬか喜びだったな。




