十四話 03 王都での再会
王都クロイセフォンは本当に巨大だった。
この国の戸籍管理が正確なら人口が30万人くらい居るらしい。
戸籍を持たない不法労働者も含めればもっとかも。
産業化前の日本の江戸が人口100万人で世界一だったと聞いたか事がある。
その3分の1の規模なら砂漠の中の一国の首都としては相当大きそうだ。
似たような町並みが続くけどその何処からでも王城を見る事が出来た。
人工的に盛り上げたと思われる丘の上に巨城が天高くそびえている。
「どうもありがとう」
「気を付けてね」
町に入ってすぐの馬車広場でお婆さんを下ろして別れた。
「それでこれからどうするんだ? 宿でも探すか?」
「いや、この住所の所に寄ってくれ」
「どれどれ?」
俺はクーベルにゴルトンから貰った住所の書いてあるメモを渡す。
「どこです?」
「前にお世話になった人の店だよ。シャロンは覚えてる? ゴルトンさんだ」
「うん! 覚えてる! お世話になった!」
「そうなの?」
シャロンは嬉しそうに尻尾を振った。
真っ先にゴルトンに会おうと思った理由はこの町の情報を手っ取り早く聞くためだ。
◇◇◇
俺達は午後3時前くらいには目的の『ゴルトン雑貨店』と書かれた真新しい看板が掲げらた店を見つけていた。
場所は王城の西の区画で中央の大河にも近く賑わいを見せる商店街だ。
クーベルが邪魔にならない位置に馬車を止め手近な鉄の棒に馬車を繋ぐ。
この国の都市は基本治安が良いので置き引き等の心配は殆どない。
全員でゴルトン雑貨店の扉をくぐるとそこには懐かしい顔があった。
「いらっしゃい……って、テルトじゃねぇか⁉ それにシャロンも!」
「お久しぶりですゴルトンさん」
「久しぶりゴルトン!」
俺とシャロンの突然の来訪にゴルトンは目と眉を丸くする。
「お前ら、どうして王都に?」
「色々あって、アミーネは元気?」
「ああ、悪いが今営業中だ。奥にアミーネが居るからそこで待っててくれ」
「わかった、行こうみんな」
丁度1人客が入って来た。
それなりに繁盛してそうだな。
「あー俺は外で暇潰してくるぁ」
「ん?」
クーベルがソワソワして店を出ようとした。急にどうした?
……そうだ思い出した。
クーベルはかつてこのゴルトンから宝石細工を盗んだ事があったんだ!
「……あっ! ちょっと待て!」
「ぐえっ!」
俺はクーベルの後ろ襟を掴んだ。
逃さないぞ。
「いてっ! なっ何だよ!」
「良いから一緒に来い泥棒、逃がさないからな」
「ちょ、ちょっと待て! 分かったから! 俺の事は黙ってろよ!」
クーベルの手首をひねりながらゴルトンの指示に従って奥の部屋へと連行する。
バタンッ
「⁉ ……えっ? テルト!」
「久しぶりアミーネ」
アミーネは奥の部屋で本を読んでいた。
テーブルにはノートと筆記具も散在しているので勉強中だったのかな?
俺の顔を見て目と眉を丸くする。さすが親子そっくりだ。
「久しぶりアミーネ!」
「シャロンも! 元気だった?」
「うん!」
そういえばアミーネはシャロンを可愛がってたっけ。
2人はお互い駆け寄ってハグとチューをした。
「あのっ、はじめまして、エナ・ウェルカトルと言います」
「えっ、ああはじめまして……あたしはアミーネ」
「エナはシャロンの飼い主で、旅の途中で再会したんだ」
「そっ、そうなんだ……」
俺はエナの事をアミーネに軽く紹介するとアミーネが何処か引きつった顔になる。
どうかしたのか?
「そっちは?」
「こいつはクーベル、ゴルトンの宝石細工を盗んだガレオロス盗賊団の泥棒だ」
「あっ、こら! それは言わない約束だったろうが!」
「なっ何だって⁉」
俺はクーベルの正体を明かして部屋の前に突き出すとアミーネは怒りの表情に変わった。
「約束なんてしてない」
「てめぇテルト、ぶっ殺す!」
一時はクーベルに同情し罪を許そうかと思ったけどやはり捕まえて置いたほうが世のため人のためだ。観念しろ!
「あっ、テルトが話してたお世話になった商人さんって、ここの人だったんですね」
バタンッ
「何の騒ぎだぁ? お前ら」
キョトンとしていたエナがやっと事態を飲み込んだ所で、ゴルトンが部屋に割って入って来る。
冷や汗たらたらのクーベルを横目に、俺はこれまでの経緯をゴルトンとアミーネに話した。
「なるほどねぇ、コイツがあの時の盗人か」
「ぐっ……」
「捕まえるかどうかはゴルトンさんに任せるけど、どうする?」
「自警団に突き出しちまおうぜ親父ーっ」
ゴルトンはどうしたもんかと言った顔をしているけどアミーネはクーベルの印象が悪いらしく捕まえる事に積極的だ。
クーベルは追い詰められても猫に噛みつけないネズミ状態だ。
「そんな酷いですテルト! クーベルさんは盗賊団の仲間に殺されかけてたんですよ? 折角もう改心して真っ当な仕事をしようとしてたのに」
「そっ、そうだぜ嬢ちゃん! もっと言ってくれ!」
何故かエナはクーベルに甘い。
いやエナは誰に対しても甘いんだけど。
そんなエナにクーベルは頭が上がらないようで、旅の間もエナの言う事だけは妙に素直に従っていた。
「改心した人間が馬車を盗む? エナ」
「あっ……そう言えばそうでした」
「いやっ、違う! あの後、そうあの後改心したの!」
俺はエナの薄っぺらい弁護をあっさり論破する。
クーベルの言う事は半分くらいは本当かもしれない。
少なくとも俺達と一緒に居る間に悪さはしていなかった。
「でもやっぱり薄情です。王都まで馬車を運転してくれたり、お世話になったのに」
「それは……」
そりゃ馬車が欲しかったからだろう。
隙きを見て奪おうと考えていたとしても不思議じゃない。
大人しくしてたのもきっと裏があるに違いない。
「それにクーベルさんに《壊疽の毒》を使って、右手を使えなくしたテルトにも責任があると思います! 確か禁止されてる毒ですよ? テルトも同罪です!」
「えっ? 禁止されてたの? ゴルトンさん!」
そんな話は聞いてないぞ!
「いやっ、仕方ねぇだろ、あんときゃテルトあまりに必死だったし」
「エナ、毒はゴルトンさんに貰ったんだ俺のせいじゃないからね!」
「いやいやいやっ!」
俺は《壊疽の毒》を使った罪をゴルトンになすりつける。
ゴルトンも禁止されてる事を黙っていた負い目で相当に焦っていた。
つまりそう……俺は悪くねぇ!
「そうだ! こうしましょう? 罰としてクーベルさんに2ヶ月間毎日この店のお掃除をして貰うんです!」
「げえっ!」
「なるほど。そりゃ良いかもな」
「サボるんじゃ無いぞクーベル」
エナの提案は今回はまともだった。
少し手ぬるい気がするけど。
「くっ……分かったよ! やりゃいいんだろやりゃ!」
「まともに掃除できんのかねぇ……」
まあ俺も本気でクーベルをひっ捕らえようと思った訳じゃなかった。
もし本当に捕らえたいならゴルトン達の了解なんか取らず直接自警団に突き出せばいいだけだ。
落とし所はこんなもんだろう。
「ったく。だらしない男達だねぇ」
「これで一件落着ですね!」
「クーベル悪い人辞めるの?」
「やめるやめる!」
……絶対ウソだな。
「人はそう簡単に変わらないと思うけど」
「けっ!」
「いいえ変わります! ね? クーベルさん!」
「あっ、ああ勿論だ!」
俺の言葉にエナが力強く反論する。
「……だと良いけど」
人が変わるためには強い意思が必要だ。簡単じゃない。
少なくとも俺は苦労してるよ。
「その件はもう良いとして、それでテルト達はなんで王都に来たんだ? カシルスん所に居たんじゃねぇのか?」
俺はゴルトンに軽く経緯を話した。
勿論エナの呪いの事は伏せておく。王都に来た理由は《陽炎の迷宮》に行くためだと言っておいた。
「やっぱり《陽炎の迷宮》に行く事諦めてなかったのか、変わらねぇなぁ」
「それでゴルトンさんこの店って結構広いけど空いてる部屋ないかな? 俺とエナを泊めて欲しいんだけど」
最初は泊めてもらう気は無かったけど、店は3階建でかなり広そうだったから気が変わった。
安定した収入が得られる保証はないしなるだけ宿代等を節約したい。
「おい俺の分は?」
「無くて良いだろ」
「良くねぇ!」
クーベルも部屋を要求してきたけど同じ屋根の下に住むのは不安しか無いので手で払い退ける。
しっしっ!
「図々しさも変わってねぇな、寝具もロクに無いが2階と3階に1部屋ずつ、エナちゃんと分けた方が良いだろ?」
「やった! 助かるよ」
「ありがとうございます!」
思惑通り仮住まいをゲットできた!
そう長く居るつもりは無いけどこの王都に慣れるまでは居候させてもらおう。
「アミーネ、布団買ってきてくれ」
「わかった」
「いや、それは悪いから俺達が自腹で買ってくるよ」
「そうか? なら頼む」
俺達の為に布団まで用意してもらうのは流石に良心が痛むので断った。
馬車に毛布はあるけど洗ってないし少し臭ってきてる。新しいのを買っちゃおう。
「なら早速行くか!」
「……いや俺とエナで行く、クーベルは店の床でも磨いてろ」
「けっ!」
「シャロンも行く!」
とある理由で俺はクーベルは置いて行く事にした。
ゴルトンに布団を売ってる店の場所を聞いて俺とエナとシャロンは馬車に乗り込む。
これから俺達の王都クロイセフォンでの新生活がはじまる────
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