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十三話 02 盗賊団のアジト

 セラスールとアルセフォンの間の森にガレオロス盗賊団のアジトがある。

 使い捨てられた大きめの山小屋だ。


 俺ことクーベル・ウィーカークはそこで木の棒に縛られていた。


「このカスが!」


バキッ!


「げほっ!」


 盗賊団の1人に腹を殴られる。痛ぇ。


「ほっとけよ、後でバダットが殺すってさ」

「ふんっ」


 バダットって言うのはなぶり殺しが趣味の盗賊団の副団長だ。

 もうすぐ俺ぁ殺されるらしい。くそっ。


 ハーツゲッヘ伯爵の宝物庫へ盗みに入った時俺はもう少しで捕まる所だった。

 だがベイガス兄貴のお陰でなんとか逃げ延びる事ができた。


「ベイガス兄貴……」




◇◇◇




 ベイガス兄貴は俺に学問ってのを教えてくれていた。

 最低限の読み書きと算術更には役に立つ雑学とかだ。


 仕事の空き時間を縫って、紙やペンを買う金は惜しみ地面に棒で文字を書いてくれていた。


「ベイガス兄貴、なんでこんな事覚えなきゃならねぇんだよ」

「クーベル、お前は一生盗賊家業をやるつもりか?」

「そりゃ俺なんかにはそれしか……」

「長続きしねぇよこんな家業。いつか役人に捕まるか、腕の良いのに切られておっ死んで終わりだ」


 ベイガス兄貴の言うことは何時だって正しい。

 実際それで俺は一度殺されかけてたんだ。


「じゃあどうすんだよ」

「盗賊しながら金を稼いで、それを元手に商人になるんだ」

「そんな事俺なんかに無理だって‼」

「いいや出来る。俺が教えてやる。だから覚えろ」


 見た目は粗暴で厳ついベイガス兄貴だがやけに教養ってのがあった。

 他のごろつきと違って礼儀作法も知っていた。

 多分だけど元は育ちの良い結構な身分だったんだろう。


「ベイガス兄貴……わかったよ」


 俺はベイガス兄貴に付いていけばこんな世界から抜け出せる。

 そう信じていた。




◇◇◇




 そんなベイガス兄貴が殺されちまった。

 あのガキのせいだ、最後にベイガス兄貴と戦ったガキ!


「あのガキ絶対に許せねぇ、『今度』あったらぶっ殺してやる!」


 俺はあの後盗賊団からも逃げた。

 兄貴がいたから盗賊団としてやって来れたが俺みたいなガキが居られる場所じゃねぇ。


 だが裏の世界の情報網ってのはすげぇらしい。

 俺はご覧の通り捕まった。


「おう、待たせたなぁクーベルちゃん」


シャキン!


 ヨレヨレの服を着たバダットが気持ち悪い口調でご自慢のナイフを研ぎ終わって小屋から出てきた。

 急所を避けて相手をなぶり殺しにするのが楽しいんだとさ。


「どうやら俺はあのガキに『今度』出会う事は無いらしい……」

「《呀甲拳(ガコウケン)》!」


バキッ!


「ごはっ!」


「《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》!」


ズシャドン!


「がはっ!」


 なっ、何だ? 急に辺りが騒がしくなりやがった。


「? なんの騒ぎだ?」


 俺と同じ疑問を持ったバダットが騒ぎの確認に小屋へ歩いていく。


ベキッ!


「げへっ!」


 小屋の角を曲がった瞬間その顔面を殴られる。


 そこには、もう2度と会う事が無いと思っていたあのガキが立っていた。




◇◇◇




 俺達はガレオロス盗賊団のアジトを襲撃していた。



【ミッション「ガレオロス盗賊団を討伐せよ」を開始しますか?】

条件、ガレオロス盗賊団を討伐する。制限時間4日。

注釈1、倒す必要なし。

注釈2、10名以上の盗賊の捕縛あるいは殺害

報酬スキル、《時層の思覚クロノス・ディアノイア

【詳細】



 ミッションが発生したので受諾済み。

 様子を見て自警団に通報する事も考えたけど、ミッションが発生したって事は達成できる可能性があるって事だよな?

 もしかしたら達成不可能なミッションもあるのかも知れないけど、何だか出来る気がした。



【《時層の思覚クロノス・ディアノイア》】

タイプ知覚、消費SP1、効果時間5秒

知覚時間を遅延させ正確な肉体制御を可能にする。

【閉じる】



 この報酬スキルは説明文がアレでよく分からなかったけど使ってみると凄いものだった。


 使うとスローモーションの様に感じる。

 本来反射で体を動かしている事を頭で考えてから動かせる。

 ……違い分かるかな? 実際説明が難しいんだけど。

 反射速度を限界まで早く出来るって感じだ。


ゴフッ! ……ドサッ!


 ともかく、これは久々にチート感がある有能スキルだった。


「終わった?」

「はい! テルト後は小屋の中です!」


 あっという間に俺達は8人の盗賊を倒した。


 戦闘態勢に入ってる人間といない人間とでは、それだけでかなりの戦闘力差が生まれるんだ。


 エナの言葉を受け俺は小屋に入ると、そこには盗賊団のリーダーらしいスキンヘッドの男が立っていた。


 強いな……レベルは分からないけど俺より強い事が何故か分かった。

 でもスキルの優位がある。苦戦しそうだが行けるか?

 俺は身構える。


「はぁー……」


 スキンヘッドの男も身構え息を吐く。隙がない。


「はあっ‼」


ダンッ! バキンッ‼


 スキンヘッドの男が強烈な脚力で駆け、扉を打ち壊す。

 あまりの速さに俺は反応出来ない!


ダンッ! ……ザッ、ダンッ!


 スキンヘッドの男はそのまま速度を上げて駆け抜け……どんどん俺から離れていく。

 …………えっ? 離れていく⁉


「なにぃーーーーっ‼」


 俺は急いで追いかけドアの外に出るがスキンヘッドの男の姿は消えている。

 あの速さは俺の《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》でも追いつけそうにない。


「にっ……逃げられた……」


 まさか逃げるとは思わなかった。

 俺みたいなガキを見たら普通は舐めて襲い掛かってくるもんだろ?


 しかもあの速さと身のこなしを見ても戦いも強い事は明白だ。

 ……何故逃げたんだろう?




◇◇◇




 俺は森を駆け抜けていた。


 元《A級(エーランク)》冒険者で《疾風のボルゼクス》と呼ばれていた俺だが訳あって今はガレオロス盗賊団のボスをしている。


「勝てねぇ訳じゃねぇ」


 たった今、その盗賊団のアジトが10代半ば程の少年に襲われた。

 少年は年の割には強いがまだ俺には及ばねぇ、戦ったら9割方は勝てそうだった。


 それでも俺は逃げる選択をした。


「あのガキ、異常過ぎる」


 盗賊団のアジトは見つからない森の中にあるから偶然通りかかった訳がねぇ。

 にもかかわらずあんな年端も行かない少年が襲ってきた。何か勝算があった筈だ。


 1割や2割どころか3割か4割くらいは負けるかもしれなかったって事だ。


「念の為だ」


 俺は冒険者だった時も裏の世界でも幾多の危機を生き延びてきた。

 それは俺がほんの少し臆病だったからだ。

 それを恥だと思ったことはねぇ。

 死んでる奴を山程見てきた。


 もう十分稼いだし次の仕事を探すとしよう。




◇◇◇




 テルトと呼ばれたガキは、あっという間にガレオロス盗賊団を倒して縛り上げていた。


 何なんだアイツは! 年は俺よりちょい下くらいか?

 それが腕に多少は自身がある盗賊団連中をなぎ倒しやがった!


「テルト! あそこに縛られてる人が!」

「…………お前!」

「知り合いですか」


 テルトってガキは俺を覚えてたらしい。


「ちょっとね、こいつも盗賊団だ」

「てめぇ、ぶっ殺してやる!」

「そうなんですか、仲間割れでしょうか?」

「けっ!」


 テルトってガキが近寄ると棒に繋がれた紐をほどき、俺も捉えた連中の側に座らせられた。情けねぇ。


「……0か」

「あん?」

「テルト、どうしたんですか?」


 テルトってガキは俺の方を見て『0か』とほざく。

 何がゼロだってんだよ?


「……3、5」

「?」

「4、1……8、2」


 テルトってガキは、他の盗賊団の前を歩きながら何かの数字を呟く。

 何を数えているんだ?


「何を数えてるんです?」


 少女が俺と同じ疑問を投げかけた。


「俺は、人が人を殺した人数が分かるんだ」

「何!?」

「コイツも、あの時戦ったベイガスってヤツも、人を殺した数はゼロだった」


 一通り盗賊団員を調べ終えたガキが、再び俺の目の前に戻ってきた。

 人を殺した人数が分かる? まさか!




◇◇◇




 かつて俺とベイガスの兄貴が仕事を人に見られた事があった。


シャキン!


「殺しちまおうぜ兄貴」

「ひぃ!」


 俺は目撃者を捕らえてナイフを抜いて殺そうとした。

 殺した方が足が付かない。当然だろ?


「バカよせ‼」

「なんで?」

「良いから来い、ずらかるぞ‼」

「チッ!」


タンッ! タンッ!


 ベイガス兄貴が強引に止めるから俺は何もせずにその場からずらかった。

 なんなんだよ、後でめんどくせぇ事になっても知らねぇぞ?


「いいかクーベル、俺達はいずれ商人になる」

「分かってるよ、だからアイツを始末して……」


「バカが! いいか世の中には色んなスキルがある!」


 スキルか。俺も幾つか叩き込まれたし生き残る為に必死で手に入れてきた。


「その中には、人を殺した数を見破るスキルってのもあるんだ」

「はあっ?」


 スキルってのは足を早くしたり、耳を良くしたり、そういうのばっかじゃねぇのか?

 人を殺した数が分かるスキルなんて意味が分からねぇ。


「商人の組合に入る時その数をチェックされる事がある、1人くらいなら言い訳も立つが、多過ぎれば商人になれなくなる」

「マジかよ!」

「将来のために殺人は必要最低限にしろ! 分かったな?」

「わっ、わかったよ兄貴」


 それ以来、俺達は誰にも見られないよ慎重に仕事をこなしてきた。




◇◇◇




 このテルトってガキが、その人を殺した人数が分かるスキルを持っているのか?

 そんな馬鹿な!


「ベイガスは時間に追い詰められるまではナイフを抜かなかった……」

「そうだったんですか」

「戦って分かった。ここに居る他のやつとベイガスは違う」


 テルトが睨みつける盗賊団を睨み返しながら言う。


 やめろ!

 てめぇがベイガス兄貴の何を分かるってんだ!


「ベイガスは、こいつら程悪人じゃなかった」


 ふざけるな!


 ベイガス兄貴を死に追いやったてめぇに何が分かる!

 何だよ! この胸糞の悪さはよ!


シュル……シュル…………


「テルト?」

「……何の真似だ」


 テルトってガキが俺の縄を解く。


「行け、見逃してやる」

「テルト⁉」

「フザケてんのか! てめぇ!」


 ぶん殴ってやりてぇ、しかしこのテルトってガキは俺を真っ直ぐ見ている。

 悔しいが兄貴にも勝ち盗賊団を全員ブチのめしたコイツに俺の拳が届くと思えねぇ。


 くそっ!


「テルトー!」

「こっちか?」


ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…………


「テルト、シャロンが自警団を連れて来たみたいです」


 遠くから別の女の声と大人の男の声がした。

 そして結構な数の足音。


「早く行け」

「くっそっ!」


 俺はその場を立ち去るしかなかった。


 だが、あのテルトってガキ只じゃすまさねぇ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 殺人してないから見逃すってのはどう考えてもおかしいだろ 泥棒や強盗は沢山してるんだろうし、 盗賊としては新人だからまだ殺人してないだけかもしれない それに、堅気の商人を目指してることな…
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