十三話 03 厄介な盗人
10人を超える自警団の男達が近くの搬送用の馬車に捉えた盗賊を次々と連行して行く。
その様子を横目に俺達は軽い事情聴取を受けていた。
自警団というのはこの世界の実質的な警察だ。
衛兵では数が足りないので町の領主から逮捕件を与えられている。
普通の市民が兼業でやっていて団員には減税措置などがあるらしく人気だ。
「本当に君達2人だけで捕らえたのか?」
「運良く不意を付けたから、リーダーは取り逃しちゃったけど」
「隊長、賊がガレオロス盗賊団である事が確認できました」
搬送を終えた団員が数人ほど隊長に報告に戻って来た。
【ミッション「ガレオロス盗賊団を討伐せよ」達成】
【スキル「《時層の思覚》」を取得しました】
【閉じる】
確認の報告と同時にミッション完了の表示がされた。
盗賊団のリーダーは必要条件じゃなかったらしい。有能スキルのゲットだ!
本当はミッションを誰にもバレない様にやる縛りがあるから盗賊団を捕まえても静かに立ち去りたかった。
けど盗賊団に顔を見られまくってるし今回は仕方ないか。
「しかし信じられないな……」
「テルトは凄く強いんですよ!」
隊長が疑いの目を俺に向ける。
確かに俺達みたいな子供が10人以上の盗賊団を捕らえたなんて、普通は信じられないよな。
面倒な事になったらどうしよ。
通報するんじゃなかったな。
「テルト……? テルト……そうだ思い出した!」
「何をだ?」
団員の1人が俺の名前を聞いて何かを思い出した様だ。
「ほらこの間話してたでしょ? ハーツゲッヘ伯爵の宝物庫に忍び込んだ盗賊団を捕らえた少年の話!」
「ああ、あの。お前が立ち会ってた知り合いから直接聞いたっていう?」
「たしか伯爵の目の前で凄腕の騎士と決闘して勝ったんだっけ?」
「その少年が確かテルト・リバースって言う名前だった筈よ!」
あの時の噂がもうこんな所まで広まってたのか。
伯爵に名前は伏せて貰ったけど見学してた人の口は止められないか。
「凄い! テルトの活躍有名なんですね!」
「やっぱり君だったんだ! 話に聞いていた通り凄いじゃない!」
「いや……そんな」
笑顔駆け寄る女性団員に手を握られ勝手に握手される。
「その実力ならこの盗賊団を捕らえられたのも不思議じゃ無い」
「……でも本当に本人なのか?」
「テルト! 勲章を持って無いです?」
「えっ? ああ勲章か」
エナに言われて俺は勲章を取り出した。
ハーツゲッヘ伯爵から貰った勲章はいつも大事に内ポケットに入れていた。
この紋所が目に入らぬか。
「おおそれが!」
「本物は見た事ないけど、こんな意匠が凝らしてあるのが偽物な訳がない!」
「伯爵家の家紋入りだ! 流石に偽造は無理だろう!」
「ははーっ!」
最後の感嘆の声がまるで本当に印籠にひれ伏す人々の声に聞こえた。
「そうだったのか、疑って悪かったな」
なんとか俺が盗賊団を捕らえた事は隊長にも納得してもらえた。
「これが褒賞金だ」
「ありがとうございます」
隊長から報奨金の入った小袋を取った。
…………えっマジで? 金貨4枚も入ってる‼
日本円で40万くらいだよ!
やったね! 通報してよかった‼
「たったこれだけですか?」
エナの『たったこれだけ』って感覚はいかにも貴族のお嬢様らしい。
俺が何日働いたら金貨4枚稼げるんだろう。
「リーダーが居ないからね。それで君達これからどうする? 町まで馬車で送ろうか?」
「いえ自分の馬車があるので」
「へぇ、分かった気を付けてな」
町まで行ってもっと詳しい聴取を受けるのかと思っていた。
日本の几帳面な警察と違って面倒が少なくて助かるな。
◇◇◇
俺たちは馬車のある小川が流れる脇道に戻ってきた。
最初に捉えた3人の盗賊団はもう居ない。
真新しい轍の跡があるから自警団がちゃんと連れて行ったんだろう。
「もらった賞金どうしよう、山分けしようか?」
「いえ、私達はもうパーティなんですから、リーダーのテルトが管理して下さい」
あ、その話し忘れてた。
駄目だよエナをダンジョンに連れて行く気は無いから。
「あのねエナ……」
「テルト!」
ガサッ タッ! タッ! タッ! タッ! ドシャン!
シャロンの叫びの後森から人影が飛び出して馬車に駆けて乗り込む!
「お前! 確か……クーベル!」
「なっ、何なんですか⁉」
馬車に乗ったのは、緑髪を真っ直ぐ顎くらいまで伸ばし頭にバンタナを巻いた若い男。
さっき俺が見逃してやたクーベルと言う盗賊だった。
「へっへっへっ! この馬車貰ってくぜ!」
「あっ待て!」
パシッ! カッ、カッポ、カッポ、カッポ、カッポ…………
クーベルは盗んだ馬車で走り出す! 行き先もわからないまま⁉ って歌ってる場合か、ふざけるな!
「《白霧の煙幕》!」
ポンッ ……ボンッ‼」
クーベルは俺の方にな何かを放り投げ、何かのスキルを叫ぶと弾ける音と共に白い噴煙が周囲に広がる。
「キャッ!」
「ケホッ! ケホッ!」
煙を吸い込むと更に異臭がして咽る。
まさか毒か⁉
「エナ煙から、ケホッ! 出るんだ!」
「はい、ケホッ!」
煙から小川の方に出ると馬車が速度を上げて遠ざかって行くのが見えた。
まて! あの馬車には食料やら色んな道具や荷物が積まれてるぞ!
「《跳鼬の飛脚》!」
タンッ! タンッ! タンッ! タンッ!
俺は全力で馬車を追い駆けたけど既に馬車との距離が離れすぎていた。
『SP12/34』か《跳鼬の飛脚》は後6回しか使えない。
……駄目だとても追いつけない。
俺は諦めてエナ達の元へ戻った。
「これから、どうしましょう?」
「馬車は諦められない。無駄かもしれないけど歩いて追いかけよう、途中の町で休んだりしてるかも」
「はい」
馬車自体も高価だし王都までの乗合馬車代も馬鹿にならない。
俺はまだ諦めきれなかった。
◇◇◇
俺達は馬車を取り返す微かな望みを追って森の街道を歩いていた。
でもクーベルも近くの町にいつまでも居る程バカじゃないだろう。もう取り戻すのは無理だろうな。
幸い金貨4枚あるしこれで王都まで行って後の事はそれからにするか。
それにもうすぐ夕方だ。
色々あって疲れたから早く休みたい今日中に宿のある町に着けるかな。
「テルトー、あれ!」
「ん?」
シャロンが指差す方に目をやると森が開けて麦畑が広がっていた。
そしてそこの畦道の土を掘っただけの小さな水路に馬車の車輪がハマっていて立ち往生しているのが見えた。
それは間違いなく俺の馬車だった。
そして荷台でクーベルがこっちを見ながら待っている。
……俺は呆れて言葉が出ない。
「何やってんだ?」
「見りゃわかんだろ、車輪が脱線した押すのを手伝え」
「フザケてんのかこんにゃろー!」
パシッ!
「んだあぁーっ!」
クーベルのあまりに身勝手な態度に思わず俺は殴り掛かる。
だが軽く右手で受け止められそのまま取っ組み合いになった。
先に謝ったりする事があるだろうが!
「あのテルト、その人は何なんですか?」
「悪い人!」
「あんだとコラ!」
「クーベルって小悪党だよ。あのまま自警団に突き出せば良かった!」
心底そう思う。
ベイガスに免じて見逃してやったけどこれまでの行動からもシャロンの言う通りクーベルは根っからの小悪党だ。
「てめぇのせぇで俺の右手は使えなくなったんだ! 馬車くらい俺に寄越せ‼」
「ふざけんな! 自業自得だろうが‼」
確かに《壊疽の毒》を使った後ろめたさもあった。
この世界の法律は詳しく知らないけど中世くらいの犯罪者への処罰は大抵重い、もしかして死刑なんて事もあるかもしれない。
こいつは仲間にリンチにあって報いは受けていた。盗賊団の中で唯一未成年って事もある。
なんて事を考えて見逃す事にしてしまった。
けど冷静に考えればこの小悪党がを見逃して、今後何か悪さしたらそれは俺の責任でもある。
今からでも間に合う。捕らえて次の町で自警団に付き出そう。
「そっ、そうだったんですか! それはテルトが悪いです!」
「いやいや……!」
「そうだぜ嬢ちゃん、分かってくれたか」
エナは俺に叱りつけるような顔を俺に向ける。
違うって! クーベルの右手がそうなたのには正当な理由があるから!
簡単に言いくるめられるんじゃないエナ!
「そうだ! こうしましょう? テルトがクーベルさんを御者として雇って、クーベルさんに王都まで馬車で運んで貰うんです!」
「どうしてそうなる!」
「何でそうなる!」
どこをどうしてその思考に至ったたんだよ!
俺とクーベルはシンクロしながらツッコミを入れた。
「でもテルトのせいで、右手が使えなくて仕事が無くなっちゃったんでしょ?」
「その通りだ、賠償として馬車を貰う権利があるよなぁ?」
「いやねぇよ! エナ、コイツの仕事って泥棒だから! 次の町で自警団に突き出すから!」
クーベルもエナも言う事がメチャクチャだ。
「でもテルトは馬車を動かせないんだし、丁度いいじゃないですか?」
「うっ!」
そうだ、その問題が解決してなかった。
エナに任せれば良いんだけど箱入り娘のお嬢様だしなぁ。
「何? 馬車を動かせない? どういうこった?」
「何故かテルトの言う事を馬が聞かないんです」
「くっくっくっ……、やっぱりそうじゃねぇか! 馬も俺が主人だって認めてんだよ!」
「なわけあるか!」
俺はクーベルに蹴りを入れたけどサラリとジャンプでかわされた。
くそっ! 次はスキルで攻撃してやる!
「さっきから嬢ちゃん話がわかるね、名前は?」
「エナって言います、エナ・ウェルカトルです」
クーベルはひょこりとエナに近付く。
「嬢ちゃん、こんな奴ほっといて俺と行かねぇか?」
「キャッ!」
パシッ!
「⁉」
クーベルがエナの手を取ろうとするとエナは怯えた顔で悲鳴を上げて振り払った。
「ゴッ、ゴメンなさい。つい癖で……」
「あっ、……いや俺が悪かった」
そうか。
エナはまだ触れた男を疫病にして殺してしまう呪いの恐怖に怯えてるんだ。
バシッ!
「ッテェ! 何すんだ!」
俺は気まずそうにしてるクーベルの顔面に平手打ちする。
スキありだ。
「いいか、エナに触るな、それと見るのも禁止。雇う額は王都まで1000ルドだ!」
「仕方ねぇ、王都まで1人1日1000ルドで俺の馬車で運んでやる!」
「ふざけるな馬車はやらない!」
「いいから、早くそっち押せよ!」
俺は馬車を運転できないし気まぐれなシャロンでは不安がある。
お嬢様のエナが長時間御者台に座るのは無理だろう。
王都までだ、王都に付いたら自警団に突き出す。
それでまるっと解決だ!
渋々俺は脱線した馬車を一時的にクーベルと協力して押し出した。
「よろしくおねがいしますね、クーベルさん」
「へへっ、俺の最初の客だ歓迎するぜ」
エナが馬車の荷台に乗り込みそれをニヤついたクーベルが見守る。
気持ち悪い。
「クーベル悪い奴やめた?」
「あ゛っ? 俺は最初からいいヤツよ!」
「シャロン、コイツが悪さしたら噛み殺すんだぞ」
「うん!」
続けて俺とシャロンも続く荷台に上がるのは初めてだった。
「……ったく、じゃあ行くぜ!」
パシッ! カッ、カッポ、カッポ、カッポ、カッポ…………
俺達は馬車に揺られ王都へ向かう旅路に入る。
【ミッション「王都クロイセンに向かえ」を開始しますか?】
条件、で北西にある王都クロイセンの市街に入る。制限時間1ヶ月。
注釈、パーティ全員。(シャロン、エナ、クーベル)
報酬スキル、《無呼吸法》
【はい/いいえ/詳細】
馬車に揺られているとミッションが表示される……おい何だこれ。
どうしてパーティにクーベルが入ってるんだよ。
こんなに達成したくないミッションは初めてだ。
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