十三話 01 追手の影
セラスール市の西側にある山中。
夕焼けに照らされてそこにはハイルム男爵、ミーラ夫人、リベット、執事のベイクマンの遺体が転がっていた。
「一足遅かったか。これは酷い……」
男の手がリベットの見開いた目を覆い離す。
しかし死後硬直の為か目は見開いたままだ。
「そっちはどうだザイーロフ」
「駄目だ3人とも疫病で死んでいる。間違いなく呪いだなサイクス」
2人は銀のベースに金の装飾が派手に散りばめられた豪華な鎧を着用している。
サイクスと呼ばれた男は20歳過ぎほどの刈り上げされた黄色い髪を七三で分けた、美形の青年。
ザイーロフと呼ばれた男は30歳手間ほどで灰色の短髪で無骨な表情をしていた。
「やれやれ、簡単に終わる仕事だと思ったけどな」
「どうするサイクス? 追うか?」
「当然だ、仕事だからね」
サイクスの目がキラリと輝く。
サイクスの持つスキル《邪追の聖眼》が遠く離れたテルトの姿を映し出していた。
◇◇◇
セラスールを出立して2日後の午前。
俺ことテルト・リバースとエナとシャロンは王都へ向かって馬車を走らせていた。
カッポ、カッポ、カッポ、カッポ…………
「テルトー……」
「なーにー」
「飽きたー!」
ハシッ!
突然シャロンは手綱を俺に手放した。
「えっ?」
さっきから退屈そうな顔をしてはいたけどいきなり離すとは!
俺は慌てて手綱を握る。
シャロンは器用に後ろの荷台に移動してエナに抱き付いた。
羨ましい、じゃなくて何やってんの!
「ちょっとシャロン! 戻って! 手綱握って!」
「シャロンも疲れたみたいだし、テルトが代わってあげて」
いやシャロンは疲れたんじゃない飽きたんだ。
飽きたって自分で言ってたもん!
「違うんだ! 俺、馬車を運転出来ないんだ!」
「そんなまさか、ただ手綱を握って曲がる時に引くだけでしょ?」
エナは俺が冗談を言っていると思っているようだけど、本当に駄目なんだ!
俺の持つスキル《馬耳東風》のせいで馬は俺の言う事を一切聞かない!
「本当なんだって! シャロン早く!」
「ミュニャ」
俺が後ろの荷台を見るとシャロンは猫モードになってエナの膝に座って寛いでいた。
羨ましい、じゃなくて、こらぁああ!
キィーリリンリンッ! ガッポ、ガッポ、ガッポ、ガッポ……!
馬がいななき急に歩く速度を上げる。
「ちょ、ちょっとテルト!」
「止まれ! 止まるんだ!」
俺が両方の手綱を引いて止まれと合図しても当然馬は言う事を聞かない。
「本当に駄目だったんですか!」
「さっきからそう言ってるってー!」
ガッポラ、ガッポラ、ガッポラ、ガッポラ…………‼
ガランガランガランガラン…………
こうなったら馬がが疲れるまで制御不能だ!
馬は分かれ道をデタラメに進む。
いったいどこに向かうのやら……念仏でも唱えようかな。
◇◇◇
小川が流れるどこかの脇道で俺たちは昼の休息していた。
疲れた馬に水と草をやりながら俺はよく分かりもしない地図を見ていた。
隣にエナがやってきて断りもなく座る。
まあ別に断らないけど。
「どこか分かりました?」
「いやーさっぱり。……それよりエナ、信頼できる身寄りはいないの?」
「はい、いません。母も家族をなくしていましたし」
「そっか」
エナを連れ出したのは良いけどこの先どうしようか。
「テルトはこれからどうするんです?」
「俺は王都に言って冒険者になる方法を探す、かな?」
「テルトは冒険者になりたいの?」
「いやダンジョンに行きたいんだ」
「どうしてわざわざダンジョンなんて危ない所に?」
「むむ……!」
興味津々のエナの質問攻勢に改めて考えてみると、別に俺がダンジョンに行きたい訳じゃない。
最初のミッション『異世界に転生しダンジョンを攻略せよ』を引き受けたからだ。
もしかしてやらなくても良いのかもしれない。けど一度引き受けた事だしな。
「約束したからかな。それにちょっと楽しそうだし」
「……よくわかんないです」
「だよねー」
俺の世界では冒険者は楽しいゲームの職業だろうけど、この世界の現実では失敗したら死んでしまう危険な仕事なんだろう。
そりゃ楽しそうなんて思わないよね。
なりたがる奴は頭が悪いか、それくらいしか就ける仕事が無い人間だったりするのかもしれない。
「……あの」
「なに?」
「私もテルトと一緒にダンジョンに行っても良いですか?」
「えっ?」
「少しなら魔法も使えますし、役に立てると思うんです!」
エナから提案に俺は困惑する。
俺にとってエナは特別だ。
そりゃエナとダンジョンに行って一緒の時間を過ごせたら嬉しいよ。
でも大怪我したり万一失う事を考えればそれは秤にかけるまでもない。
「駄目だよ、少し魔法が使えるくらいじゃ危なすぎる。連れて行けない」
「わかりました!」
「そう、良かった」
エナは凄い勢いで即答してくれた、……素直で良い子だね!
「私もっと強くなりますね!」
「そうそう……って、そういう事じゃ無いから!」
はいはいお約束お約束!
エナの答えは大体分かってたけど。
「テルト!」
「ん?」
エナとの会話を遮って人モードのシャロンが俺を呼ぶ。
何やら険しい顔で耳をピクピクしてる。
ガサガサッ…………
会話を中断した間の微かな静寂、森の茂みから草をかき分ける物音が聞こえる。
俺は無音で立ち上って馬車から剣を取り出し腰に挿す。
この剣はセラスールを出発する前にエナから貰った物だ。
暗殺者に備えて武器くらい持って無いと不利だからな。
ガサガサッ……ガサガサッ……
足音が大きくなる。
2人、いや3人か?
こんな人気の無い街道で茂みを歩くなんてまともな人間じゃ無い。
ハイルム男爵の雇った暗殺者かあるいは山賊か何かか、そんなところだろう。
馬は馬車から外してあるから今から逃げるのは間に合わない。
遅れてエナも馬車から杖と護身用の短刀を装備する。
ガサガサッ…………ガサッ!
「!?」
草むらが少し静かになってしばらくすると予想通りの小汚い顔をしたおっさんが顔を出す。
俺達が待ち構えていたので驚いたした顔をした。
「おい、どうした?」
「……いや、バレてたらしい、ガキだ」
草陰から別の男の小声が聞こえる。
ガサガサッ……
顔を出していたおっさんは俺達の警戒しながら草むらから出てきた。
何日も洗ってなさそうなヨレヨレの服に腰には剣とナイフを携えている。
とても善良な旅人や木こりには見えない。
ガサガサッ…………
「なんだ、本当にガキだけじゃねぇか」
草むらからいかにもガラの悪い男が3人出てきた。
最初の1人と同じ様に野盗にしか見えない身なりで、後に出てきた2人は既に抜刀していた。
「近寄るな」
「何?」
「おっさん達、もし山賊じゃないなら引き返してくれ。もし山賊なら攻撃する」
俺は3人の男達に警告する。
「はぁ?」
「ふっ、バカかコイツ」
そう鼻で笑いながら男がこちらに1歩踏み出す。
そうだねバカかも知れない。
この世界ではもう見ただけで悪党だって分かる連中には無警告で攻撃するのが正しいのかも。
でも俺は日本って平和ボケした一応自称文明国の出身なんでね。
「エナ!」
「《空絶の氷槍》‼」
(《跳鼬の飛脚》! 《呀甲拳》!)
バシュン‼ タンッ! ドバシャン‼ メキッ‼ バキッ‼
エナは準備していた《空絶の氷槍》を山賊の1人に放つ。ワンナウト。
俺がスキル付きの拳を2人目の山賊の腹と顔面にブチ込む。ツーアウト。
「なっ⁉」
タンッ! ドフッ!
最後に俺が動揺した3人目もぶん殴ってスリーアウト。試合終了。
戦い自体は10秒くらいで終わった。
俺達は積荷から頑丈なロープを取り出し3人を縛り上げる。
「どうしよっか」
「くそっ! ガキが!」
縛るのには少し手間取った。
いや人を縛るのって結構難しいんだね。
「俺達ガレオロス盗賊団に手を出してタダで済むと思うな!」
「何だって!?」
「テルト知ってるの?」
こんな所でまたガレオロス盗賊団の名前を聞く事になるなんてな。
「くくっ! 俺達の事を知っていたか。なら後悔しな、お前らの事はアジトに報告してある。もう時期増援が来るぜ」
先に手を出してきたのはお前らだろ。
「うん、以前俺とシャロンが追っていた盗賊団なんだ。ほら話したでしょ?」
「はっ?」
「あー‼ テルトがベイガスっていう盗賊を倒した話しですね!」
「えっ? ベイガスってもしかしてあの剛拳のベイガス?」
「……さて、そのアジトの場所どこか教えて貰おっかな」
「ヘっ?」
パキッパキッ…………
増援が来るのを待つのも面倒くさい。と言うかハッタリ臭い。
俺は素っ頓狂な顔をしてる盗賊の前に指を鳴らして近付く。
3人はアジトの場所を腫れた顔に涙を浮かべながら教えてくれた。




