九話 02 ハイルム男爵家
俺とシャロンはセラスール市内の広場に到着した。
早速エナの呪いについて聞き込みを開始だ。
話を聞く時に怪しまれる事は無かった。シャロンを連れてる事がエナの知り合いである証明書だ。
「エナに呪いをかけた犯人? 知るか! こっちが呪われないかヒヤヒヤしてんだよ!」
「呪いの心当たりねぇ。ロベルム卿は人格者だったから人から恨みを買うなんて考えられないわ」
「さぁのぅ。呪いなんて恐ろしい事に手をかける者はこの町におらんと思うがのぅ」
「俺も誰だろうって考えてた事はあるけど心当たりはねぇなぁ」
何人かには門前払いされたけど答えてくれた人の話を聞く限りエナの父親の評判は良くて、呪いをかけられる心当たりは無いみたい。
得られた情報はそれだけ。
当たり前だ簡単に分かる事ならもっと早くに解決している。長期戦は覚悟の上だ。
「それなら北口にある食料店のマリエールさんに聞いたらどう? 元男爵家のメイドだから詳しいはずよ」
聞き込みを続けると思わぬ所でマリエールの名前が出る。
エナの家のメイドだったのか、だからお嬢様呼びだったんだね。
◇◇◇
早速俺はマリエールの働く食料店にやって来た。
「そう、それで私の所に」
「はい何でも良いので、心当たりありませんか?」
マリエールさんは渋い顔でどうしようか迷ってる様だ。
もしかして心当たりがあるんじゃ?
「テルトくんはエナお嬢様と、どんな関係なのですか?」
これは俺の信頼度チェックだろうか?
どうしよう正直にエナに受けた恩を返すためと言えば、どんな恩だったか言わないといけなくなる。
エナとの事は秘密にしたい。
「旅の途中でシャロンに色々と助けられて来たから、シャロンの為にもエナの呪いを解けないかなって思って」
「シャロン、テルトに沢山お世話した!」
シャロンをダシに使った。
勿論シャロンの為にもエナの呪い解いてやりたいってのは嘘じゃないからね。
「そうなんですか、偉いわねシャロンちゃん」
「えっへん!」
マリエールさんが静かに一度頷いて話し始める。
「エナお嬢様に呪いをかけた犯人は、おそらくお嬢様の叔父にあたるハイルム・ウェルカトル男爵です」
「叔父?」
「エナお嬢様のお父上ロベルム様の弟君で、ロベルム様が亡くなってウェルカトル男爵家の当主になった方です」
「本当ですか!」
「それ以外に心当たりは有りません」
エナでは無くエナの父親が標的。エナの父親が死んで一番利益を得た人物か。
思わぬ所からどうみても大本命の容疑者が現れたな。
「その事を皆にしたらどうなんですか?」
「無理です。表面上はハイルム様はエナお嬢様に優しく親切で、お嬢様もすっかり信頼しきっています。今エナお嬢様が無事でいるのもハイルム様の後ろ盾あってのものなので」
「そうなのか……」
マリエールは悔しそうに答えた。
「そもそも証拠も無い事。ハイルム様は町の人にも評判が良く私の言葉など誰も取り合いませんよ。気付いている人もハイルム様の権勢に知らん振りを決め込むでしょうね」
「そんな!」
確かにエナに肩入れしても殆どの人には利益は無い、それよりは取り入った方が得だって考えるのが自然かも。
それでこれまで怪しくても誰も指摘しなかったのか。くそっ!
「なので、もうお嬢様の呪いの事は諦めて下さい。下手に蒸し返せばエナお嬢様の身が危うくなるんです」
「……」
それはそうかも知れない。
でも今のままエナをたった1人で館に閉じ込めてそれで良い訳が無い。
「ありがとうございました、考えてみます」
ひとまず手がかりは得たし後は裏付けだ。
エナに呪いをかけたのが本当にハイルム男爵なのか確認しよう。
普通にマリエールさんの勘違いで別に犯人が居るかもしれないからね。
◇◇◇
俺はシャロンと共に市内のハイルム男爵家の邸宅にやって来た。
それなりの豪華さで伯爵家の邸宅には遠く及ばないけどエナの住んでる別邸より何倍も広く大きかった。
入口まで通されるとそこで50歳くらいの銀色の短い髪を上品に分けられた執事に出迎えられた。
「どの様なご用件で?」
「エナの呪いの事で、聞きたい事があって」
「左様ですか。しかし旦那様はお忙しい方でして、あいにくと留守にしております」
「そうですか」
執事は丁寧に答えてくれた。
そろそろ夕時だけど流石にまだ仕事中だったみたいだ。
「お兄さん、エナお姉ちゃんのお友達?」
後ろから少女の声がしたので振り向くとそこには小柄な少女が黒いウサギの様な動物の人形を持って立っていた。
肩下まで伸びた紫の髪に黒いカチューシャを付け、微かにエナに似た面影があるかなりの美少女だ。
「そうだけど、君は?」
「私はエナお姉ちゃんの従姉妹のリベットよ。シャロン、久しぶりね」
「ミュニャ」
リベットと名乗った少女がシャロンに挨拶をした。
シャロンはいつの間にか猫モードになっていて静かに尻尾を揺らして返事をする。
「でも変ねぇ、お兄さんはエナお姉ちゃんの傍にいて平気だったの?」
「大丈夫、疫病に強い体質なんだ」
「ふぅん、そうなんだぁ……」
リベットの仕草や言葉はどこか媚びたように演技掛かっていて何か嫌な感じがした。
「あら? お客様?」
玄関先で話をしていると、複雑に編み込まれた髪を高そうな髪飾りと共に盛り上げた40歳過ぎ程の気品を感じる女性が階段を降りて来た。
「ミーラ様、エナお嬢様のご友人だそうです」
「エナお姉ちゃんの呪いの件で来たそうよ、お母様」
「そうなの。なら旦那に聞くといいわ、私は詳しく知らないので」
リベットの母親で名前はミーラと言うらしい。
なるほど髪の色や目元の形がよく似ていた。
ミーラはそう言いながらもどこかイライラしたように視線をそらして階段の奥に引き返して行った。
「それで何時なら会えますか?」
「多分、ずっと会えないと思うわよ?」
「えっ?」
「だってお父様、とっても忙しいんですもの」
「そんなに?」
貴族は暇なイメージがあるけど実際はかなり忙しいのかも知れない。
でも……これはそれとは違う気がする。
「うふふ冗談よ」
「後ほど旦那様に確認しておきますので、今日の所はお引取りを」
「……わかりました、失礼します」
「お気をつけて、おかえり下さいませ」
なんだかこの執事は俺を早く追い返そうとしてんじゃないか。
そんな気がした。
「解けるといいわね。エナお姉ちゃんの呪い」
「そうだね」
ギィー…… バタンッ……
扉が閉まる直前に見たリベットの笑顔は不敵で冷たい怖さを含んでいた。
マリエールさんの言う通りビンゴかもしれない。この一家はどこかおかしい。
ハイルム男爵邸が夕焼けを背に不気味な光を放っていた────




