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九話 01 丘の中腹の館

 時刻は正午。

 俺ことテルト・リバースは、シャロンの案内でエナの住む丘の中腹にある豪華な館に到着した。


 何はともかく一度直接エナから詳しい事情を確認しておかないとな。


コンッコンッ…… ガチャ!


「あっ……」

「エナー! 来て来てー!」


 俺がせっかくノックしてるのにシャロンが玄関の扉を開けて中に入って行った。

 そういえばここはシャロンの家でもあるんだから別に良いのか。


トンタン、トンタン、トンタン、トンタン…………


「どうしたのシャロン?」

「テルトが話があるんだって!」


 シャロンの声を聞いてエナが2階から玄関へリズムよく駆け下りて来た。


「こんにちは」

「あっ……」


 俺は出来るだけ自然に挨拶をした。


 エナは俺の顔を見ると少し悲しそうな顔をして、ゆっくりと俺に近寄り3歩ほど手前で止まる。


「あのっ、私の話マリエールから聞きませんでしたが? 《魍魎の疫災(ダイオロス・カタラ)》の呪いの話……」


 エナは少し怯えた様な仕草で目線を反らしながら尋ねてきた。


「聞いたけど大丈夫。俺は疫病にならない体質だから。ほら」

「えっ? ……あっ!」


スッ…… パシッ


 俺はエナに近寄り右手でエナの左腕に触った。

 エナは驚いて1歩下がったけど間に合わなくて掴まれた瞬間少しビクリとした。


 少し強引だけど俺に呪いが効かない事を証明するのが手っ取り早い。


「ほら何ともな──……」


ゾワゾワゾワゾワッ……!


「うわっ!」


 俺は違和感を感じて咄嗟に右手を離す。

 右手を見ると指先から腕の方にかけて赤黒いアザがうねるように蠢いていた。


 なんだこれ? まさか呪いの疫病⁉


(《疫病抗体(えきびょうこうたい)》!)


「テルト!」

「そんな!!」

「だっ、大丈夫! 大丈夫だから!」


 俺は即座にスキルを使った。

 シャロンが驚きエナが顔面蒼白になるけど、俺は2人を落ち着かせる。


 《疫病抗体(えきびょうこうたい)》の効果はすぐに発揮され右腕のアザが徐々に消えていく。

 よかった……スキル効果は確かだ。


「ほら……大丈夫だから」

「テルト凄い!」

「…………」


 予想外だな。


 俺は過去のミッション『存在承認』をクリアする直前にエナにの腕に抱かれ触れられていて、その時《魍魎の疫災(ダイオロス・カタラ)》の抗体を既に得ていると思い込んでいた。


 エナもその事を知ってる筈だけど同じ様に驚いてる。

 もしかしてあの時の少女はやっぱりエナじゃなかったのか?

 いやエナの声を聞き間違う訳ない。呪いが予想以上に強力だったんだ。


「ごめん、こんなに呪いが強力だと思ってなくて。でも大丈夫だったでしょ?」

「……はい」

「それで少し話を聞きたくて」

「わかりました。どうぞ」


 エナは暗い表情のままの笑顔で俺を客間へ案内してくれた。




◇◇◇




 俺とシャロンは客間の中央の椅子に座っていた。


 少しホコリが被った観賞用の調度品等が飾られている。

 エナが1人で済んでいるらしいからこの広い館の掃除が行き届いてないんだろう。


「どうぞ」

「ありがとう」


 エナがハーブティと木の実のクッキーを持ってきてくれた。


 坂道を歩いてきたため喉が乾いていたので早速飲んだ。

 味は……あまり感じない。香りを楽しむものなんだろう。

 炭酸飲料が少し恋しい。


「エナはこの家に1人で住んでるの?」

「ええ、シャロンも一緒だけど」


 エナはさっきよりは表情がほぐれてるけど、いきなり立ち入った事を聞くのは良くないよな。

 少し他愛の無い話でもして打ち解けてから切り出そっか。エナの事をもう少し知りたいし。


「エナって貴族だったりする? マリエールさんがお嬢様って言ってたけど」

「はい。叔父様がこのセラスールを治めています、爵位は男爵ですけど」

「へー凄いんだ」

「そこまでじゃないです、貴族の中では一番位が低いですから」

「ふーん」


 爵位についても何も知らないんだよな。

 それに例によって俺の世界での地位に翻訳されてるだけで実際の身分とは違うかも知れない。


「確かにハーツゲッヘ伯爵の家と比べると小さいけど。それでも凄い家だね」

「ハーツゲッヘ伯爵? アルセフォンの?」


 適当に話題を続けようと伯爵の名前を出すとエナは驚いた。


 男爵と伯爵の身分の違いもよく分かってなかったけど、この反応だと伯爵はかなり高い地位なのかな?


「テルトね、伯爵から勲章貰ったの!」

「勲章を? 凄い! でもどうして?」

「盗賊団をやっつけたのー!」


 エナは演技じゃなく本当に驚いたって顔をした。


「あれ? シャロンから聞いてなかった?」

「今、聞きました」

「今言ったー!」


 俺の行動はシャロンを通じて知っているのかと思っていたんだけど、そういえばコントロ村を出ちゃった後だから戻って話もできなかったか。


「シャロンも大活躍したの! ね、テルト!」

「うん。シャロンにはかなり助けられた、ありがとう」

「その話詳しく聞きたい!」

「そっ、そう?」


 エナに目を輝かせながら懇願されたので簡単にガレオロス盗賊団の一件を話す事にした。


 自慢話は苦手なので少し控え目に話したけどエナは楽しそうに聞いてくれた。


「凄い騎士まで倒してしまうなんて!」

「いや判定勝ちだよ。伯爵様が止めてくれたから、子供相手だから手加減もしてただろうし」

「それでも凄いわ、いいなぁ私も見たかった」

「テルト凄かった!」

「ありがとうシャロン」


 エナはさっきまでの表情と打って変わって自然な笑顔になった。


 話もすっかり盛り上がって結構打ち解けて来た気がするしそろそろ良いかな?

 あまり無駄話しすぎても切り出しにくくなるし。


「それで、話は変わるけどエナ。呪いの事を少し聞かせて欲しいんだ」

「呪いの事ですか……、でもマリエールから聞いたんですよね? それ以上の事は」


 少し表情は陰ったけど先程よりは大分まし。

 何とか話を聞けそうな雰囲気だ。


「いや、あまり詳しく聞いて無くて。呪いは生まれつきじゃ無いよね?」

「はい私が7歳の時から」

「それって誰かに呪われたって事じゃないの?」

「そうだと思います。他にも原因があるかもしれないですけど」

「誰に呪われたか特定できない?」

「無理だと思います。呪術は術者を特定する事が困難で誰でも扱えます。そのため弱者の魔法と呼ばれているくらいです」


 まあ特定できたら簡単なら話はもう終わってるか。

 しかし呪いは誰でも使える弱者の魔法か、厄介だな。


「そんな強力な呪いを誰でも使えるの? 無茶苦茶な事にならないかな」

「ううん。私にかけられた呪いは特別強力で、普通はそんなに強い力はないです」

「そうなんだ」

「それに法律で禁止されてるし、もしバレたら世間的にも嫌われちゃいます」

「へぇ」


 世間的に村八分にされるって事かな?


「それで、呪いをかけた人の心あたりは?」

「……わかりません。お父様も男爵なので何処の誰に恨みを買っていても不思議じゃないので」

「呪いを解く方法って無いの?」

「私の呪いは特殊らしいんです、王都の聖司祭様でもできるかどうか……」

「そっか、難しいんだね」


 核心となる質問をしても答えは予想通り。

 簡単に手がかりは得られないよね。


「ありがとうエナ、なんかズケズケ聞いちゃってごめん」

「ううん、いいんです。気にならない方が変ですから」


 俺の質問攻めにエナは言いよどむ事もなく答えてくれた。

 お陰で必要な情報は大体得られた。もう十分。


「それで、これから町を見て回りたいんだけどシャロンを借りていいかな?」

「行くー!」

「はい。シャロン迷惑かけないようにね」

「うん!」

「あと、こんな事を頼むのもなんだけど。これから数日くらいこの家に泊めてくれないかな?」


 俺は駄目元で無茶なお願いをしてみた。

 宿泊費を節約したかったし。まあ断られるだろうけど。


「本当ですか? もちろんです!」

「えっ? いいの?」


 エナは嬉しそうに手を叩いた。

 予想外のエナの嬉しそうな反応にビックリ。


「はい、どうせ広い家に私1人で部屋は余ってますから」

「良かった、宿代が浮いて助かるよ」


 男と女が1つ屋根の下とか気にしないんだ。

 呪いのせいで今まで近くに男が居なかったからかな。


「じゃあ行ってくる、行こうシャロン」

「うん!」

「行ってらっしゃい」


 行き来するための山の登り降りに気が滅入ったけどエナの呪いを解くため情報集めに町に繰り出した。


 気分はすっかり探偵モードだ────

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