七話 03 アレクレス戦
ホールの片隅でこの場に似つかわしくない2人その男が様子を眺めていた。
「オメロス先生いいんですか止めなくて?」
「冒険者の俺が出ていってもなぁ、めんどくせぇし」
オメロスと呼ばれた男は40歳前後で黒茶髪のゴツい大男。
もう1人の生徒は20歳程の特徴の無い黒髪の優男だ。
「でも殺されちゃいませんかね、あの少年?」
「いや案外いい勝負するんかもしれねぇな」
「ええっ? でもレベル差が21もありますよ?」
「レベルやスキルだけしか見れないってのは、悲劇だねぇ」
「はぁ」
ホメロスも確信はなかったが先程少年がやっていた準備運動は冒険者が良くやる動きに似ていた。
「ダンジョンではレベル21差なんてよくある」
「そりゃそうですけど」
それを覆す術を高ランクの冒険者なら知っている。
◇◇◇
俺とアレクレスを観衆が少し離れ囲む様に見守っていた。
俺は準備運動を終えてアレクレスに向き直る。
「お前もすぐに、あの盗賊のようにぶっ殺してやる」
「……えっ? 殺した? 捕らえたんじゃなくて? 盗賊団の仲間の居場所は聞き出したんだよな?」
「うっ、うるさい! 黙れ!」
「勝負の前です、静かに」
俺の疑問は進行役の男に会話を遮られた。
いや流石に情報を聞き出してから殺したんだろう。
問い質した時のアレクレス反応が気になるけど今は勝負に集中だ。
腐ってもクズでも騎士だ、アレクレスは強い。
【ミッション「アレクレスに決闘で勝利しろ」を開始しますか?】
条件、アレクレスとの決闘に勝利し、自らの名誉と真実を守れ。制限時間半日。
注釈、周囲の過半数以上が勝利と認識した場合。
報酬スキル、《レベル補正貫通》
【はい/いいえ/詳細】
ミッション発生。
反射的に『はい』を押しそうになるのを俺のは止めた。
《レベル補正貫通》は名前通りの能力なら神スキルだ、かなり欲しい。
でも『勝利し自らの名誉を守る』だって?
……俺はもう、周りの評価に流されないと誓った。
他人の評価や自分の名誉なんてどうでもいい。
もし仮にこのミッションが俺の心が生み出してる説が正しいなら。
俺はこのミッションを受ける訳にはいかない。捻くれてんだよ俺は!
俺は押す事なんて絶対に無いと思っていた『いいえ』を初めて選択した。
【ミッション「アレクレスに決闘で勝利しろ2」を開始しますか?】
条件、アレクレスとの決闘に勝利し、真実とそれを知りながら公明正大な評価を下した伯爵の名誉と守れ。制限時間半日。
注釈、周囲の過半数以上が勝利と認識した場合。
報酬スキル、《レベル補正貫通》
【はい/いいえ/詳細】
また同じミッション……?
いや条件が変わっている……フザケているのか?
確かに伯爵の行動は嬉しかったし感謝したい。
伯爵の名誉を守ってあげたいと思う。
だけど、こう変更すれば俺が『はい』を押すとでも思ったか?
一度捻くれた俺の決断は変わらない!
それにこれは私闘だ俺がやりたいからやる!
ミッションでやる事じゃない!
俺は半ば意地になって再び『いいえ』を力強く押した。
「始め!」
進行役の男が開始の合図をする!
(《衝撃耐性》、《跳鼬の飛脚》!)
俺は素早く心の中でスキルを唱え戦闘体勢に入る。
「後悔させてやるよ」
ポオォォォーー……
それはアレクレスも同じで鎧や服が薄っすら光る。
多分強化とか付与スキルだ。
「おっおい、やりすぎだろ。木剣とは言え強化すれば真剣と変わらなくなるぞ!」
さらに木剣も光り、それを見て観衆の1人が小声でささやく。
アレクレスは本当に俺を殺しに来るかも知れない。
アレクレスは無造作に無防備に俺の方へ歩いてくる。
よほど防御に自信があるのか。
それとも俺の木剣の構えを見て剣術を使えない事を見抜いたのか。
「ふふっ」
ジリッ……
笑いながら近付くアレクレスに俺はいつでも手を床に付けるように屈む。
「どうした? 今更手を付いて命乞いか?」
もう挑発に乗る余裕は無かった。
カーミラさんとナイフの対策はしてきたけど剣対策はやってない。
素手で剣相手に互角に戦うには数倍の実力差がいる。
それにアレクレスは多分俺の年齢より若い頃から剣の練習をしてきたはずだ。
加えて21ものレベル差。全て合わせるとどれくらいの劣勢なんだろ?
「いいから来いよ」
リーチ差から先制攻撃は不利だ、かわしてからのカウンターの方が望みがある。
一撃を食らったら負け。初撃の回避が絶対。
「ふんっ、面白い測ってやる」
キュッ
「はっ」
「!」
アレクレスは思ったより慎重に……あるいは遊んでいるのか。
様子見で軽く右上から斬り掛かる。
カンッ! タンッ!
緩い攻撃なので俺でも剣で防ぐ事は出来たけど、アレクレスにとっての軽い剣撃も俺には重い。
弾いた後に1歩下がる。すぐさまアレクレスの追撃。
俺は追い付くのがやっと。
カンッ! ドフッ!
「がはっ!」
「おおっ……」
何度目かの攻撃を受けきれず、ついにアレクレスの木剣が俺の脇腹にめり込む。
周囲から歓声に近い声が上がった。
俺とは違って優雅な剣サバキだ。
「口ほどにもない、ろくに剣も使えないじゃないか」
「……なんだ、この程度か」
「なに?」
「この程度なら何度食らっても平気だね」
「なんだと?」
木剣だったから俺の《衝撃耐性》が有効ではあったけど、何度も食らったら流石にまずい。
「チッ、何か防御スキルを持っていたか」
だけどアレクレスも不可解に思ってるはず。
普通なら今の剣撃を食らったら悶絶し立っていられない。
「本気で来いって、殺す気あんの?」
「このクソガキが!」
長期戦は俺が不利だ。本気で来てくれないと活路が無い。
追撃の煽りを食らわせておく。
挑発に乗ったアレクレスが右上段に大きく構える。
来た! 想定していたシュチュエーション!
俺は再びやや高目に屈む。
アレクレスの素早い一閃が俺の脳天を狙い斜めに振り下ろす。
(《砂塵の掴手》!)
「《絶閃迅》!!」
ビュン! スツッ!
「なにっ!」
俺は屈み込み剣撃をかわすとアレクレスは驚愕の表情を浮かべた。
驚いただろう、俺の屈み込む速さは尋常じゃない。
物理的にありえない速度だ。
《砂塵の掴手》は足裏にも使える。
正確に言うとつい最近使える様になった。
理由は分からない。
更に《跳鼬の飛脚》の脚力強化スキルのあわせ技。
ネタが分かれば簡単だ。
タンッ! ベキッ!
木剣を振り切ったアレクレスの顔面に俺は全力で頭突きをした!
「がはっ!」
アレクレスはよろめき剣を持つ右腕の甲で鼻を押さえた。
死角が生まれ、俺は鎧の腹に手の平で触れる。
「《雷震の把手》!」
バチッ!
「……ッ!」
俺は雷撃を放つ。
威力は殆どないし怯ませるにも不十分だ。
でも別の狙いがあった。
レベル差が10もあると《レベル補正》で攻撃が通らなくなる。
でも俺の様な《魔闘士》にはそれを突破する術がある。
《ガードブレイク》
直接手で触れて魔撃を叩き込む事で一時的に《付与状態》を破壊できる。
《雷震の把手》は欠陥スキルだと思っていたけど《ガードブレイク》性能は《劈く雷迅》より遥かに高い。
「《跳鼬の飛脚》! 蹴り!」
タンッ! ドフッ!!
スキルで脚力を強化した蹴りを《ガードブレイク》済みのアレクレスの腹に食らわせる。
「ぐへぁ!!」
ドシャン! ……ズサァーーッ!
アレクレスは後ろに蹴飛ばされ床を転げ滑る!
「かはっ……げほっ!」
ドヨッ……ドヨヨッ……
誰もが予想してない展開にホール中が大きくどよめく。
よし! アレクレスの油断もあり上手く行った!
後はアレクレスが持ち直して本気になる前に追撃して一気に勝負を決める!
トンッ!
「……それまで! 勝者テルト・リバース!!」
進行役の男が戦いの終わりを告げ。
俺はやむ無くブレーキを引いた────
…………ピタッ!
「……はっ⁉」
俺の最後の蹴りはアレクレスの顔に当たる直前で止まる。
アレクレスの顔は恐怖に引き痙っていた。
どうやらサイドブレーキはまだ残っていた様だ。
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