七話 02 受勲パーティ
俺様ことアレクレス様はホールの中央で伯爵が来るのを待ち構えてやっていた。
ハーツゲッヘ伯爵の領地はアルセフォン、オロフォン、ベルゼタフォンの三都市を抱えその地位は小国の王ほどもある。
だがそんな伯爵も俺様にとっては騎士団長になる為の踏み台に過ぎない。
カッ、カッ、カッ、カッ…………
小気味良いリズムで伯爵はこっちに向かって来る。
いよいよだ。
単なる王都への凱旋の途中でビシターの用事とやらのついでに立ち寄っただけのこの地で思わぬ幸運が飛び込んできた。
手柄の方からやってくる。やはり俺は世界の中心だ。全てはこのアレクレス様の為に回っている。
カッ、カッ、カッ、カッ…………
あと4歩ほどだ。
俺様を引き立てるだけのクソジジイよ。
早くその勲章を寄越すがいい。賞賛の言葉と共にな!
スッ……
さあ、伯爵よそのまま真っ直ぐこのアレクレス様の方に…………来ない⁉
カッ、カッ、カッ、カッ……
なっ! 俺様の左横を通り過ぎた…………だと!?
ザワザワッ……
何故通り過ぎる⁉ 何故このアレクレス様の目の前で止まらない‼
伯爵っ‼
カッ、カッ、カッ、カッ……
周りの観衆の顔も俺様同様に驚いた顔をしているではないか!
待て! 止まれ! 何処に行くのだ‼
◇◇◇
俺はアレクレスへの勲章の授与が早く終わらないかと待っていると、何やら周囲がざわめき始める。
終わったのか? いやそんな感じの空気じゃない。どうしたんだろう?
カッ、カッ、カッ、カッ……
後ろから聞こえる伯爵の足音が止まらずにどんどん大きくなる。
おかしい、アレクレスのいる位置を通り過ぎてないか?
周りの人の視線の向きも変だ。
カッ、カッ、カッ、カッ!
やがて周りの人の視線も足音も俺のすぐ後ろで止まる。
いや、一部の人は俺を見ている……。
「ちょんちょん……」
俺の背中を誰かの指が……、きっと伯爵の指がつついた。
えーー……振り向くのが怖いんですけど、振り向かなきゃダメ?
俺何かやっちゃったかな?
「おっほん」
恐る恐る振り返とそこには予想通り伯爵がにこにこしながら立っていた。
ニコニコしてる? なら怒られる事は無い……よね?
「テルトくん、ガレオロス盗賊団を退治し我が宝《天羅の星華》を守った事を讃え、勲章を授ける」
「ええっ!」
ザワザワザワザワザワザワッ…………!!
なんでその事を知ってんの⁉
俺がガレオロス盗賊団と戦ってた所は誰にも見られていないはずだ!
盗賊の2人と俺とシャロン以外には!
「なっ、何でその事を!?」
「ワシじゃよ、わ、し」
ハーツゲッヘ伯爵の声が突然変化した。
声色を変えてるってレベルじゃない別人の声だ!
「その声……っ! あの時の物乞いの爺さん!!」
「うむ。じゃがその事は内緒にしてくれ。誰にも内緒でやってる事じゃ」
「はっ……はぁ」
伯爵が小声で囁くと俺の驚いた顔を見て満足そうに笑い、俺の胸に勲章を付けようと掲げる。
信じられない。
昨日道に迷って偶然出会った物乞いの爺さんがまさか伯爵だったなんて!
「待て! 何かの間違いだ! 盗賊団を倒したのはこの俺だ!」
ドヨドヨドヨドヨ…………!!
突然大声でアレクレスの物言いが入り周囲は再びどよめき立つ。
伯爵の後ろに怒りに震えた顔のアレクレスが立っていた。
厳しい表情で伯爵がアレクレスの方を振り返る。
「それは、私が嘘を付いてると言うのかね? アレクレスくん」
「いっ、いえそうではありません! しかし伯爵は見たのですか!? その少年が盗賊を倒す所を!」
「むっ、それはっ……」
ザワザワザワッ!
アレクレスは遥かに位の高い伯爵の言葉に一瞬怯んだけど、アレクレスの反論に伯爵もたじろぐ。
そりゃそうだろう。伯爵は俺の大活躍を直接は見ていないはずだ。
「どういう事ですの? 伯爵が嘘を?」
「いや伯爵が嘘を付くものか、あのアレクレスが騙ってるのだ!」
周囲が好奇心や憶測で色めき立つ。
面倒な事になったな。
俺は別に手柄なんか欲しくないのに。
むしろ、こうならない為に隠れてやったのに。
「伯爵はそこの少年に騙されています! 盗賊を倒したのは私で間違いない!」
「むむう……」
「私が倒した盗賊のレベルは26でした、しかしその少年のレベルは17。どうやって倒すのです?」
「何だって、どれどれ……確かにあの少年のレベルは17だな」
レベルを見る事ができるらしい貴族が俺を見て確認する。
レベルが1上がっている! って、今はどうでも良いか。
「ビシター! 賊のレベルは26で間違いないな!」
「はい、騎士の名誉にかけて」
「対して私はレベル38だ! 賊を倒せるのは私だけです!!」
「確かに……」
「そうだよな、あんな少年にできるわけが無い」
「むう……」
アレクレスの言葉に伯爵は反論が出来ない。
無理もない、伯爵も俺が盗賊を倒せたのが不思議な筈だ。
「分かって頂けましたか。もっともその少年がそれでも盗賊を倒したのが自分だと言い張るなら……」
潮目が変わったのを見てアレクレスは勝ち誇った顔をする。
「私と戦って貰いましょうか? 盗賊と戦えるだけの力があると言うならね」
「分かりました」
「そう、分かればいい。これで分かったでしょう……」
「戦います、勝てば良いんですよね?」
「……何だと?」
……そこまで言われるとさぁ。
捻くれてる俺は逆に引けなくなるんだよ。
ザワッ!!!!
「テルトが、怒った!」
それと最初からムカついてたんだアレクレスにはさ。
「貴様……本気か?」
「最初に言っておくけど本気で来いよ。後で油断したから負けたとか言われたくないから」
俺はアレクレスを睨みつけて煽る。
勝てるのかとか後でどうなるかとか考えない。
もう自分の心を止められなくなっていた。いや止めたくない。
俺はこういった状況で進む為に、前の世界にブレーキは捨てて来たんだ。
「馬鹿か貴様? 俺に勝てると思っているのか?」
「……アンタこそ、だったらベイガスを倒したのが誰だと思ってるんだ?」
「なに?」
アレクレスはあの場の戦いの痕跡に気付かなかったのか?
「本当に分かってないのか? そんな節穴なお前に負けるかよ」
「……ぶっ殺す! 木剣をもってこい!!」
こうして、俺とアレクレスの決闘が始まった────
ホールには戦うのに十分な広さのダンススペースがあり、俺達を囲うように人の環が作られ、俺にも木剣が手渡される。
「大丈夫なの?」
「いやぁ、流石に騎士様が子供相手に無茶はしないだろう」
「騎士に勝てるわけないよなぁ」
当然の前評判だ、俺が勝つと思う人は誰も居ないだろう。
「ううむ……」
伯爵は俺を心配して決闘を止めたそうな顔をしていたけどできなかった。
俺とアレクレスのやる気と周囲の好奇の圧に勝てなかった様だ。
観衆も食事前の軽い余興で勝負はすぐ終わると思っている。




