七話 01 クジ引き伯爵
ガレオロス盗賊団のベイガスと戦った翌日。
俺ことテルト・リバースはシャロンと一緒に昼前にハーツゲッヘ伯爵邸前の広場にやって来ていた。
広場は一昨日に下見に来た時と同じ賑わいを見せている。
あの後ガレオロス盗賊団のベイガスとクーベルがどうなったか気になって様子を見に来ていた。
【ミッション「《天羅の星華》を守れ」達成】
【スキル「《雷震の把手》」を取得しました】
【閉じる】
ミッションはちゃんとクリアされてはいる。
『注釈2、他人の手に委ねた場合無効。(兵士、自警団、冒険者など)』盗賊団はアレクレスが捕まえたのだから駄目かと思ってたけど、俺が守った判定になっていたようで良かった。
報酬スキルの《雷震の把手》は微妙スキルだから、最悪無くても良いかと思ってたけどね。
「様子を見に来るまでも無かったなぁ」
「テルトーお腹空いた! またお《饅頭》食べよう!」
「そうだな折角だし」
よくよく考えれば昨日の今日で何か変わる事もないよな。
盗賊団を捕らえましたって張り紙でも出るのかと思ったけど。
「おい、始まったぞ!」
「あらぁ、今日はアタリを引けるかしら」
突然広場がざわめき出した。なんだろう?
皆が見つめる先で上等な服を来た紳士と兵士が何組か伯爵邸の門から出てきた。
「あの、何かあったんですか?」
「ああ、観光客さんか? 多分何かあったんだよ」
「アルセフォン名物のクジ引き男爵。何か良い事があると、ああやって市民にクジ引きをさせるの」
近くに居た男の人に訪ねると隣の女性も一緒に答えてくれた。
もう一度紳士を見ると確かに手に持ったクジと思しき棒の束を広場の民衆に引かせて回っていた。
「やった! 当たった!」
「おめでとうございます、さあ門の前でお待ち下さい」
時折クジに当たった人が喜びの声を上げて門の前に集まって行く。
「クジに当たった人は伯爵家のパーティにお呼ばれして、豪華な食事をご馳走になれるんだ」
「へーっ」
そりゃ面白いね。
「さあ、お嬢さんもどうぞ」
「あっ、はい!」
気が付くと俺のすぐ側にも紳士が来ていて隣のお姉さんにクジを薦めていた。
「あらー残念ハズレね」
「また次の機会に」
お姉さんはハズレたのにそれほど残念そうな顔はしていない。
隣の男の人と楽しそうに笑っていた。
まあ最初から当たるなんて思ってなかったんだろう。
「……お兄さんお次をどうぞ」
「えっ俺? えっと俺は観光客なので……」
紳士は俺にもクジの束を差し出してきた。
けど俺はいいかな。当たっても食事の作法とかで恥かきそうだし。
「構いませんとも、2人連れの方はみな対象でございます」
「あー、ならシャロンは人間じゃないので」
「《シャルク》ですね、構いませんよペットも家族という事で」
「……そうですか、じゃあ」
「ワクワク!」
ここまで丁寧にされると断るのも悪いな。
どうせ当たらないだろうけど。
シャロンが期待に目を輝かせて見つめる中、俺はクジを引いた。
「おめでとうございます、門の前でお待ち下さい」
……当たってしまった。
紳士は手で門の方を示すとまた別の人にクジを引かせに立ち去って行った。
「おめでとう!」
「良かったわね」
見ていた2人も祝福してくれた。
食事代が浮くし豪華な食事が食べられるのは嬉しいし。
よく考えりゃ作法なんて隣の人を見ながら真似すりゃ良いじゃん!
「はい、ありがとうございます」
「やったねテルト!」
俺とシャロンは伯爵邸の正門の前にウキウキで向かうと、同じく当たり棒を持った人が集まり喜びを分かち合っていた。
「本当に俺らもいいのかな?」
「ラッキーじゃん! うまいもん食えるよ!」
「子供だから3人でいいなんて太っ腹だね」
その中に一際目立つボロボロの服の3人の子供が居た。
どっかで見たような気がするなぁ。
しばらくすると門の前の中央にクジを配っていた紳士と兵士が集まりだす。
その様子を見て集まった人も適度に列を整え話し声も収まっていく。
「では当たりクジを持ってどうぞ。お連れの方は1人まで。お子様は2人まででございます」
そう促され伯爵邸に50人程の当たりクジ当選者と一緒に入っていった。
「楽しみだねテルト」
「そうだねシャロン」
入る時に身体検査をされたけど武器なんて持っていないから楽にパスできた。
◇◇◇
伯爵邸も中は本当にイメージ通りの豪華さだった。
広いホールに集められた50人の庶民の他に70人程の貴族らしき人々が既に寛いでいた。
席は分けられていて庶民エリアは入口近くだ。
一応その気になれば貴族エリアにも入れそうだけど、屈強そうな兵士が『調子に乗ってこっちに入るなよ庶民ども!』と言いたげに目を光らせている。
そんな勇気は誰も無いだろう。
そして一番奥の一段高くなってる壇上にまるで玉座のような椅子に、伯爵と思われる人が座っていて何人かの貴族と談笑していた。
伯爵は正面で分かれた灰色の長い髪を肩まで伸ばし軽くカールが巻かれていて、口の上と顎のヒゲを上品に垂らした。
「凄い!」
「いい匂いー!」
テーブルには既に料理が並んでいてメイドや執事が果実酒やジュースを振る舞っていた。
「聞きました? 何でも今日のこの昼食会は、宝物庫に忍び込んだ賊を成敗した事を祝して、開かれたんですって!」
「あら、そうなんですの?」
「それで、一体誰がそんな栄誉ある功績を?」
「ほら、中央にいらっしゃるアレクレス様よ」
貴族グループの会話が聞こえてくる。
やっぱりアレクレスが盗賊を捕らえたらしい。
アレクレスは嫌な奴だけどまあ良いか。
ガレオロス盗賊団の一味を一網打尽に出来るんなら。
「どんな方なんだい?」
「第1騎士団の騎士様で、剣の腕も腕で。いずれは騎士団長になると有望視されてるお方よ」
「ほおぉ、それは素晴らしい」
「王都へ帰還中に、たまたまアルセフォンに立ち寄っておられて」
「あらお顔も美形ですわ、ほんと素敵」
みんなアレクレスの本性を知ったらどう思うかな。
「お集まりの紳士淑女、そして幸運なるご客人方! ご注目下さい!」
突然大きく通る男の声が響き渡って、ホール奥の高い壇上の右隅に立つその進行役の男が静寂を待ってから言葉を続ける。
「本日の催しは、不遜にも我がハーツゲッヘ伯爵様の宝物庫に忍び込み、盗みを働こうとした盗賊を、勇気ある者が阻止した事を讃えて開かれました」
「おおおおおおぉーーーーっ!」
パチパチパチパチ…………
場内から歓声と拍手が起きる。
ホールの中央にはアレクレスが誇らしげに立っていた。
「食事の前に。まず先にハーツゲッヘ伯爵様よりその勇気ある者へ勲章の授与を行います」
「えー、まだ食べられないの?」
「こら、しーっ!」
「では伯爵」
「うむ」
子供の声が挟まっても進行役の男は動じずに促すと、椅子からハーツゲッヘ伯爵が立ち上がる。
70歳くらいだろうけど足腰がピンとしており目も力強く風格を感じる老人だ。
伯爵は階段をゆっくり降りてアレクレスの方へ近寄っていく。
俺はアレクレスの勲章授与なんか見たくもないので背を向けた。




