第二幕 誰が、誰を選ぶか 第6話「長老会」
長老会は、村の集会所で開かれた。
議題は「疫病の対処について」とされていたが、実質はミラの扱いを巡るものだと、集まった全員が分かっていた。
ヨーナは、末席に近い場所に座っていた。長老会に名を連ねてはいるが、まだ発言力は強くない。今日は、ただ聞くだけのつもりだった。
最初に口を開いたのは、羊飼いを束ねる年長の男だった。
「はっきりさせておきたい。あの女が来てから、助かった子もいれば、死んだ子もいる。これは、事実だ」
誰も、それを否定しなかった。事実は、事実だった。
「わしは、あの女を追い出せと言っているんじゃない」男は続けた。「ただ、素性の分からない人間を、このまま村に置き続けるのは、正しいことなのか、と聞いている」
「素性が分からないのは、旅の者なら誰でもそうだろう」
別の男が言い返した。ヨーナの隣に座る、比較的若い顔ぶれの一人だった。
「それはそうだが」羊飼いの男は言った。「もし、また誰かの子が死んだとき、我々は何もしていなかったことになる。何もせずに被害が広がったら、それこそ、この長老会の責任だ」
その言葉に、何人かが頷うなずいた。
ヨーナは、口を挟みたい衝動を抑えた。まだ、うまく言葉にできる自信がなかった。
議論は、しばらく平行線をたどった。ミラを信じる声も、疑う声も、それぞれに理由があった。誰も、感情だけで話しているわけではなかった。
そして、村の書記を務める男が、静かに言った。
「裁けと言っているんじゃない。調べろと言っているだけだ」
その言葉に、場の空気が、わずかに緩んだ。
「調べる、というのは」誰かが尋ねた。
「彼女がどこから来て、何を知っているのか。村として、きちんと把握しておくべきだろう。それだけのことだ」
誰も、それに強く反対しなかった。理に適った提案に、聞こえた。
ヨーナは、その瞬間、背筋に冷たいものを感じた。
誰も「裁判をしよう」とは言っていない。誰も「処刑しよう」とも言っていない。ただ、「調べよう」と言っているだけだ。
だが、ヨーナは、祖父の帳面に記されていた、あの裁きの光景を思い出していた。
あの裁きも、最初から「処刑」を目指して始まったわけではなかったはずだ。
小さな、正しそうに見える一歩。
それが積み重なった先に、あの広場があった。
ヨーナは、立ち上がりかけて、また座り直した。
まだ、言葉が見つからなかった。
議論は、「調査のための人選」という話へと移っていった。誰が、いつ、ミラに話を聞くか。手続きとしては、何一つ間違っていないように見えた。
その正しさこそが、ヨーナには、一番恐ろしく思えた。
第6話 完




