第15章 ⑤
第15章 ⑤ 商人
味噌アラ汁は完売だった。
三十食。
全部だ。
私は鍋を見る。
空だ。
良かった。
片付けをしていると。
知らない男が来た。
服が良かった。
靴も良かった。
商人だ。
男が頭を下げる。
「少しお時間を頂けますか」
私は頷いた。
聞くだけなら良い。
男は鍋を見る。
そして聞いた。
「これは何でしょう」
私は答えた。
「味噌」
男が止まった。
何故だろう。
「その味噌はどちらで?」
私は答える。
「洞窟」
男が固まった。
何故だろう。
「作ったのですか?」
私は頷く。
「作った」
男は少し興奮していた。
「作り方を教えて下さい」
私は少し考える。
別に困らなかった。
私は答えた。
「いいよ」
男は紙を取り出した。
凄く真面目だった。
私は少し驚く。
「まず豆」
男が書く。
「潰す」
男が書く。
「よく潰す」
男が書く。
「コウジ」
男が止まった。
「コルジですね」
私は頷く。
「コウジ」
男が少しだけ困った顔をした。
何故だろう。
「続けて下さい」
私は答える。
「塩」
男が書く。
「混ぜる」
男が書く。
「割合は?」
私は少し考える。
そして答えた。
「同じくらい」
男の手が止まった。
なお。
主人公は計量器を持っていない。
「同じくらい」とは主人公の主観である。
商人は後にこの言葉で頭を抱える事になる。
「その後は?」
私は答える。
「瓶」
男が書く。
「詰める」
男が書く。
「どうやって?」
私は答えた。
「ぎゅっ」
男が止まった。
「ぎゅっ?」
私は頷く。
「ぎゅっ」
空気を抜きながら容器へ詰める。
という意味である。
主人公は説明を省略した。
「保存方法は?」
私は答えた。
「日陰」
「それだけですか?」
「うん」
男が天井を見た。
なお。
主人公の洞窟には風通しの良い半屋外空間が存在する。
冬季であった事も幸運だった。
本人は何となくそうしただけだ。
「どれくらい待てば?」
私は少し考えた。
そして答えた。
「出来るまで」
男が止まった。
「何日ですか?」
「うーーーん」
「忘れた」
男が紙を見た。
そして頭を抱えた。
主人公は営業と看病で忙しかった。
正確な日数は覚えていない。
「最後に一つ」
私は頷く。
「何?」
男が聞いた。
「本当にこれで出来るのですか?」
私は答えた。
「出来た」
男が聞く。
「確実ですか?」
私は少し考える。
「多分」
男が黙った。
後に商会は再現実験を行った。
成功した。
だが。
商会の技術者達は口を揃えて言った。
『何故これで成功したのか分からない』
男が言った。
「権利を売って下さい」
私は首を傾げる。
「権利?」
「味噌です」
私は少し考えた。
そして答えた。
「いいよ」
男が固まった。
何故だろう。
「良いのですか?」
私は頷く。
「うん」
男は少し慌てた。
「利益配分は?」
「いらない」
「独占契約は?」
「いらない」
「何故です?」
私は少し考える。
そして答えた。
「面倒」
男が止まった。
味噌は作れた。
でも、結構面倒なんだよね。
豆を潰す。
混ぜる。
詰める。
待つ。
本当に面倒だった。
売ってるならそっちのほうが楽。
私は続ける。
「冬仕度用のお金」
男が頷く。
「はい」
私は続ける。
「あと安くして」
「何をです?」
私は答えた。
「全部」
男が固まった。
「全部?」
私は頷く。
「商会で扱っている、商品全部」
「調味料」
「布」
「毛糸」
「食料」
「針」
「鍋とか、他にも。市価の半額以下で売って」
男はしばらく考えた。
そして頷いた。
「分かりました」
話が早かった。
良かった。
私は頷く。
「ありがとう」
男は何とも言えない顔をしていた。
何故だろう。
やったね。
これで味噌を作らなくて済む。
めっちゃ助かる。
その日の帰り道だった。
私は少し機嫌が良かった。
毎日特売だ!!
多分。




