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閑話 ギルマスの後悔

閑話 ギルマスの後悔


最近ギルマスは少し疲れていた。


原因は分かっている。


魚汁の人だった。


正確には。


今はシチューの人だった。


食堂を見る。


今日も客がいる。


かなりいる。


昼前なのに席は半分埋まっていた。


受付嬢が帳簿を持ってくる。


「今月分です」


ギルマスは受け取る。


数字を見る。


黙る。


もう一度見る。


やっぱり増えていた。


「凄いな……先月の3倍だ……」


食堂の売上。


酒の売上。


滞在時間。


全部伸びていた。


理由も分かっている。


シチューだった。


ギルマスは窓の外を見る。


魚汁の人がいる。


鍋を混ぜている。


いつも通りだった。


変わらない。


受付嬢が言う。


「順調ですね」


ギルマスは頷く。


順調だった。


問題は別だった。


ギルマスは思い出す。


最初の日だった。


専属契約。


断られた。


優先契約。


断られた。


独占契約。


断られた。


そして。


「顔が嫌だった」


ギルマスは頭を押さえた。


今思い出しても納得出来ない。


受付嬢が笑っている。


何故だろう。


その後。


文字を覚えた。


契約書を読んだ。


修正された。


値段も修正された。


取り分も修正された。


営業時間も修正された。


ギルマスは天井を見る。


何故こうなった。


その時だった。


食堂から声が聞こえる。


「今日は無いのか!?」


限定の日だった。


味噌アラ汁だった。


ギルマスは窓から見る。


既に終わっていた。


10食。


完売。


いつも通りだった。


男達が頭を抱えている。


魚汁の人は首を振る。


「無い」


それだけだった。


容赦が無かった。


受付嬢が笑う。


「またですね」


ギルマスは頷く。


まただった。


その時。


冒険者達が何か話し始めた。


東市場。


毛糸。


布。


針。


そんな言葉が聞こえる。


ギルマスは首を傾げた。


何故だろう。


味噌アラ汁の話だった筈だ。


しばらくして。


一人の冒険者が聞いた。


「毛糸ならどうだ?」


魚汁の人が止まる。


そして言った。


「いくら?」


ギルマスは固まった。


受付嬢も固まった。


話が変わった。


「東市場なら安い」


「半額以下?」


「頑張れば」


魚汁の人が頷く。


かなり真面目だった。


そして。


「予約。買えなければ、料金倍」


冒険者達が喜んだ。


ギルマスは理解出来なかった。


何故だろう。


受付嬢が小さく呟く。


「上手ですね」


「何がだ」


「営業です」


ギルマスは食堂を見る。


冒険者達は真剣だった。


かなり。


味噌を探していた筈だった。


今は毛糸を探している。


何故だろう。


その日の夕方だった。


魚汁の人は帰る。


14時だった。


必ず帰る。


何があっても帰る。


「寝具」


と言って帰る。


意味が分からない。


だが。


数日後。


ギルマスは見てしまった。


魚汁の人が市場にいる。


毛糸を見ている。


布も見ている。


値段を聞く。


首を振る。


去る。


別の店へ行く。


また聞く。


首を振る。


去る。


かなり真剣だった。


その時。


ギルマスは理解した。


あいつ。


本当に冬支度している。


マジだ。


金が欲しい訳じゃない。


名誉も欲しくない。


ギルドもどうでもいい。


冬だった。


兄。


妹。


犬。


それだけだった。


ギルマスは空を見る。


そして思った。


最初から普通の契約にしておけば良かった。


失敗した。


受付嬢が横で言った。


「今更ですね」


ギルマスは黙った。


反論出来なかった。


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