第14章 ⑤
第14章⑤ 営業開始
翌日だった。
私は鍋を持ってギルドへ。
大鍋にはシチュー。
小鍋にはあら汁。
今日は営業初日。
その前にやる事がある。
契約内容の最終確認だった。
ギルドへ入る。
受付嬢がこちらを見る。
「おはようございます」
私は頷く。
「ギルマス」
受付嬢が少し笑った。
何故だろう。
奥の部屋だった。
ギルマスは既にいた。
私を見る。
少し警戒していた。
何故だろう。
「何だ」
私は椅子へ座る。
「時間」
ギルマスが止まる。
「時間?」
私は頷く。
「9時から14時」
ギルマスが眉をひそめた。
「短いな」
私は頷く。
短かった。
でも仕方ない。
「帰る」
「何でだ」
私は少し考える。
「寝具」
ギルマスが黙った。
私は続ける。
「冬支度」
「……ああ」
やっと通じたらしい。
兄がいる。
妹がいる。
犬もいる。
寝具は欲しい。
私は続ける。
「蔦集める」
「蔦?」
「寝具」
ギルマスは天井を見た。
私は待つ。
しばらくして。
「分かった」
話は終わったらしい。
次だった。
私は鍋を見る。
「試食」
ギルマスも鍋を見る。
「そうだな」
しばらくすると人が集まった。
受付嬢。
食堂の従業員。
昨日の冒険者達。
そしてギルマス。
私は鍋の蓋を開けた。
シチューだった。
今日は野菜と鳥だった。
器へよそう。
配る。
待つ。
皆が食べる。
静かだった。
少し不安になる。
その時。
受付嬢が言った。
「美味しいです」
別の男も頷く。
「腹に溜まるな」
「これなら仕事前に良い」
私は少し安心した。
良かった。
かなり。
ギルマスも食べている。
黙っていた。
もう一口食べる。
また食べる。
私は聞いた。
「どう?」
ギルマスは答える。
「売れる」
やっぱり。
私は頷いた。
次だった。
私はもう一つの鍋を出した。
冒険者達が見る。
受付嬢も見る。
私は蓋を開けた。
味噌アラ汁だった。
匂いが広がる。
全員止まる。
私は器へ入れる。
配る。
待つ。
皆が飲む。
静かだった。
かなり。
そして。
受付嬢が顔を上げる。
「何ですかこれ」
私は答える。
「あら汁」
知らないらしい。
ギルマスが飲む。
もう一口飲む。
また飲む。
そして言った。
「毎日出せ」
私は首を振る。
「嫌」
全員が止まった。
何故だろう。
私は続ける。
「手に入らない調味料」
ギルマスが頭を押さえた。
どうやら理解したらしい。
良かった。
次は値段だった。
私は聞く。
「いくら?」
皆が顔を見合わせる。
しばらく相談が始まった。
受付嬢が言う。
「銅貨3枚くらいでしょうか」
別の男が頷く。
「魚入りなら3枚半でも売れる」
私は少し考える。
材料。
薪。
手間。
頭の中で計算する。
多分。
大丈夫だった。
私は頷く。
「3枚から3枚半」
ギルマスも頷いた。
そして次。
取り分だった。
ギルマスが言う。
「売上半分」
私は首を傾げる。
「半分?」
「場所代だ」
「食器も使う」
「客もいる」
私は頷く。
確かに。
でも。
私は少し考える。
「その値段なら取り分無し」
部屋が静かになった。
ギルマスが止まる。
「何でだ」
私は答える。
「利益少ない」
本当だった。
私は食材を買う。
ギルドは買わない。
私は続ける。
「別にここじゃなくても売れる」
ギルマスが止まった。
かなり。
私は続ける。
「おばちゃんの所」
受付嬢が吹き出した。
何故だろう。
本当だった。
私は別にギルドでなくても困らない。
登録は必要だった。
販売場所は別だった。
ギルマスは深く息を吐いた。
そして言った。
「三割」
私は考える。
少し考える。
かなり考える。
「いいよ」
話はまとまった。
良かった。
次だった。
味噌アラ汁だった。
私は言う。
「銅貨20枚」
全員止まる。
かなり。
「高い!」
冒険者が叫んだ。
私は頷く。
「味噌」
冒険者は黙った。
ギルマスも黙った。
私は続ける。
「10食」
「10食?」
私は頷く。
「限定」
「少なくないか」
私は少し考える。
そして答えた。
「私の味噌」
全員黙った。
どうやら納得したらしい。
良かった。
私は続ける。
「売れなかったら持って帰る」
「何でだ」
「晩ご飯」
受付嬢が吹き出した。
何故だろう。
本当だった。
兄もいる。
妹もいる。
犬もいる。
食べる。
普通だった。
その時だった。
1人の冒険者が聞いた。
「それがあったら作るのか?」
私は少し考える。
そして頷いた。
「作る」
男達が顔を見合わせる。
私は続ける。
「でも無い」
「そうだな」
「無いな」
皆頷いた。
やっぱり無いらしい。
残念だった。
私は鍋を見る。
明日から仕事だ。
冬までに金貨10枚。
寝具も欲しい。
毛糸も欲しい。
布も欲しい。
頑張ろう。




