第14章 ④
第14章④ 文字
翌日。
私は洞窟の入口へ座っていた。
手には紙がある。
昨日の契約書だ。
私は紙を見る。
文字を見る。
もう1度見る。
読めない。
困ったな。
昨日は何とかなった。
でも。
何とかなっただけ。
私は契約書を見る。
表を見る。
裏も見る。
横からも見る。
やっぱり読めない。
文字を読めないのは致命的だ。
契約書。
値札。
看板。
依頼書。
異世界は思ったより文字だらけ。
私は少し考える。
昨日の事を思い出す。
「これヤダ」
3回言った。
本当に嫌だった。
結果的に正解だった。
多分。
でも。
毎回これでは困る。
私は契約書を見る。
読めない。
やっぱり困る。
文字を覚えよう。
私は立ち上がる。
町へ向かう。
今日は薬草ではない。
キノコでもない。
魚でもない。
勉強だ。
まさかこの歳で文字の勉強をするとは思わなかった。
私は空を見る。
そして歩く。
目的地は決まっていた。
冒険者ギルドだった。
受付嬢は私を見る。
そして首を傾げた。
「今日は販売ですか?」
私は首を振る。
「文字」
受付嬢も首を傾げる。
「文字?」
私は頷く。
「教えて欲しい」
受付嬢が固まった。
しばらく固まった。
「私がですか?」
私は頷く。
「契約書読みたい」
受付嬢は何か察した顔になった。
そして吹き出した。
その後。
勉強が始まった。
私は机へ座る。
紙が置かれる。
文字が書いてあった。
受付嬢が指差す。
日本語で言う50音だ。
私は見る。
受付嬢は1つ1つ指しながら教えてくれた。
思ったより楽しかった。
そして翌日。
受付嬢が聞いた。
「覚えてますか?」
私は紙を見る。
読む。
全部読めた。
受付嬢が固まった。
何故だろう。
私は町を歩いて看板を見る。
肉屋。
読めた。
パン屋。
読めた。
薬屋。
読めた。
主人公は思った。
便利だった。
夕方、ギルドに戻る。
受付嬢を見る。
「契約書」
受付嬢が笑う。
「やっぱり来ましたね」
どうやら予想されていたらしい。
少し悔しい。
かなり。
契約書を借りる。
私は読む。
ゆっくり。
少しずつ。
全部ではない。
でも前より読めた。
私は読む。
読む。
読む。
そして止まる。
「あ」
受付嬢が覗き込む。
「読めました?」
私は頷く。
「3ヶ月」
契約期間だった。
長いな……。
そのまま読む。
そして。
別の紙を見る。
1枚目。
専属。
私は止まる。
2枚目。
優先。
私は止まる。
3枚目。
独占。
…………。
やっぱり嫌だった。
私は立ち上がる。
受付嬢が聞いた。
「どちらへ?」
私は答えた。
「ギルマス」
受付嬢が笑い始めた。
何故だろう。
奥の部屋だった。
ギルマスは書類を見ている。
私を見る。
嫌そうだった。
少し。
「何だ」
私は契約書を置く。
「話がある」
ギルマスが頭を押さえた。
何故だろう。
私は紙を指差す。
「ここ」
ギルマスが見る。
「ここも」
また見る。
「あとここ」
ギルマスが天井を見る。
私は待つ。
「何でだ」
そして答えた。
「嫌」
ギルマスが頭を抱えた。
受付嬢が笑っていた。
私は続ける。
「あと、契約内容変更」
「何を」
「値段」
「書いてある」
「これじゃダメ」
ギルマスが止まる。
私は続ける。
「売れ残りがある時、それもきちんと決まってない」
「期間」
「書いてある」
「変更」
ギルマスは深く息を吐いた。
私は紙を見る。
契約は大事だった。
冬が来る。
兄がいる。
妹がいる。
犬もいる。
失敗出来なかった。
しばらくして。
新しい契約書が出来た。
私は読む。
ゆっくり。
読む。
読む。
裏も見た。
大丈夫だった。
私は頷く。
「これならいい」
「そこまでみるのか...」
ギルマスが椅子へ沈んだ。
かなり疲れていた。
「当たり前。信用してない」
………………。
「そう言えば」
ギルマスが顔を上げる。
少し警戒していた。
「まだあるのか」
私は頷く。
「登録」
部屋が静かになった。
受付嬢が吹き出した。
ギルマスは顔を覆った。
「お前」
私は待つ。
かなり。
「最初それだろうが!」
そうだった。
少し忘れていた。
こうして私は。
冒険者ギルドへ登録した。
名前を書く。
この世界の文字でフルネームは書けない。
(みー)でいいか……
少し悔しい。
年齢を書く。
受付嬢が止まる。
「四十代後半?」
私は頷く。
本当だった。
受付嬢が私を見る。
もう一度見る。
何故だろう。
冒険者証を受け取る。
私はそれを見る。
身分証明だった。
異世界で初めてだった。
少し嬉しい。
主人公は思った。
次は稼ぐ。
冬までに金貨十枚。
頑張ろう。




