第2章 異世界の朝と生活
第2章 異世界の朝と生活魔法②
何がワンチャンなのか。
主人公にも分からなかった。
しばらくして。
男の子が戻ってきた。
鍋は綺麗だった。
私は鍋を見る。
男の子を見る。
鍋を見る。
「あ」
男の子が少し警戒した。
「洗ったの?」
男の子は頷く。
私は鍋を見る。
男の子を見る。
鍋を見る。
「それだ」
男の子は少しだけ呆れた顔をした。
私は気付かなかった。
ともあれ。
鍋は手に入った。
朝ごはんである。
私は早速もやしを投入した。
山になった。
男の子が少し引いている。
私は真顔で言った。
「野菜入れたから健康」
かなり雑な理論だった。
次鍋焼きうどんをアルミ鍋から投入する。
一個。
二個。
三個。
三人分だった。
私は満足そうに頷く。
大きい鍋を借りた理由もこれだった。
男の子は鍋を見る。
うどんを見る。
鍋を見る。
何とも言えない顔をした。
私は気にしない。
健康だからである。
やがて。
鍋の中でうどんが煮え始めた。
ぐつぐつ。
湯気が立つ。
私は満足そうに頷く。
だが。
しばらくして問題が発生した。
私は鍋を見る。
「……これ、汁足りなくない?」
鍋焼きうどんは元々アルミ鍋に汁込みで冷凍されている。
鍋蓋が有ればもやしから水分がでる。だが、ここにはない。
三人前を一つの鍋で煮ていた。
私は腕を組む。
真剣だった。
その時だった。
視界の端に缶詰が映る。
私は顔を上げた。
「あ」
トマト缶だった。
安かったので買ったやつである。
私は少し希望を取り戻した。
「水分足せばいけるのでは?」
男の子は意味が分からない顔をしている。
私は缶を持ち上げた。
そして固まる。
「……プルタブ無い」
沈黙。
私は缶をくるくる回す。
無い。
どこにも無い。
私は真顔になる。
「これ缶切りいるやつだ」
思い出した。
安かったのである。
だから買った。
その結果。
「……開けられない」
異世界で缶切り不足問題が発生した。
私はしばらく缶を見つめる。
缶を見る。
焚き火を見る。
「石でいける?」
主人公の文明レベルがまた少し原始時代へ近付いた。
ちなみに。
缶切りが無い場合の缶詰の開け方。
缶の底をコンクリートブロックなどのざらついた場所へ擦り付ける。
接着部分が削れれば開く。
主人公は知らなかった。
私は石を拾った。
そして勢いよく振り下ろした。
ガン!!
硬い。
「うぉっ!?」
思ったより頑丈だった。
私はさらに叩く。
ガン!!
ガン!!
男の子は黙って見ていた。
危ない大人を見る目だった。
実際かなり危なかった。
だが主人公は諦めない。
「五十九円だったんだぞ!!」
その時だった。
じり……
私は止まる。
何か嫌な音がした。
全員。
ゆっくり鍋を見る。
汁はかなり減っていた。
私は静かに石を置いた。
しかも。
じり……
鍋の底からほんのり焦げる音がする。
私は慌てて鍋を火から離した。
中では。
もやし。
うどん。
残り少ない汁。
が、一体化していた。
私はしばらく鍋を見つめ――
静かに頷く。
「まぁ、食べられればいいか」
五十九円は敗北した。
だが。
朝ごはんは一応完成したのである。
私は割り箸を取り出した。
そしてうどんを持ち上げる。
ぶち。
切れた。
私は固まる。
もう一度挑戦する。
ぶち。
また切れた。
私はしばらく鍋を見つめる。
「……お前、うどんだったよな?」
返事は無かった。
当然である。
私は男の子へ器を渡す。
妹も起きていた。
まだ少し眠そうである。
私はうどんらしき物を取り分ける。
妹はしばらく器を見つめていた。
そして。
ぽつりと言った。
「……うどん」
私は少し感心する。
異世界にもあるらしい。
私は箸を動かす。
だが。
長いうどんが見つからない。
短い。
全部短い。
妹は器を見つめている。
少し不満そうだった。
私は首を傾げる。
「どうした?」
妹は器を指差した。
私はしばらく考える。
そして気付く。
長い麺が欲しいらしい。
私は鍋の中を探した。
もやし。
もやし。
もやし。
「あった」
奇跡的に生き残っていた一本を発見する。
私は慎重に持ち上げる。
妹の器へ入れる。
妹は少し嬉しそうだった。
私は何となく聞いた。
「もやし嫌い?」
妹は答えない。
代わりに。
隣にいた犬へ一本差し出した。
犬は普通に食べた。
私はしばらくその様子を見つめ――
小さく頷く。
「もやし嫌いなのね」
犬は二本目も食べた。
妹は満足そうだった。
朝ごはんは。
そんな感じで進んでいった。




