第2章 異世界の朝と生活魔法
第2章 異世界の朝と生活魔法①
翌朝。
私は寒さで目を覚ました。
「……さむ」
洞窟だった。当然である。
焚き火はかなり小さくなっている。
段ボールは思ったより硬い。
エコバッグ枕は思った以上に首へ来ていた。
文明が弱かった。
私はもぞもぞ起き上がる。
外はまだ少し薄暗い。
犬は既に起きていた。
男の子も起きている。
妹はまだ寝ていた。
私はぼんやり焚き火を見る。
そして。
「あ」
思い出した。
異世界だった。
私は数秒固まり――
「……夢じゃないのかぁ」
少しだけ遠い目になる。
でも次の瞬間。
「冷凍食品!!」
私は勢いよく発泡スチロール箱へ飛びつく。
男の子がびくっとする。
私は箱を開ける。
ひんやりしている。
私は少し安心する。
「生きてる……!」
ギリギリな表現だった。
私はしばらく中身を確認する。
鶏肉。
鍋焼きうどん。
骨無し魚。
冷凍野菜。
私は真顔になる。
「……お前ら、実は一番ヤバイのでは?」
異世界で食中毒は嫌だった。
私はしばらく魚を見つめ――
「あ」
顔を上げた。
「味噌」
男の子が少し首を傾げる。
私は一人ぶつぶつ言い始めた。
「味噌漬けとかあるよね……?」
何で見たのかは覚えていない。
テレビだった気もする。
ネットだった気もする。
でも。
「味噌って保存食では?」
「塩も有りだな」
主人公の知識は時々かなり曖昧だった。
私は勢いよく買い物カゴを漁る。
ごそごそ。
「あった」
取り出した瞬間。
男の子が固まった。
紙袋。
デカい。
私は真顔で掲げる。
「塩」
業務スーパー五キロ。
本気の量だった。
男の子は完全に引いている。
当然である。
主人公は本来ゆっくり消費する予定で買っていた。
だが今は違う。
異世界である。
保存との戦いだった。
私は塩袋を見つめながらぽつりと呟く。
「……お前、今かなり頼もしく見える」
塩は無言だった。
その時だった。
ぐぅぅ……
お腹が鳴った。
私は静かに顔を伏せる。
「……朝ごはんにしよう」
現実的だった。
私は男の子を見る。
「鍋ある?」
男の子は少し不思議そうな顔をした。
だが。
奥へ引っ込む。
しばらくして戻って来た。
鍋だった。
結構大きい。
そして。
凄く汚い。
私は鍋を見る。
男の子を見る。
もう一度鍋を見る。
黒い。
何か付いている。
煤だろうか。
別の何かだろうか。
考えたくなかった。
私はゆっくり顔を上げた。
「……洗った?」
男の子は少し困った顔をした。
「……川」
洗ってはいるらしい。
多分。
私は鍋を見る。
異世界だった。
昨日は火を試した。
今日は洗浄系を試してみよう。
私は鍋へ手を向ける。
「クリーン」
無。
鍋は汚いままだった。
私は少し眉を寄せる。
「違う?」
ラノベによって名前が違う可能性がある。
私は腕を組む。
「ウォッシュ?」
無。
「ピュア?」
無。
「サニタイズ?」
無。
私は真剣だった。
「浄化系かも」
私は再び鍋へ手を向ける。
「ピュリファイ!」
シン……
何も起きない。
犬が顔を背けた。
私はしばらく固まり――
「生活魔法、人気無い世界?」
都合の良い解釈だった。
私は腕を組む。
「いや」
少し考える。
「まだ一日目だし」
異世界である。
魔法もある。
魔物もいる。
なら。
転移者チートもあるはずだった。
少なくとも主人公はそう思っている。
男の子は静かに鍋を持ち上げた。
私はまだ考えていた。
若い頃だったら早かっただろうか。
いや。
待て。
そんな昔に異世界転移ってあったっけ。
私はしばらく考える。
でも最近はおっさんも転移している。
私は真顔で頷いた。
「ワンチャンある」
何がワンチャンなのか。
主人公にも分からなかった。




